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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
一章
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【008】NPC③


 一


 鹿羽達のギルド拠点内部の、とある一室にて。

 大袈裟な効果音と共に、ゲームコントローラーのスティックを弾く乾いた音が響いていた。


「――――G・ゲーマー・グローリーグラディス。御方々の命令デス。至急、玉座の間に来イ」

「突然何ですか何なんですか……。貴女の言うことが聞こえていなかったら……、問答無用で消し飛ばしてましたよ……」


 一人の少女は、不貞腐れたような声を出した。


 そして、映し出されていたプレイ画面が暗転すると同時に、少女はコントローラーを地面へと置いた。


「御方々の命を賜った私を攻撃するということハ、御方々に剣を向けるというコト。反逆行為とみなしマスガ?」


 少女に問いかけるL・ラバー・ラウラリーネットの声は酷く冷たかった。

 対する少女もそれを理解しているのか、続けて憎まれ口を叩いた。


「何ですか何なんですか……? 虎の威を借る狐なんですか……? 拡大解釈で御方々に迷惑をお掛けするのを……、申し訳無いとは思わないんですか……?」

「早く来イ。御方々がお待ちしてイル」

「私は転移できますので早く行けますけどね……。本来であれば……、貴女を置いていくところですが……、御方々に迷惑をお掛けする訳にはいきませんからね……。せいぜい感謝して下さい……」


 少女はニタニタと笑いながら、楽しそうに言った。

 L・ラバー・ラウラリーネットの視線は鋭く少女を捉えたが、少女は気にする様子を見せなかった。


「――<転移/テレポート>」


 呟きと共に、少女とL・ラバー・ラウラリーネットは消失した。


 二


「G・ゲーマー・グローリーグラディス。召喚に応じ、参りました……」

「よく来てくれたな。G・ゲーマー」

「いえ……、皆様のご命令でしたら……、必ず……」


 麻理亜、楓、そして鹿羽は、数段高くなっている玉座付近から少女――G・ゲーマー・グローリーグラディスを見下ろした。


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは、楓によって創造された、魔法攻撃に特化したNPCだった。

 見た目はただの目つきの悪い華奢な少女であり、比較的身長の低い楓よりもさらに一回り小さく、手足はまだ伸び切っていないように見えた。


「ふふ。グーラちゃん、可愛いねー。お人形さんみたい♡」

「……は? え……? あ……、ありがとうございます……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは、麻理亜の発言が予想外だったのか、驚きの表情を浮かべた後、苦笑いをしながら応答した。


「そ、それで……、私に何か御用が……?」


 麻理亜の言葉に一瞬動揺を見せたG・ゲーマー・グローリーグラディスだったが、気を取り直した様子で鹿羽達にそう尋ねた。


 対する鹿羽は咳払いをすると、G・ゲーマー・グローリーグラディスを見据えて、口を開いた。


「単刀直入に訊く。G・ゲーマー、君は味方か?」

「それは勿論……、私は皆様の味方であり……、忠実な僕であると断言致しますが……。――――何かあったのでしょうか……?」

「いや、そういう訳じゃない。ただ確かめたかっただけだ」

「そ、そうですか……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは腑に落ちていないような表情を浮かべつつも、詳しく追及することはしなかった。


「……麻理亜」

「動揺はしてるけどー、嘘はついていないと思うなー。当たり前のことをどうして訊くのか、納得していないみたいだねー」

「お言葉ですが……、もしかして……、ギルド内に間者がいるのですか……?」

「証拠も何もないけどねー。でも裏切り者がいたら困るでしょ? 折角だから、みんなから話を聞こうと思ってねー」

「そう……、ですか……」

「急に呼び出して悪かったな。G・ゲーマー」

「いえ……、お気になさらず……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスと鹿羽達の対面は、すぐに終わった。


 三


(魔術的な異常は無し……。敵意や害意を検知する術式を一瞬だけ張ってみたけれど……、変なことを考えているギルドメンバーも、勿論侵入者も居ない……。御方々は何を警戒しておられるのか……)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは、いつもは転移魔法で自室に戻るところを、自分の考えを整理する為に、あえて徒歩で戻っていた。

 当たり前の話だったが、G・ゲーマー・グローリーグラディスは鹿羽達が置かれた状況を知らなかった。

 G・ゲーマー・グローリーグラディスはいくら考えても、鹿羽達の考えていることや、その行動の真意をイマイチ理解出来ないでいた。


(御方々の“気まぐれ”であれば良いですが……。私の理解が及ばない超常的な能力による根拠があるとしたら……、黙って大人しくしているというのも怠惰でしょうね……)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの脳内に一人の女性の姿が浮かんだ。


