とある小説の悪役は哀れな奴隷を愛する
誰かが言った。「愛している」、と。私は応えた。
誰かが言った。「傍にいてほしい」、と。私は応えた。
誰かが言った。「」、と。私は応えた。
誰だったかは思い出せない。もしかしたら私の幻覚だったのかもしれない。だけど胸に深く刻まれたこの苦しさが真実だと告げている。
その誰かはきっとそんな事を言わなかった。私に向けたのは愛情をひた隠しにした狂気と執着だけ。
不器用な人だった。
可哀想な人だった。
正しい愛情の伝え方を知らないから、間違った方法でしか愛せなかった。
私はその人に同情してたし、憎しみすら超えて哀れんだ。かつて私の故郷を滅ぼし、奴隷にまで堕とした張本人。その行動全てが愛ゆえのものだったと言われようと、今更到底許せるわけじゃない。
だけどもし彼の罪が裁かれるというのなら、その一端でも被って地獄に落ちていいと思うぐらいには心を寄せている。
それが好意や愛情かと問われれば、また違うのだろう。たとえどれだけ意地を張ろうと、神にも見捨てられた憐れな人間だ。私一人味方にならないうのなら、それは余りにも酷過ぎる。
もし、また来世があるのなら…。その時は互いに何も知らない子どものまま、挨拶から始められればいいな。薄れゆく意識と凍えるような吹雪の中、私はありもしない夢を見ながら眠りについた。
これは、私と【悪役】になった幼い少年の話だ。
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「アリャカ〜〜!! どこに行ったのよ全く。もう父さんが戻る時間だって言うのに…」
「お姉ちゃん! ごめんなさい。綺麗な花があったから、はいこれ。お姉ちゃんに」
そう言って私は不格好ながらにも完成した花冠をお姉ちゃんの頭にそっと乗せた。お姉ちゃんは約束の時間に遅れたことをちょっと怒ったけど、花冠で機嫌を直したのか怒りながらも口元がにやけている。
「本当に、父さんの気性は分かってるでしょ? また殴られないように行くよっ」
「…うん。ごめんね、お姉ちゃん」
私達のお父さんは、何か少しでも粗相をすると厳しく躾をする。お母さんはそれを止めに入ろうとするけど、いつも殴られて泣いている。
特に私はお姉ちゃんと違ってドジで間抜けだからお父さんに叱られることが多かった。その度にお姉ちゃんが代わりに殴られるから、なるべく家には戻りたくない。
私にはお姉ちゃんしか味方がいない。お母さんは元々私達アーシャ部族の人間じゃなくて、強奪して無理やり妻に迎えられた人だからアーシャ部族特有の褐色肌を持つお姉ちゃんを怪訝にして私ばかりを守る。
それがずっとお姉ちゃんに申し訳なくて、私はいつも謝っている。 でもお姉ちゃんは別に気にしていない、それより白人特有の白肌を持つ私の方がずっと可哀想だと言う。
アーシャ部族がいくら強奪婚が風習とはいえそれは近親相姦をなくすためであって、私のような部族の血が弱ければ弱いほど見下される。それがたとえ首領の娘だとしても、変わることはない。
数百年の歴史を誇る数少ない戦闘民族だからこそ、強さがなければ同じ部族ではない。私はその強さがなかった。どれ程努力を積み重ね用と、生まれ持った資質までは変えられない。
お姉ちゃんはずば抜けてその資質を持っていた。だから次期族長とまで言われているし、豪気でいて信頼の厚い性格から皆に慕われている。
比較され貶されることがいくらあろうと、私はそんなお姉ちゃんが誇りだった。
「お姉ちゃん、お父さんは何て…?」
お父さんからの呼び出しはいつも私を外してから行われる。応じなければ殴られるけど、応じても外で待機してお姉ちゃん一人が中に入る。たまに天幕から出てきたお姉ちゃんの頬が真っ赤に腫れ上がっていることがあるから、私はいつも心臓が痛い。
「もうこの拠点を去るんだって。次はもっと北に行くって」
「でもこれ以上北に行ったら帝国の領土に入るんじゃ…」
「もうそんなことまで覚えたの? 天才だよアリャカ!」
まるで自分のことのように喜んでくれるお姉ちゃんのために、役立たずな私でも何か一つやってみたかった。地図を覚えてて良かったな。
「明後日の早朝には天幕を下ろすらしいから、今のうちにお母さんと荷物をまとめておいで」
「お姉ちゃんは?」
「私も荷物をまとめるよ。お母さんは私といるのが嫌いだから、お願いね」
「…うん。分かったよお姉ちゃん」
お母さんはあんまり好きじゃない。私のために見を呈してお父さんの暴力から守ってくれるけど、私を見る目が嫌いだった。私を通して私じゃない何かを見るあの目。会話だって、一方的に喋るだけでお父さんとはまた違う恐ろしさを感じる。
だけどこんなこと、お姉ちゃんには言えない。ただでさえお母さんの愛情を知らないお姉ちゃんに、そんな無遠慮なこと言えるわけもない。
