【095】パブリックサーヴァント③
一
場所は統一国家ユーエス。
首都ルエーミュ・サイの中にある、とある公園にて。
実技試験を終えたアポロは、同じく実技試験の為に郊外へと向かったセリリの帰りを待っていた。
(――――試験会場にいたあの魔術師……。人という生き物は、あれ程まで強大な存在になれるというのか?)
そしてアポロは、実技試験で目の当たりにした、異次元の魔術師のことを思い出していた。
(あんなのがルエーミュ革命に関わっていたんだとしたら、失敗する方が難しかっただろうな……。しかし、あれだけの力をもってして、なぜ国家の役人のような器に収まっているのだろうか……。事実上、彼女がこの国を支配していると考えた方が妥当なのか……?)
アポロはその魔術師――G・ゲーマー・グローリーグラディスのことを知らなかった。
しかしながら、その時に感じられた実力が本物なら、一つの国家ぐらい彼女一人でも簡単に支配出来るだろうと考えていた。
「――――アポロちゃん、試験どうだった?」
「……」
「あ、アポロちゃん?」
「セリリか。早かったな」
待ち人であるエルフの女性に声を掛けられ、アポロは顔を上げて応じた。
「考え事?」
「暇だったから色々考えていただけだ」
「そう。――――それで……、試験、どうだった?」
「ああ。色々あったが、採用はしてくれるそうだ」
「あ、そうなんだ……」
エルフの女性は手放しに喜ぶような真似はせず、むしろ気まずそうにそう頷いた。
「もしかして、セリリは駄目だったか?」
「実技試験、私の得意な弓だったんだけどね……。優秀な人達ばかりで、その中でも本当に凄い人が選ばれてたわ」
エルフの女性は若干の悔しさや諦観のようなものを滲ませながら、溜め息をついた。
アポロ自身も、自分が足を運んだ会場には優秀な魔術師が集まっていたと思っていた。
アポロが実技試験も無事に突破出来たのはアポロ自身が例外的に優れた魔術師だったというだけで、全体からすれば非常に優秀な魔術師達が集まっており、そこで試験を通過できなかったからといって恥じる必要性は全く無いとアポロは考えていた。
「――――実を言うと、返事は保留にしてもらったんだ。だから……、セリリが一緒ではないというのなら、私はこの話を無かったことにしようと思っている」
「あ、いや、その、ね? 弓の試験は駄目だったんだけど、事務処理能力がどうのこうので、代わりのお仕事は紹介されたの。だから職場こそは違うかもしれないけれど、一緒に統一国家ユーエスで働けるそうよ」
「それは本当か?」
「うん。だから私のことは気にしないで。――――それに、あんなに厳しい競争を勝ち抜いたんだし、断るなんてもったいないわ」
「……そうだな。――――そういうことなら、そうしよう」
アポロは淡々とした様子でそう言った。
二
統一国家ユーエスにて大規模な採用試験が行われた日程より少しばかりさかのぼった頃。
鹿羽達のギルド拠点の廊下にて。
鹿羽は、B・ブレイカー・ブラックバレットと向かい合って会話を交わしていた。
「――――それはつまり、採用試験の視察、ということでしょうか」
「いや、そこまで大層な話じゃないんだが……。皆が頑張っている中、俺だけ大人しく待っている訳にはいかないだろう。――――勿論、迷惑ならやめておくが……」
「い、いえ! とんでもありません! 是非!」
B・ブレイカー・ブラックバレットは前のめりになりながら、ハッキリとした口調でそう言った。
(是非……?)
対する鹿羽はB・ブレイカー・ブラックバレットの予想外の反応に若干困惑しながらも、気を取り直して口を開いた。
「――――まあ、あくまでどんな風に統一国家ユーエスが人材を集めているのか気になっただけだ。端っこの方で大人しくしているから、気にせず職務を全うしてくれ」
「このB・ブレイカー・ブラックバレット、必ずやご期待にお応え出来るような成果を上げて見せましょう」
(……試験官の仕事って、成果を上げるようなものだったか?)
鹿羽としてはB・ブレイカー・ブラックバレットの真面目な職務態度は非常に好感の持てるものであったが、やや張り切り過ぎて空回りしているようにも思えた。
(まあ、真面目なことは良いことだ。多分)
そして鹿羽は、それは決して悪いことではないと思い直して、深く考えないことにした。
三
場所は統一国家ユーエス首都ルエーミュ・サイ。
鹿羽は予定通り、B・ブレイカー・ブラックバレットが受け持つ会場にて、これから始まるであろう実技試験の進行を見守っていた。
(昨日も少し筆記試験の様子を見させてもらったが、人数がとんでもなく絞られているな……)
鹿羽は上の階にあるフロアから受験者達を見下ろしながら、そんなことを考えていた。
一方、B・ブレイカー・ブラックバレットはというと。
(カバネ様が見ている……。絶対に、絶対に失敗は許されない……)
鹿羽が見ているということで、B・ブレイカー・ブラックバレットはただならぬ緊張感を放ちながら、受験者達へ厳しい視線を投げ掛けていた。
「――――なあ。ブラックバレットだったか? 殺気ぐらいは抑えろよ。みんなビビっちまってるじゃねえか」
「この程度何の問題も無い。むしろこれで怖気づくようでは話にならん」
「いや、俺もけっこうビビってるんだけどな……」
試験官の一人として遥々フィリル村から足を運んだ赤毛の男――ライナスは、呆れた様子でそう呟いた。
「――――ライナス様。受験者が全員集まりました。予定通り試験を行えるかと」
「分かった分かった。お前らの方で上手く進めてくれ。――――たく。昨日今日で呼ばれた俺がなんで副責任者なんだよ……」
「――――――――待て。一人、怪しい者がいる」
「あん?」
B・ブレイカー・ブラックバレットはそう言うと、一人の受験者のもとへと歩み寄った。
そのままB・ブレイカー・ブラックバレットは、その受験者を強く睨み付けた。
「……あ、あのー、何か問題があったでしょうか?」
「ほう? 心当たりはないか?」
その受験者の女性は愛想笑いをしながらそう言ったが、対するB・ブレイカー・ブラックバレットは厳しい表情を崩さずに続けた。
「――――不自然な染料の匂い……、髪でも染めたか? そして表面上は槍を持参してきてはいるが、随分と良い得物を隠し持っているようだ。本業は盗賊と言ったところか」
「え、なんで分かるの? ヤバない?――――うぎゃあ!?」
瞬間、B・ブレイカー・ブラックバレットは目の前の女性を掴み上げた。
「――――招かれざる客め。さて、どうしてくれようか」
「ひ、ひいいっ!?」
掴み上げられた女性は涙目になりながら、大袈裟に悲鳴を上げた。




