Part3:老執事
フリーイラスト その3【老執事】
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彩色例
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シチュエーション例・ショートショート
「今日であなたの淹れた紅茶とお別れなのは、寂しいわ」
手慣れた様子で執事が差し出す紅茶を口に含めば。香りも渋みも、何もかもが大好きな風味が口いっぱいに広がる。だけど……多分、この味を心ゆくまで楽しめるのは今日が最後。だって、私は明日から別の家の人間になるのだもの。
「ねぇ、爺や。どうしても……付いて来てはくれないの?」
「申し訳ございません、お嬢様。私は当家の家令にございます。この家を離れる訳には参りません。それに……」
「あぁ、その先はいいわ。……どうせ、王家のお茶も美味しいはず、って言いたいのでしょ?」
「その通りにございます」
でもね、私は知っているの。向こうの執事は気位が高いだけで、何もかもが爺やに及ばないって事くらい。
「……お嬢様。此度のことは、今生の別れになる訳ではないのですよ。いつでも、遊びにいらっしゃって良いのですから。しかも、明日の門出はお嬢様の努力が実った結果でもあります。王家との婚礼は非常にめでたく、栄誉ある事。私も鼻が高いです」
爺やは私を慰めるように、そんな事を言ってくれるけど。でもね、私はそれも知っているの。王家に輿入れしたら、滅多な事では帰って来れない事くらい。事実上、一生のお別れになるかもしれないわ。
「もぅ、折角の紅茶が……なんだか、しょっぱいわ。悪いのだけど……もう1杯、お願いできる?」
「えぇ、もちろんですよ。お嬢様のお気が済むまで……何杯でも淹れて差し上げます」
1杯、2杯……いくらでも。
……あぁ。大好きな爺やの紅茶が塩辛くなくなるのは、果たして……何杯目かしら?