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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
四章
90/200

【090】赤く染まれ①


 一


「――――<黒の断罪/ダークスパイク>」

「出し惜しみか? その程度の魔法では時間稼ぎにもならないぞ」

「……かもな」

「はっ! いたずらに魔力を消費しても良いというのなら、勝手にするがいい」

「そうさせてもらうさ」


 ローグデリカの言葉に対し、少年は淡々とそう言った。


(――――まともに戦っても勝てないと理解しているのか、守りに徹しているな……。魔法の使用も最低限にとどめている……。何が狙いだ?)


 挑発的な言動に対しても保守的な姿勢を崩さない少年に、ローグデリカは少年の考えていることが掴めないでいた。


 そんなローグデリカの隙をつくように、少年は魔法を唱えた。


「そうやって油断してると足をすくわれるぜ?――<業炎/フレイム>」

「ち――――っ」


 少年から飛び出した炎にローグデリカは回避することが出来ず、僅かな火傷を負った。


 しかしながら、ローグデリカからしてみればあまりにも威力に乏しい攻撃であり、やはり少年の狙いが分からないでいた。


「――――随分と地味な戦い方だな、愛する者よ。今なら押し切った方が勝機があるのではないか?」

「そうか?」

「……」


 少年はただ、淡々とした反応を返すのみだった。


(分からない……。地道にダメージを蓄積させて勝つつもりなのか……? 鹿羽は比較的堅実な、セオリー通りの戦いをする筈……。相手を翻弄するようなこの戦い方はまるで――――――――)


 瞬間、ローグデリカは思い出した。

 相手を手のひらの上で弄ぶような、そういった戦い方を得意とする一人の少女の存在を。


 ローグデリカは表情を歪めて、忌々しそうに少年を睨みつけた。


「――――貴様……っ、まさか……っ」

「おっと。流石にバレるか。――――ようやく気が付いたのねー。んふ」

「麻理亜ぁ……っ!」

「きゃーこわい」


 少年が冗談めいた様子で呟いた時には、そこには少年ではなく、楽しそうに笑う少女が立っていた。


「ふふ。バレっちゃったならー、演技する必要もないよねー。――――――――<時間停止/ロストタイム>」

「く――――っ!」

「あら、避けられちゃった。当たったら私の勝ちだったのに」


 少女――麻理亜はボヤくようにそう呟いた。


(相変わらず博打みたいな戦いを……っ。――――――――なら鹿羽は何処だ? まさかここに来ていない……?)


「あら、よそ見なんて余裕ねー。誰かをお探しかしらー?」

「――――いないならそれでいい。残った貴様をなぶり殺すまでだ」

「そんなこと言ったって私は死なないよー、と。――――そうそう。貴女に会わせたい人がいるの。会ってくれるかしらー?」

「なんだと……? まさか――――」


 ローグデリカは、麻理亜の視線の先へと振り返った。

 そして、麻理亜はもう一度楽しそうに笑うと、視線の先に向かって大げさに手を振った。


「――――麻理亜。よく時間を稼いでくれた。こっちは準備完了だ」

「そう? なら良かった♡」


 視線の先で、鹿羽は魔法陣を展開させながら、ローグデリカを見据えていた。


「全ては極位魔法の時間稼ぎという訳か……っ!」

「――――ああ。その通りだ。流石に時間がかかったな。普段の対戦なら使う暇も無かっただろうさ。そんな訳で、俺のとっておきを食らってもらうぞ」


 麻理亜が演じていた少年とは対照的に、鹿羽は表情豊かに笑った。


 そして、自身に集中させていた魔力を解き放った。


「――――――――<祓う闇王/ダークロード>」


 瞬間、あまりにも禍々しい巨大な門が出現した。

 それは冥土の入り口と言われても違和感は無く、生きとし生ける者全てを本能的に拒絶させる明確な“死”を感じさせた。


 そして、“死”は魔法陣の呼びかけに応じたかのように、門の中から顔を覗かせた。


(――――なんか、訓練場で試した時より大きいような気がするんだが……。もしかして、本来はこのぐらいの大きさなのか?)


 揺らめく炎を身に纏った巨大な骸骨が、何も無い更地に君臨した。

 巨大な骸骨は強い感情に突き動かされるように身体を震わせると、尽きることのない怨嗟を吐き出すように叫び声を上げて、大地を揺るがせた。


 聞くに堪えない“死”の咆哮は、明らかにローグデリカの生命力を削いでいた。


(ち――――っ。“祓う闇王/ダークロード”によるスリップダメージか……っ)


