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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
四章
82/200

【082】強さの原因


 一


 場所は鹿羽達のギルド拠点内部。

 楓の不調の原因とされているローグデリカとの接触に成功した鹿羽達だったが、ローグデリカの圧倒的な実力によってS・サバイバー・シルヴェスターは死亡、リフルデリカも左腕を失うという散々な結果に終わっていた。


「――――ふうん。そんなことがあったんだー」

「ローグデリカは強い。NPCを動員させて、万全の態勢で彼女を捕縛するべきだと俺は思う」


 鹿羽とリフルデリカの二人の前には、麻理亜が立っていた。

 ローグデリカ帝国での一連の出来事を共有すべきだと判断した鹿羽は、麻理亜にことの詳細を説明していた。


「うーん。鹿羽君にそう思わせるほどの相手かー。今手が空いている子はどれくらい居たっけ。――――――――あら、リフルデリカちゃん。その腕どうしたの?」

「はっ! “どうしたのか”だって? 君には関係の無いことだ。日陰でコソコソ悪巧みをしている君とは違って、僕は身を挺して戦ったのさ。その不快な声と視線をこちらに向けないでもらえるかな?」

「鹿羽くーん! リフルデリカちゃんが虐めてくるー!」

「……リフルデリカ。麻理亜には何の恨みも無いんだろ。どうしてそんなに悪く言うんだ」

「確かに彼女は僕が許容出来る範囲内に収まっているけれど、その本質は僕が最も嫌悪する類いのものだ。君も君だよ。まさか見た目に惚れてしまっているなんてことは無いだろうね?」

「でも鹿羽君は私のこと好きだからー、仕方ないよねー?」

「勘弁してくれ……」


 鹿羽は困ったようにそう言った。


「それじゃあ鹿羽君の言う通り、ローグデリカ捕縛の為の作戦を立てなくちゃね。忙しい人もいるかもだけどー、今は比較的暇な子がいっぱいいるんじゃ――――」


 麻理亜はそう言い終えようとした瞬間、鹿羽は遮るように口を開いた。


「――――麻理亜。あと、ローグデリカについてなんだが……。もう一つ麻理亜に伝えておきたいことがあってだな……」

「……?」

「その、なんだ。信じてくれないかもしれないが……」


 麻理亜の発言を遮るように口を開いた鹿羽だったが、その割には鹿羽の態度は迷いを感じさせるものだった。


 しかしながら、そんな鹿羽の態度を気にすることなく、麻理亜は微笑みながら口を開いた。


「信じるよ。鹿羽君が見たもの聞いたもの、鹿羽君が信じるなら私も信じる」


 それは、鹿羽の迷いを消滅させるには十分過ぎる言葉だった。


「――――ローグデリカは楓と同じ姿をしていた。そして……、本人は自分のことを楓だと思っているみたいだった」


 鹿羽はハッキリとした口調でそう言った。


 鹿羽は、楓を苦しめている正体が“楓を自称する楓の姿をした何か”であったことを未だに信じられないでいた。

 勿論、実際に目にした訳なので、全く信じていない訳ではなかったものの、それでも信じられない、信じ難いというのが鹿羽にとって素直な気持ちだった。


「鹿羽君はどう思ったの? ローグデリカはローグデリカだったの? それとも楓ちゃんだったのかしら?」

「……分からない。だから、その、“倒す”んじゃなくて、捕まえて話を聞く必要があると俺は思う」

「ふうん」


 麻理亜は顎に手を当てて、そう呟いた。


「――――リフルデリカちゃんはどう思ったの? 当時のローグデリカを知っているんでしょう?」

「……僕のことや、自分がローグデリカであることは忘れているみたいだったけれど、彼女は変わっていなかったよ。そして彼女がもう一人のカエデ氏だったとしても、特段おかしな話ではないと僕は思ってる。まあ、僕から言わせてもらえば、カエデ氏がローグデリカだという見方も出来るとは思うんだけれどね」

「……鹿羽君の言う通り、直接本人から話を聞く必要がありそうねー。本当に楓ちゃんを苦しませている元凶なら許せないけど、だからといって滅ぼすのが正解だとは限らないしー」

「よく言うよ。目的の為なら何だってするくせに」


 リフルデリカは小さな声で、吐き捨てるようにそう言った。


「……ともかく、そう言う訳だ。確実にローグデリカを捕まえる為に、NPCを数人融通して欲しい」


 鹿羽はローグデリカを捕縛する上で必要なものは武力だと考えていた。

 事実、ローグデリカたった一人によって、この世界で上位の実力を持つS・サバイバー・シルヴェスターは封殺され、魔術師としての実力は相当高いと思われるリフルデリカも片腕を失うほどのダメージを被っていた。