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いつの日か少数民族として暮らしていたアリャカの元に川から流れてきた重症の少年。民族は多民族を受け入れない。ひっそりと看病。
三日三晩かけて看病しようやく死地から脱出した少年。アリャカの民族は転々と住む場所を写していた。しかしある日帝国軍が攻め込み唯一の姉が奴隷として貴族にとられてしまう。姉を救うべく乗り込み姉を救ったもののアリャカがとらえられてしまう。
貴族は少年であり、あの日のことを覚えていた。アリャカに異常な執着をして躾を施す。すっかり従順になったアリャカ。
非道の限りを尽くす主君に、哀れみの目を向ける。主君は実の父に虐待まがいの躾をされており、月に一度地下の監獄で鞭に打たれている。もはや共依存の関係であり、痛みすらも愛情に近かった。
痛みに動けず声を殺して耐えている御主人様を見て、ざまぁみろ、と思った。私の痛みを、苦しみを。味わえと。
だけどそれが数十分も立つと、そんな思いは甚だ消えていた。いつもの御主人様じゃない。ただやられてばかりの、私と同じように理不尽な扱いを受けている。
御主人様なら当然彼らを圧倒できる実力を持っているのに…。
そう思うと、どんどん私にも分からない感情が溢れ出て気づけば力の入った手から血が滲んでいた。
ようやく躾けの時間が終わると、彼らがいなくなったことを確認して御主人様は立ち上がる。まだその背中には痛々しい焼けたような傷が残っている。鞭で打たれ、ただれた肌が顕になっているのだ。
だけど御主人様は叫び声も弱音も一切吐かず、それを当然と言わんばかりに歩いた。のそっとしたのろい歩きで、途中ふらついて壁にぶつかることはあっても、絶対に足を止めなかった。
あの人達がこれを愛だと言って今までも繰り返していたなら、御主人様が壊れてしまったんだ。痛みを感じるくせに、声の一つも上げれないぐらいに。
「…お支えします」
「離せ。アリャカ」
「命令をお聞きできない罰なら体調が優れたときにいくらでもなさってください。だから今だけは、お休みになられていいんです」
「………」
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最後に爵位を剥奪されて主人公に重症を追わさせられる。雪山まで逃げて吹雪に閉じ込められる二人。まだだ、まだ…と足掻く少年に「もういいんですよ…。もう大丈夫。此処には貴方を苦しめる人は誰もいません。もう、休んでも大丈夫です」と庇いながら傷だらけで言うアリャカ。
微睡むように眠りにつく少年。雪山に彼らの痕跡は何一つ見つからなかった。終わり
めちゃ矛盾点多いけど思いついたまま記憶辿ってかいたからこんな感じ。漫画で言うとネームぐらいの下書きだしね。
細かく人物設定していくとこれ。↓
少年 ディオスは幼い頃の凄惨な後継者争いに巻き込まれ日々命を狙われていた。その過程で優しさとは罪であり、痛みこそが真の愛情だと信じて疑わない性格になる。
守るために殺し、大切な人間以外はどうでもいい。アリャカは唯一自分を守り、温かさを教えてくれた人だから絶対に手放したくない。逃げるなら殺すし他の人間に意識を向けてほしくないから痛みで教える。
主人公は亡国の王族で帝国のレジスタンスとして秘密裏に活動していたが、アリャカに優しく接した(まだお互い正体を知らない)ことでディオスから怒りを買う。主人公が仲間にしていた人の中には姉がおり、中盤に気づく。姉は妹が奴隷にされていることに憤慨する。ここで二人の母親が主人公の親と血縁関係にあったことが知らされる。つまりアリャカは亡国とはいえ同じ王族の末裔であったのだ。
アリャカへの躾も込めて殺すように指示する。が、どうしても人を殺すことができなかったアリャカは返り討ちに会ってしまい大怪我を負う。
そのことに怒りが心頭したディオスが主人公達を探しだす。その途中折り合いの悪かった皇室から魔竜討伐の命令を下され、従わないのなら皇女と結婚するよう言われた。
アリャカに異常な愛情を持つディオスにとって、それは選択するまでもないこと。味方を信用していないディオスは単身で魔竜討伐に向かう。
その情報を知った主人公達は激しい戦闘で弱ったディオスを追い込む。あと一歩のところでアリャカが身を挺す。このとき何本か背中に矢が刺さる。
雪山まで逃げるが、結局お互いに永遠の眠りにつく。皇室や主人公達が遺体を探したが、痕跡一つ見つけられなかった…て感じ。
我ながら想像力の化身だわ。うんうん。
因みにアリャカの設定としてはディオスにこれ以上罪を重ねてほしくない。だけど少年は独りだから傷つける人間には容赦しない性格。
最初は逃げ出したい一心だったけど、外に出されて世話を焼いている内にディオスの取り巻く環境の酷さに目を疑った。
子供のまま成長しないディオスを憎ましくも愛しく思っていた。的な物語を時間があれば書きたいな! 絶対無理だろうけど! アハハ(;゜∇゜)




