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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
四章
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【077】見えない手掛かり


 一


 ローグデリカ帝国、帝都ダルストン名物闘技大会。

 大きな賑わいを見せたこのイベントも、後は表彰と閉幕の儀式を残すのみとなっていた。


「――――ふむ。やはり面構えが違うな」

「……」

「誇るといい。この闘技大会において頂点に立ったことは、これ以上ない名誉なのだからな」


 S・サバイバー・シルヴェスターの前には、赤を基調とした衣装を身に纏った男が立っていた。

 男の顔には幾つかのしわが散見され、服装それ自体も質素なデザインだった。

 それ故に、一見普通の男に見えたが、帝都ダルストンに住む者で彼のことを知らない者はいなかった。


 現ローグデリカ皇帝、サマリア・フォン・デルカダーレ。


 ローグデリカ帝国の王家特有である赤い髪を持ち、鋭い眼光が特徴的なこの男は、優勝の証である紐で括られたメダルをS・サバイバー・シルヴェスターの首に引っ掛けた。


「……光栄でござる」

「しかし、見ない顔だな。出身は何処だ」

「統一国家ユーエスでござる」

「…………成程。ルエーミュの民か」

「一つ、お尋ねしたいことがあるでござる。宜しいか?」

「ふむ。答えられることであるならな」

「……覇道の魔女ローグデリカについてお聞きしたいでござる」

「ならば国立図書館を訪ねるのが良かろう。そこで不足は無い筈だ」

「お言葉ながら、国立図書館の資料は拝見したでござる。例えば、王家だけが知る秘密などは――――」

「確かに闘技大会で優勝してまで聞くぐらいなのだから、国立図書館はすでに向かわれたか。――――――――悪いが、そういうことは一切無い。ローグデリカは過去の人間だ。我々の先祖はいたく彼女を信仰していたそうだが、今や名前だけが残るのみだ。王家である我々よりも、学者の方が遥かに詳しいだろうな」

「……左様でござるか」

「しかし、非凡なる戦士であると同時に歴史に興味があるとは……。ふむ」

「拙者のような者の話を聞いて下さり、感謝するでござる」

「構わぬ。こちらこそ満足のいくような話が出来ずに……。悪かったな」


 ローグデリカ皇帝――サマリア・フォン・デルカダーレの言葉に、S・サバイバー・シルヴェスターは静かに頭を下げた。


 二


 ローグデリカ帝国、帝都ダルストン、鹿羽達が寝泊まりしている宿の飲食エリアにて。


「――――とまあ、十日間かけて大会で優勝して、王様と話をした訳だけど」

「手掛かりは無し、か……。そう上手くいかないことぐらい、分かってはいたが……」


 鹿羽は溜め息交じりに、そう呟いた。


「……申し訳ないでござる」

「別にS・サバイバーのせいじゃないだろう。よくやってくれたさ。だが……、ローグデリカの情報を集める為にローグデリカ帝国に来たってのに、何一つ手掛かりが得られないっていうのは……」

「かつて僕が生きていた時代からは、やはり少なくない時間が経っているようだね。ローグデリカに関する文献や伝説を元に、彼女の行方を追うのは難しいようだ」

「……ていうか、そもそも本当に生きているのか?」

「どうだろうね。あくまで僕がそう予想しているだけで、実際どうなのかは別の話さ」

「じゃあ八方塞がりじゃねえか……。どうするんだよ」

「思い通りに“こと”が進まないなんて良くあることさ。この僕だって、たった一つの目的すら未だ達成出来ていない。そういう時は気長に出来ることをやるだけなんじゃないのかい?」

「簡単に言うけどな……」


 鹿羽は呆れた様子でそう言った。


 そんな鹿羽の脳裏には、楓の姿が浮かんでいた。

 鹿羽がわざわざローグデリカ帝国を訪れたのは楓の為であり、そこに躊躇いや妥協なんてものは存在しなかった。


 気長に出来ることをやるだけ、という言葉では、鹿羽は気持ちの整理なんて出来なかった。


「――――ローグデリカがカエデ氏に干渉している可能性は高いと思うよ。そう遠くない内に、向こうから動きを見せる筈さ」

「……」


 そんな鹿羽の感情を理解しているのか、或いはそうではないのかは不明だったが、リフルデリカは気楽な様子でそう言った。


「――――突然すみません。闘技大会優勝者のシルヴェスターさんですよね」


 突然、身なりが整った複数人の男から声がかけられた。

 急のことで鹿羽達は反応に困ったが、S・サバイバー・シルヴェスターは直ぐに口を開いた。


「……何用か」

「実は、あなた様の実力を見込んで、お願いがあるのです。宜しいですか?」

「待ってくれ。先に話をしてもらわないと困る。何の用だ」

「…………申し訳ございませんが、ここで話をする訳にはまいりません。後で詳しい事情をお話ししますので、取り敢えず一緒に来てもらえませんか?」

「話にならないね。せめて誰からの依頼で、何処に連れていくことぐらい伝えたらどうだい?」


 リフルデリカの言葉に男達は一瞬怯んだような様子を見せたが、最もな意見だと納得したのか、リフルデリカの言う通りに説明を始めた。


「……依頼はローグデリカ帝国王家サマリアからの非公式なものになります。ここは人も多いですから、一先ず皇居の方まで来て頂けませんか?」


 三


 場所は帝都ダルストン。

 ローグデリカ帝国王家であるサマリア家が寝泊まりする皇居にて。


「――――――――また会ったな。急に呼び出して申し訳ない。ところでその二人は……」


 ローグデリカ皇帝――サマリア・フォン・デルカダーレはそう言うと、鹿羽とリフルデリカの二人に視線を移した。


「初めまして。統一国家ユーエスの特別政務官、鹿羽と申します。シルヴェスターは俺……、いえ、私の護衛で、彼女は私の秘書です。王家からの非公式の依頼ということでしたが……。詳しいご説明をして頂いても宜しいでしょうか?」

「ふむ。君がまとめ役という訳か。そうだな……。おおよそ三日、最長二週間の依頼を引き受けてもらいたいのだが、詳しい内容を知りたいのならば、依頼を引き受けることを約束してもらいたい。出来るかね」


(内容を知らずに引き受けろとか何処のブラック企業だよ……。――――だが、こちらも特別政務官を名乗った以上、皇帝の依頼は無視出来ない、か……)


 普段であれば、鹿羽は直ぐにでもお断りの旨を説明したいところだったが、相手が相手だった。

 一国の、それも大国のトップを前に、自分の意見を率直に伝えるほどの度胸は鹿羽には無かった。


「最長二週間ということでしたら、こちらも予定の問題はありません。しかしながら、内容も分からぬ以上、仮に依頼を引き受けたとしてもご期待に応えられるかどうかは……」

「無論、責任は問わない。依頼の達成に関わらず、納得出来る額の報酬を約束しよう。――――国民が闘技大会の余韻を楽しんでいる中、あまり大ごとにはしたくなくてね。出来れば近衛兵だけで解決したかったのだが、近衛兵だけでは不安が残るのだ。そこで、大会を制したシルヴェスター殿に手伝ってもらいたいのだが……」


(――――面倒だが、これで両国関係が悪くなるっていうならソッチの方が問題か……。麻理亜に迷惑を掛ける訳にもいかないからな……)


「分かりました。依頼を引き受けることにします。ですので、事情の説明をお願いします」


 鹿羽は渋々、依頼を引き受けることに決めた。


「――――私の娘が何者かに攫われた。シルヴェスター殿には、彼女の捜索と救出を依頼したい」


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