 鹿羽自身も、戦闘に参加していればなす術も無くやられただろう、と。

 彼女の圧倒的な力を前に、鹿羽はそう強く感じていた。


「――――待っておくれ。確かに君達が躊躇なく力を振るえば、目的は滞りなく達成されるだろうさ。しかしながら、非常に高い確率で犠牲を払うことになるだろう。時に犠牲は必要だけれど、それをむやみに許容するのはいただけない」

「じゃあどうすればいいんだ?」

「君だよ君。君のことを言っているんだよ」

「……?」


 突然、リフルデリカに指を差された鹿羽は、思わず驚きの表情を浮かべた。


「いいかい? 君は確かに優れた魔術師さ。魔術師という点に限定すれば、君は極致に達しているかもしれない。しかしながら、君は自分が持つ力の割にはあまりにも危機管理能力に乏し過ぎる。まるで育ちの良い子供だ。倫理や道徳に毒され過ぎて、剣を持つことや振るうことに躊躇いを覚えている。言うなれば自分の力を更なる高みへ持っていこうとする向上心に欠けているんだよ。君は既に失う恐ろしさを知っているつもりでいるかもしれないけれど、まだまだ甘いと言わざるを得ない」


 そしてリフルデリカは一瞬躊躇うような表情を浮かべると、意を決したように口を開いた。


「――――――――結論を言えばね、弱いんだよ。君は」


 断言するように言い放ったリフルデリカに対して、鹿羽は何も言うことが出来なかった。


「要するにー、鹿羽君が悪いって言いたい訳ー?」

「随分と癇に障る言い草だね。僕は君と違って、自分さえ良ければいいなんて思っていないんだよ。彼の本当の願いの為なら、耳が痛いことだって僕は躊躇いなく提案する。甘い言葉で相手を堕落させようとする君には理解出来ないだろうけどね」

「そんなことないと思うけどねー」

「……俺がもっと強くなる必要がある、てことか?」

「結論から言えば、そういうことだね。最も、君自身の身体的な能力を向上させるというよりは、心構えを根本的に鍛え直すという意味合いになるけれど」


 リフルデリカが言ったことは、鹿羽にとっても納得がいくものだった。


 鹿羽は戦闘が苦手だった。

 鹿羽はただ、魔法が使えるだけだった。

 この世界に来たばかりの頃、得体の知れない魔術師に勝ったのだって、たまたま鹿羽の使う魔法が通用したからだった。


 鹿羽は剣の握り方すら知らなかった。

 もし自分の魔法が通用しなかった時、どうすればいいのかすらも、今の鹿羽には分からなかった。


 リフルデリカの言葉通り、鹿羽は弱かった。


「俺が強くなれば、犠牲は出ないんだな?」

「無論、絶対とは言えないけどね。しかしながら、君が強くなることで、君が守りたいものを守れるようになるのは単純な論理だと思うよ」


 E・イーター・エラエノーラが犠牲になったあの日から、鹿羽は手段を選ばないことを決意していた。

 楓と麻理亜を守る為なら、どんなに許されない方法であろうとも実行に移すことに決めていた。


 それなのに、現状に問題が無かったからと言って、自分の力を過信していたのは事実だった。


 リフルデリカの言う“弱さ”がそこにあるんだとしたら、全くその通りだと鹿羽は思った。


「なら迷うことは無い。リフルデリカ、俺はどうすれば強くなれる?」

「半月でいいから時間をくれると嬉しいな。僕と君は、必ずしも睡眠や食事を必要としないからね。半月で成果を出そうじゃないか」

「……鹿羽君。本気なの?」

「ああ。ローグデリカは強かった。それに、俺が強ければリフルデリカも腕を失うような目に遭わないで済んだだろうしな……」

「僕のことを配慮してくれるだなんて嬉しいね。腕なんてしょっちゅう持っていかれているから、僕としては慣れたものなんだけれど」


 リフルデリカは、先が無くなった自分の左肩を叩きながら、冗談めかした様子でそう言った。


「――――リフルデリカちゃん。鹿羽君のこと、あんまり虐めないでね」

「安心してくれたまえ。僕が心の底から虐め抜いてやりたいと思う人間は、世界でせいぜい一人か二人ぐらいだ」

「もう」


 リフルデリカが麻理亜を睨みながらそう言うと、麻理亜は呆れた様子で肩をすくめた。


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