Part9:狼男
フリーイラスト その9【狼男】
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彩色例
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シチュエーション例・ショートショート
赤ずきんは早く逃げなければと、足を早めていました。
ここは深い深い、森の中。おばあちゃんのお見舞いで通い慣れたはずの道なのに、その日の赤ずきんはとっても不安です。
「ヤァ、赤ずきん。そんなに急いでどこに行くんだい? もしかして、迷子か?」
「別に、迷子になんかなっていませんよ?」
「そうかい? それにしちゃぁ、いつもとルートが違うぞ? 迷っちまったんなら、おばあちゃんの所まで案内してやろうか?」
「まっ、間に合っています!」
今日ばかりは、狼を頼る訳にはいきません。普段は楽ができるからと、狼におばあちゃんのお家まで運んでもらうのですが……もう、彼に運んでもらう必要はありません。だけど、このまま彼を森に置いていったら、すぐにバレてしまうことでしょう。実はおばあちゃんが死んでしまっていることに。
「よし! だったら……狼さ〜ん!」
「お? 呼んだか、赤ずきん」
「あのね……私、引っ越すことにしたの……」
「そうなんだ? それじゃぁ、おばあちゃんはどうするんだ?」
「おばあちゃんは大丈夫よ。親戚の人がお迎えに来るから」
「へぇ……そっか。それじゃ、その間に……」
「あっ、だから! 狼さんがおばあちゃんを見てくれる必要もなくて!」
先回りで「必要ない」と言われて、狼はシュンと耳を垂らして悲しそうな顔をします。その様子に……やっぱり、彼も連れていくべきだと、赤ずきんは決断するのです。
だって……彼はとっても、赤ずきん好み。彼の毛並みを堪能できなくなるなんて、彼女にはもう考えられない事でした。
「でも、ね……私、狼さんとは一緒にいたいの。だから、一緒に引っ越さない?」
「はっ? 何を言っているんだ、赤ずきん。イマドキ、狼男は珍しくないのかもしれないけど……色々と、話をぶち壊してない? 童話的に」
「別にいいじゃない。狼さんのモフモフがあれば」
「そもそも、根本からズレている気がする。でも……赤ずきんがそう言うんなら、まぁいいか」
理解はできないけれど、納得はしたほうがいいだろうと、狼はあっさりと割り切ります。本当は彼だって、知っているのです。赤ずきんがお見舞いが嫌で、おばあちゃんに少しずつ毒を盛っていたのを。でも、狼は狼で、本当のことを告げようとはしません。
だって……赤ずきんはとっても、狼好み。彼女にブラッシングをしてもらえなくなるなんて、彼にはもう考えられない事でした。
(毒林檎だなんて、明らかにオハナシを間違えている気がするけど。いずれにせよ、ククク……これで、赤ずきんは俺のモノだ。これからは毎日、ナデナデしてもらえるな)
送り狼から正式な同居人に昇格して、彼女のブラッシングを想像しては、狼もご機嫌です。
……何も解決していないし、完全によろしくない結末を迎えそうですけれど。2人にとっては、自分達が幸せならそれでいいのです。何せ……物語の勧善懲悪は読者が望んだ事であって、彼らが望んだ事ではないのですから。