「“祓う闇王/ダークロード”。彼女を捕まえてくれ」

「……」


 巨大な骸骨は返事をすることなく、淡々と命令通りに動き始めた。

 その動きは見た目とは裏腹に、非常に機敏なものだった。


 そして、間もなくローグデリカは骸骨の巨大な腕によって囚われた。


「ぐ……っ」

「さあ、追い詰めたぜ。タイマンなら俺に勝ち目は無いが、仲間がいるなら話は別だ。――――――――散々迷惑かけやがって。痛い目に遭ってもらうぞ」

「……はっ! 良い目をしているな愛する者よ。案外嗜虐的な趣味でもあったのか?」

「うるせえよ。お前には反省してもらうだけだ。ちっとばかし効くと思うけどな」

「“死”をもって償わせるつもりか?――――もう一人の私の言うように」


 ローグデリカは忌々しそうにそう吐き捨てた。


「それは罰を受けてからのお楽しみだな。食らっとけ。――――――――<創造の災厄/ギンヌンガガプ>」


 鹿羽はもう一つ魔法を唱えると、真っ白な魔法陣が空を覆い尽くした。

 それは“祓う闇王/ダークロード”と同様に、発動までにかなりのキャストタイムを要する代わりに凄まじい効果を発揮する、いわゆる極位魔法と呼ばれるものだった。


 そしてその極位魔法――“創造の災厄/ギンヌンガガプ”は、鹿羽が使用出来る単発魔法の中で最も威力が高いものだった。


「――――っ」


 白い光が降り注ぐと、そのままローグデリカを包み込むように収束し、そして爆散した。

 目を開けていられないほどの閃光が瞬き、遅れて暴風が吹き荒れた。


(流石にもう動けないだろ。さっさと拠点に連れてって、その後どうやって説得するかだが――――)


「鹿羽君! まだ終わってないよ!」

「は?――――ちょ、嘘だろ」


 瞬間、鹿羽が呼び寄せた巨大な骸骨が押し潰されたようにひしゃげた。

 そして骸骨はその巨大な図体をバラバラにすると、そのまま呆気なく消えた。


 一瞬、何が起こったのか理解出来なかった鹿羽は、“祓う闇王/ダークロード”が崩壊し、消失していくさまを眺めることしか出来なかった。


 鹿羽は、“そこ”に視線を向けた。


 白い光が焼き尽くした筈の“その場所”には、一人の少女が全身から血を流しながら立っていた。


「な、なんで……っ。なんでまだ動けるんだよ……っ」

「――――私は、もう、止まることはない。届かない運命、動けない自分、全てを捨て去って今、私はここにいる。私が負けることは、もう無い」

「ち……。――――<軛すなわち剣/ヨーク>!」

「そうだ……っ! 剣を取れ……っ! 私は邪魔するもの全てを破壊し……っ! お前を手に入れる……っ!」

「いい加減にしろよ楓! どうしてお前はそんな風になっちまったんだよ!」


 もはや狂気じみた執念によって突き動かされているローグデリカの痛々しい姿に、鹿羽は思わず叫んだ。


 そしてローグデリカは虚ろな視線で鹿羽を見据えながら、恍惚とした表情で口を開いた。


「――――それは、全てが終わった後に話そう。邪魔者を全員殺し尽くして、逃げられないようにお前の四肢を斬り落とした後にでも、な……」

「――――っ!」


 少女の狂気を悟った鹿羽は、静かに剣を構えた。


 そして間もなく、剣が交錯した。


「く……っ」

「あの時よりも遥かに頼もしくなったな! 流石だ私の愛する者よ!」

「うる、せえ……っ!――――<虚空斬/リアリティブレイク>!」

「――――だが、まだ私には届かない。終わりだ」


 全身から血を流し、もはや見ていられないほどに傷付いたローグデリカの勢いは衰えるどころか更に激しさを増していた。


 リフルデリカとの厳しい修行によって剣を振るえるようになった鹿羽だったが、ローグデリカの鬼神の如き猛攻に圧倒されていた。


(やば――――っ!)


 鹿羽は剣を弾かれて、大きく体勢を崩した。

 戦いにおける隙がどんな結果をもたらすかを学んだ鹿羽は、それが致命的な事態であることを本能的に理解していた。


 ローグデリカは鹿羽の腕を斬り落とさんと、嬉々として剣を振るおうとした。


 瞬間。


「麻理亜ちゃんアターック!――――<三重詠唱/トリプマジック>+<白の断罪/ホーリーランス>!」

「ち――――っ! 何処までも邪魔をしてくれる!」

「それってお互い様でしょう!? 貴女の思い通りになんかさせないんだから!」


 鹿羽とローグデリカの間を引き裂くように、麻理亜の魔法が殺到した。

 そして生まれた僅かな時間で、鹿羽はローグデリカから急いで距離を取った。


「マジ助かった……。感謝するぜ麻理亜……」

「どういたしまして♡」


 鹿羽の必死さが込められた感謝の言葉に、麻理亜は気楽な様子でそう返した。


 鹿羽からすればまさに危機一髪であり、千載一遇の好機を逃したローグデリカは忌々しそうに麻理亜を睨みつけた。


 射抜くような鋭い視線を投げ掛けられた麻理亜だったが、一切動じる様子もなく、麻理亜は逆にクスリと笑った。


 対するローグデリカは挑発と受け取ったのか、更に表情を歪ませた。


「良いだろう。どの道、貴様を殺すことは確定事項だ。出しゃばるというのなら殺してやる!」

「――――麻理亜。俺が何とかして抑える。支援を頼んだ」

「分かったわ。負けないでね?」

「言われなくてもそのつもりさ」


 鹿羽は苦笑しながらそう言うと、光の剣を更に強く握り締めた。


「――――楓。俺との戦績を覚えてるか?」

「…………」

「まあ、実力差があり過ぎて覚えてねえよな。――――――――俺の一勝三十二敗だ。二回目、勝たせてもらうぜ?」


 鹿羽は再び、ニヤリと笑った。


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