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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
四章
84/200

【084】二人牢獄


 一


 気が付けば、鹿羽は何もない荒野に立っていた。


 紫色に染まった夜空と、地平線が何処までも続く荒野は、この世に存在するものとは思えない、非現実的なもののように感じられた。


 しかしながら、今の鹿羽にそんなことを呑気に楽しむ余裕など欠片も存在しなかった。


(息が……、出来な……、い)


 呼吸が封じられた時のような圧迫感、全力疾走した後のような倦怠感、ありとあらゆる負の症状が鹿羽の全身を襲っていた。


(魔力が……、抜けて、いく……、苦し……、い)


 鹿羽は胸を強く押さえながら、遂に膝をついて倒れこんでしまった。


 どんなに息を吸っても、呼吸が楽になることはなかった。

 溢れ出る冷や汗と一緒に、生きる為に必要な何かが流れてしまっているような心地だった。


「リ、フル、デリカぁ……っ」


 倒れこむ鹿羽のすぐ近くに、リフルデリカは無表情で立っていた。

 リフルデリカは感情が籠もっていない視線を鹿羽に向けたまま、ゆっくりと鹿羽の方へ歩き出した。


「――――――――<軛すなわち剣/ヨーク>」


 そしてそのまま、光の剣を振り上げて、鹿羽へと振り下ろした。


「――――は……、は……」

「ほら、反撃しないと死んじゃうよ。僕は本気だからね」

「ま、待て……」

「待たないよ。君の敵は待てと言われて待ってくれるのかい? その安易な期待が君を殺し、君の大切なものを奪うことをそろそろ理解した方がいい」

「――――――――っ」

「そう、それでいいんだ」


 リフルデリカの剣を何とか回避した鹿羽は、そのまま転がるように距離を取った。

 しかしながら、リフルデリカは一瞬で距離を詰めると、再び剣を振り下ろした。


 そして、鹿羽の背中に大きな傷を付けた。


「ああああああああああ!!!!」

「……抵抗しないなら、これで終わりだね」

「――――――――<軛すなわち剣/ヨーク>!」

「そうだね。それでいいんだよ」


 光の剣が交錯した。

 一瞬、リフルデリカは感心した様子で笑みを浮かべたものの、直ぐに表情を殺して鹿羽に蹴りを入れた。


「が――――っ」

「油断したのが手に取るように分かるよ。僕が本気なら、君はもう七回くらい死んでる」

「うる、せえ……」

「これで八回目だ」


 リフルデリカの拳が鹿羽の顔面を捉えていた。

 鮮血が舞い、衝撃によって鹿羽は大きく仰け反った。


 しかしながら、強く握り締められた光の剣は、リフルデリカを斬り捨てようと振るわれていた。


「ようやく殺意が出てきたね。ようやくだ」

「――――覚えて、ろよ……。お前ェ……」

「覚えておくよ。好きなだけ仕返しするといいさ。出来るものならね」

「――――っ」

「さあ、いつになったら僕に届くかな?」


 鹿羽は光の剣を強く握り締めると、自らリフルデリカの元へと駆けた。

 対するリフルデリカは、相変わらず無表情のままだった。


 二


 場所はギルド拠点内部、訓練場。

 リフルデリカが構築した結界の上空にて。


 鹿羽とリフルデリカの戦いを静かに見守るC・クリエイター・シャーロットクララの隣には、G・ゲーマー・グローリーグラディスの姿があった。


「――――何ですか何なんですか……。C・クリエイター・シャーロットクララ、貴女は……、目の前の光景を見て何も思わないんですか……?」

「何も思わない訳じゃない。だけど、これはカバネ様自身が望んだこと……」

「貴女なら分かっているでしょう……っ。この結界は……、魔術師にとって最悪のものです……。魔法を使うことはおろか……、体内に魔力を保持させることすらままなりません……。莫大な魔力をお持ちであるカバネ様がどれほどの苦痛を味わっているか……っ」

「カバネ様はメイプル様の為に必死に頑張っているの。だから……」


 一方的に殴られ、蹴られ、鹿羽の身体は傷だらけになっていた。

 もはや哀れとまで言えるその姿に、G・ゲーマー・グローリーグラディスは我慢出来なかった。


 もし隣にC・クリエイター・シャーロットクララがいなければ、自分は迷いなくリフルデリカを殺していただろう、と。

 それほどまでに、G・ゲーマー・グローリーグラディスは目の前の光景に納得がいかなかった。


「グーラちゃん」

「…………何ですか何なんですか」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは必死に殺意と魔力を抑えながら、地上で繰り広げられている一方的な戦いを眺めていた。


 三


「――――っ」

「無様だね。自分じゃ何もできないくせに理想だけは高くて、それなのにひどく鈍感だ」

「うる、せえよ……」

「もしかして怒っているのかい? 君が悪いのに? 君自身がどうしようもなく弱いからこうなっているのに、君はその怒りを僕にぶつけるのかい? はっ! 無様だね」

「覚えてろ……っ。が――――っ」

「はい。七十三回目」


 何度目か分からない、容赦なく振るわれた拳が再び鹿羽の頭部を捉えた。


「……っ」

「不満そうな顔だね」

「……」

「遂にだんまりか。戦いにとどまらず、口喧嘩にも負けて恥ずかしくないのかい?」


 リフルデリカは挑発するような言葉を投げ掛けたが、対する鹿羽は遂に口を開かなくなった。


 鹿羽はただ黙って、剣を目の前の相手に届かせようと集中していた。


(――――良い傾向だね。ようやく迷いが無くなってきたのか、確実に動きが良くなっている。まあ、僕に対する印象は最悪なものになっているかもしれないけれど)


「七十四回目」

「…………っ!」

「おっと」


 鹿羽の腹部に蹴りを入れたリフルデリカだったが、鹿羽はそれを逃さず、片手で抱え込むようにリフルデリカの脚を掴んだ。

 そして、自身に蹴りを入れた脚を斬り落とそうと、その手に握り締めた光の剣を振るおうとした。


「――――驚いたけど、それで殺せるなら誰も苦労はしないだろうね。えい」

「ぐ……っ」


 しかしながら、リフルデリカはもう一方の脚も鹿羽の腹部に合わせると、そのまま鹿羽自身を踏み台にして大きく跳躍した。


(流石に隙の大きな攻撃には対処出来るようになる、か。――――いいね。予定より数時間早い。素晴らしい成長速度だ)


「ち……っ」

「勝ったと思った?」

「……」

「ふむ」


(――――聞いていないか。もしかしたら、集中のあまり聞こえていないのかもしれないね。いずれにせよ、良いことだ)


 鹿羽は黙ったまま、光の剣を強く握り締めた。

 対するリフルデリカは、無表情のままだった。


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