 その女性の名は、C・クリエイター・シャーロットクララ。

 またの名を、“創造の魔術師”。

 カバネという例外を除いて、唯一魔法使いとして自分に勝るであろう強大な魔力の持ち主だった。


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは、彼女に相談するべき案件かもしれないと静かに結論付けた。


「――――今日は忙しい日ですね……」

「偶然すなわち必然。G・ゲーマー・グローリーグラディス。私の顔を見て溜め息とは、些か失礼なのでは?」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの前に、一人の男が立っていた。


 男の体格は恵まれていて、G・ゲーマー・グローリーグラディスの華奢な体格と相まってさらに際立っていた。

 男の頭部は奇妙なデザインの兜によって覆われ、その素顔は窺い知れなかった。

 そんな怪しい風貌の男を知っているのか、G・ゲーマー・グローリーグラディスはあまり関わりたくない知り合いと接するような態度で、再び口を開いた。


「貴方を見て喜ぶ人間など……、果たして居るのでしょうかね……?」

「嘆息すなわち嫌悪。いやはや嫌われてしまって悲しいものです。私が貴女に何かしましたでしょうか?」

「何かしようものなら……、全力を以って消し飛ばして差し上げますけどね……」

「これは手厳しい」


 表情の読み取れない男の口調は、どこか気楽そうだった。


「――――T・ティーチャー・テレントリスタン。怪しい真似は……、していないでしょうね……?」

「疑念すなわち潔白。貴女にしては珍しく、感情的だ。そのように思われる根拠をお聞かせ頂いても?」

「さあ……。どうでしょうね……。貴方の人間性が……、疑わしいのかもしれません……」

「事実すなわち悲観。私自身の性格に関しては、どうにもならないですね」


 男――T・ティーチャー・テレントリスタンは静かに笑った。


 四


「ようやく……、あと一人か」


 鹿羽は深い溜め息をついて、絞り出すように言った。

 その表情に生気は無く、鹿羽は少なくない疲労感を滲ませていた。


「お疲れ様ー。私は楽しかったけどねー」

「我も!」

「……それは何よりだ」


 対照的に疲れた様子を見せない二人に、鹿羽は淡々とそう言った。


 確かに神経をすり減らすだけの作業だったかと訊かれれば、鹿羽の答えは“ノー”だった。

 未知への恐怖心、警戒心は存在したが、画面の中だけでしか存在しなかった架空の存在と実際に対面し、会話出来たというのは、本来であればありえない体験だった。

 それは、少なくない感動を鹿羽に与えていた。


「あとは鹿羽殿の……、B・ブレイカー・ブラックバレットであるか」

「ゲーム内の設定が忠実に再現されているという前提だが……、実際、反逆されて一番困るのはB・ブレイカーだ。相性で言えば、俺もL・ラバーも彼女には敵わない。つい後回しにしてしまったが……」

「わ、我なら一応……」

「確かにゲーム上で言えば、楓はB・ブレイカーに勝てるだろうな。――――でも現実でゲームと同じようには動けないだろ。というか、そもそも前提がゲームと同じかどうかも分からない。気を引き締めて行こう」

「まあまあ。そんな悲観しなくても大丈夫なんじゃない? 今のところ、一人も敵になる雰囲気は無いしー、バレットちゃんも例外じゃないでしょ」

「だと良いんだが」


 本当にそうであれば良いと、鹿羽は切に願った。


 すると突然、コンコンと扉をノックする音が響き渡った。

 それはL・ラバー・ラウラリーネットが、七人目のNPCを連れてきた合図だった。


「B・ブレイカー・ブラックバレットを連れて参りましタ」

「入れてくれ」

「畏まりましタ」


 L・ラバー・ラウラリーネットは扉の向こう側からそう言うと、扉に手を掛けた。


「B・ブレイカー・ブラックバレット。御方々の前デハ、如何なる無礼も万死に値すると知レ」

「無論だ」


 再び、扉が開かれた。


 長い黒髪の女性だった。

 その立ち振る舞いは美しく、そして凛々しかった。

 それはまるで、一国の姫君のようだった。


 しかしながら、彼女は戦士だった。

 彼女の放つ闘気と威圧感は、どうしようもなく戦士の“それ”だった。


「B・ブレイカー、よく来てくれた」

「……っ! カバネ様……」


 B・ブレイカー・ブラックバレットは鹿羽の存在を確認すると、固い表情を更に引き締めた。


「……カバネ様、メイプル様、マリー様。このB・ブレイカー・ブラックバレット、召喚に応じ、参上致しました」


 B・ブレイカー・ブラックバレットはその場に跪いて、そう言った。


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