Part17:吸血仲間
フリーイラスト その17【吸血仲間】
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彩色例
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シチュエーション例・ショートショート
「あぁぁ! 眠れぬ! 眠れぬぞ!」
ムシムシと暑い、熱帯夜。確かにこの暑さでは、「普通の人間であれば」ぐっすり眠れるはずもありません。苛立ち紛れにガバと起きた彼も、この無視できない暑さで安眠を妨害され……おや? どうも彼の眠りを妨げるのは、茹だるような蒸し暑さではないようですよ……?
「おのれ、小癪な……! この我を誰だと思っている……!」
おぉっと⁉︎ いかにも偉そうな事を言い出した彼は、どうやら普通の人間ではないみたいです。ギロリと並ぶ犬歯を剥き出しにしては、誰もいない空間にガミガミとお説教を始めました。
「くっ……! この至高なる我の血を吸うなど……! 我をなんと心得る! 我こそは、伝説に名高い真祖のヴァンパイ……あぁッ⁉︎ い、今……チクっとキタァ⁉︎ チクっとキタァァァ‼︎」
なるほど、なるほど。彼はいわゆる吸血鬼のようですね。しかし、血を吸うのが本職の彼でも、血を吸われるのは慣れていない様子……。同じ吸血仲間である「蚊」にガルルと唸りながら、パチンパチンと空振りの拍手を幾度も繰り出します。
「だから、やめェぇぇぇい! せ、せめて……耳周りを飛ぶな! あと、ちょっとくらい血は分けてやってもいいから、痒くするな!」
ブゥ〜ン……。ブゥ〜ン、ブンブン、ブゥ〜〜〜〜ン……。
「こ、この……! こうなったら……!」
やや不本意なご様子で、お説教を無視する蚊に襲われながらも……ヴァンパイアはガサゴソと戸棚から燭台を取り出しました。でも、燭台に取り付けるのは蝋燭ではありません。これまたガサゴソと引き出しから、グルグルと渦を巻いた、小洒落た形のお香を取り出します。
……シュボッ! 器用に指先から青白い火を出して、お香を温めれば。忽ち、立ち登るのはかなりの量の煙と、なんとも言えない独特な香り。そして……あら、不思議。さっきまであんなに煩かった蚊が、忽ち大人しくなるではありませんか。
「人間の文明に頼るのは、非常に不服だが……まぁ、いい。これでゆっくり眠れるというものだ」
ヴァンパイアさえも絶大な信頼を寄せるお香はどうやら、人間達伝統の一品の様子。箱に描かれたマスコットキャラクターらしき「鶏」さえも、どこか誇らしげに見えるのですから、不思議なものです。
そうして、ヴァンパイアは今一度フンと不満そうに鼻を鳴らしつつ、寝床に戻って行きました。……今年も「鶏に頼る夏」がやってきたと、辟易しつつ。それでも、香りは嫌いじゃないと……ようやく夢の世界へと旅立っていくのです。




