ばんばんと鳴く犬
「うちの犬は鳴き声が変わっているんだ。聴きに来てみないか」といわれ、友人の家に行くと、部屋の隅に繋がれて四歳ぐらいの男の子がうずくまっていた。私たちが入ってきたのを見ると、ピストルの弾を放つような声で鳴く。
「ほんとうだ。変わった鳴き声だ。『ばんばん』って鳴くんだな」
私がいうと、友人は笑いながら首を横に振った。そして、いう。
「違うよ。これは『あんぱん』って鳴いてるんだ。コイツ、犬のくせにあんぱんマンが好きでね」
友人がそういうと、犬が怒った表情をして首を横に振った。そして、いう。
「ばんばん!」
「ほら、『ばんばん』じゃないか」
私がいうと、友人の妻が現れて、悲しそうに首を横に振った。そして、いう。
「違うわ。この子は『bowwow』っていってるのよ。どうして日本人にはそう聞こえないのかしら」
彼の妻はアメリカ人だ。
その間にも男の子は威嚇するように喚き続けた。
「ばんばん! ばんばん!」
とりあえずこの子に銃を持たせちゃいけないな──そんなことを思いながら、私は友人に面白いものを見せてもらった礼をいい、彼の家を出るとすぐに警察に電話をしようとして、やめた。
警察は、事件が起きてからでないと、動かないからだ。