エリザベスと魔女
昔々あるところに、とても可愛いお姫様がおりました。彼女の名前はエリザベスと言います。彼女はいつも一人で遊んでいましたが、ある時、絶望者の王国へと迷い込んでしまいます。そこの住人達は皆おかしな格好をしていました。住民はエリザベスに願いことがないかと尋ねます。
そうだ! せっかくだから、何か一つ願い事を言うといい。出来る範囲で叶えられると思うから。
おっと! 勘違いしないで欲しいんだけど、これはあくまでサービスであって、決して見返りを期待しているわけじゃないんだよ。ただ、ちょっとした気紛れなんだ。
それで、どんな事がいい?…………へぇ、そうなんだ。うん、分かった。じゃあ、そういう事で。楽しみにしてるよ。それじゃ、また後で。
しかし、住人達の中には恐ろしい怪物もいて、そんな彼らから逃げながら、エリザベスは出口を探し続けます。しかし、なかなか見つかりません。それでも諦めずに歩き続けていると、ようやく森を抜け出す事が出来ました。
けれど安心する間もなく、今度は海が見えてきました。そこでエリザベスは船を見つけて乗り込みます。船はどんどん進んでいき、ついに陸地が見える所までやってきました。ところが、船が陸に近付いた途端、突然大きな波が起きて船をひっくり返してしまいます。
気が付いた時にはもう遅く、エリザベスは海に放り出されてしまいました。必死にもがきながらなんとか岸に辿り着くと、そこには小さな家がありました。扉を開けると中から声が聞こえてきたので、恐る恐る入ってみる事にしたのです。すると中には一人の老婆がいました。その人は魔女でした。
「ここは絶望者の王国です。あなたが望むならどんな願いだって叶います」
魔女は言いました。
「本当に何でも叶えてくれるのですか?」
「もちろんですよ。ただし、一つだけ条件があるのです」
「それはなんでしょうか?」
「あなたの一番大切な物を差し出して下さい。それが出来ないというならば、何も与える事は出来ません」
「分かりました」
エリザベスはすぐに答えを出しました。そして自分の持っていた時計を渡すと、魔女はそれを受け取って魔法をかけ始めました。するとたちまち辺り一面真っ白になり、気が付けば元の場所に立っていたのです。こうして無事に家に辿り着いたエリザベスでしたが、その時すでに夜になっていました。疲れ切っていた彼女はそのまま眠りについてしまったのです。
目が覚めた時、外はすでに明るくなっており、太陽の位置も高く上がっていました。急いで起き上がった彼女は、家の外に出ると、目の前に広がる光景を見て驚きの声を上げました。なぜなら、そこはまるで別世界のように綺麗になっていたからです。花畑では色とりどりの花達が咲き誇り、木々も青々としています。空も雲ひとつない快晴で、鳥たちが楽しそうに飛び回っていました。そして何より驚いたのは、自分が着ている服でした。昨日まで来ていたボロ布のような洋服ではなく、可愛らしいドレスを身に纏っていたのです。驚いていると、どこからか足音がして誰かが現れました。それはあの魔女でした。
「おはようございます。よく眠れたようですね」
「えぇ、ありがとうございました」
「いえいえ。ところで、何か欲しい物はありませんか? なんでも差し上げましょう」
そう言われても、エリザベスには特に思い当たる物がなかったので首を横に振りました。すると、魔女は残念そうにしてこう言ったのです。
「そうですか……それはとても困った事になりましたね。実は私は今、とても喉が渇いているので、代わりに飲んでくれる人を探していたんですけど……」
それを聞いたエリザベスは慌ててポケットの中を探ると、そこにあったはずの時計が無くなっている事に気付きました。
「あぁ!やっぱり持っていってしまったんですね!」
「すみません。でも、どうしても必要なものだったものですから……」
「それにしても、どうして私の持っている物を欲しかったのですか?あれはとても貴重なものなんですよ。それを知らずに奪うなんて、酷い話だと思いませんか?」
「申し訳ありませんでした」
魔女は素直に謝罪の言葉を口にした。
「返してあげます。だからその代わりにお願いを聞いてくれませんか?」
「どうしてそのようなことをしなければならないのでしょうか」
「簡単な事です。これから毎日ここに来て、お茶会に参加してくれないでしょうか?」
「そんな事で良いのですか?」
「はい。その代わりと言っては何ですが、あなたが望むものを何でも与えてあげるとしましょう」
「本当ですか!?」
「約束いたします」
「分かりました。必ずお伺いしましょう」
こうしてエリザベスはこの絶望者の王国に頻繁に通うようになりました。最初は少し怖かったけれど、今ではすっかり慣れてしまいました。魔女とのお茶会は楽しくて仕方がありません。お菓子や紅茶はもちろんの事、トランプを使ったゲームをしたり、お喋りを楽しんだりしました。そんなある日、いつものようにお茶会の席に着くと魔女がこんな事を尋ねてきました。
「ねぇ、あなたはどんな願いを持っているのかしら?」
「願いですか?」
「そうです。もし良かったら教えてくれないかしら?」
「そんな急に聞かれましても……」
どう答えたら良いか分からずに戸惑っていると、魔女は優しく微笑みながら言いました。
「大丈夫ですよ。どんな願いだって叶えてあげられるのですから」
その言葉を聞くと、なぜか心が安らぎました。そして自然と答えが出ていました。
「大切な人とずっと一緒に居たいです」
すると魔女は嬉しそうな顔をして言いました。
「あら、素敵な願いじゃないですか。だったら叶えてあげましょう」
その途端、エリザベスの身体が光り輝き始めました。
「これは一体?」
「あなたが望んでいる事が現実になる魔法です。これでもう離れる事はないわ」
「本当に?」
「えぇ、もちろんですよ」
「ありがとうございます」
こうして二人はいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし。