Part14:魔女
フリーイラスト その14【魔女】
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彩色例
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シチュエーション例・ショートショート
「何を泣いておるのだ?」
メソメソと僕が泣いていると、頭のてっぺんから声が降ってくる。慌てて顔を上げれば……そこには僕と同じくらいな女の子が、こちらを心配そうに覗き込んでいた。だけど……彼女の大袈裟ないでたちを見れば、普通の女の子じゃないことも分かりきっていて。臆病な僕は思わず、後退りしてしまう。
「魔女……?」
「そう乗っけからに怖がるでない。別に、お前を取って食ったりはせんよ」
あどけない表情なのに、口調はどこまでも古めかしい。でも、綺麗な瞳は僕の何もかもを見透かすようにどこまでも澄んでいて……やっぱり、どことなく恐ろしい。
「どれ、どうやら臆病らしいお前には“勇気”をやろうな」
「ゆ、勇気……? それって、貰えるものなの?」
「魔女に不可能はないぞ?」
本当かなぁ……。
カラカラと無邪気に笑う彼女に悪意はなさそうだけど、同時にそんなに凄い相手でもなさそうだと、僕は思ってしまう。第一……そんなものが簡単に貰えたら、苦労はしないよ。……言われたことに傷ついて、言い返す勇気もなくて。ただ、蹲るしかない僕に……勇気が貰えるなんて、信じられない。
「ほれ、手をお出し」
「えっ?」
ちょっと強引に掌に押し付けられたのは、丸い何か。恐る恐るそっと指を開くと……そこには真っ赤な包み紙でおめかしした、キャンディが転がっている。
「ふふ……情熱の真紅は勇気の色。もし勇気が必要ならば、そいつを口に含むと良い」
「あ、ありがと……」
だけど、僕がお礼を絞り出そうとした時には、彼女は忽然と姿を消していた。さっきまであんなに近くにいたのに。やっぱり、彼女は本物の魔女だったのかな……?
(だとすると……)
このキャンディも本物なのかも。僕は思い切って、キャンディを口に放り込む。そうして……ピリッとちょっぴり刺激的なそれは、僕の中で燃えるように熱く熱く溶けていった。
これならきっと、次は負けなくて済むかもしれない。今度はきっと、言いたいことを言い返せそうな気がする。
***
「……適当に渡してみたが、存外に効果があったようだな? ふむ……やはり、人間の心は面白い」
次の日。学校で陰湿な陰口に抵抗するように、堂々といじめっ子達を言い負かしている少年を見つめながら……魔女はほくそ笑む。
なんて事はない。彼に渡したのは、ちょっぴり刺激的なだけの、タダのキャンディだ。魔法なんて、最初からかかっていやしない。それなのに少年はしっかりと「勇気」を身につけ、ちょっぴり逞しい顔をしている。
「何事も必要なのは、きっかけだけじゃ。……案外、魔法よりも人間の心の方がよっぽど、摩訶不思議かもしれんの」




