【076】高揚
一
闘技大会決勝トーナメント、準決勝にて。
「――――<呪い玉/ダークボール>!」
「……」
「く……っ。――――<喰らう泥炭/ダークスライム>!」
「効かぬ」
黒装束の男が、S・サバイバー・シルヴェスターに向かって次々と魔法を放った。
しかしながら、どれ一つとして命中することは無く、S・サバイバー・シルヴェスターの俊敏な動きによって二人の間の距離はあっという間に縮められた。
「――――<竜巻/トルネイド>!」
「隙あり」
「が――――っ」
S・サバイバー・シルヴェスターの盾が男を捉えた。
鈍器によって吹き飛ばされた男は向こう側の壁にぶつかると、そのまま意識を手放した。
試合終了を告げる鐘の音が響き渡ると、大きな歓声が上がった。
二
「いよいよ決勝だな。準々決勝はヒヤッとしたが、まあ大丈夫だろう」
「決勝の相手も弱くは無さそうだったけれど、仮面の少女ほどでは無いだろうし……。そうだね。問題は無いだろうさ」
三
闘技大会決勝トーナメント、その決勝戦にて。
ここまで圧倒的な成績で勝ち進んできたS・サバイバー・シルヴェスターに立ちはだかったのは、同じく圧倒的な実力を見せつけて勝ち残った、ダマシャという名の男だった。
ダマシャはここローグデリカ帝国でも有名な、正確に言えば悪名高い傭兵だった。
ダマシャにとって暴力事件は日常茶飯事であり、牢屋の中で彼の姿を見かけることも珍しくはなかった。
しかしながら、ダマシャという男がその名をローグデリカ帝国ひいては帝都ダルストンで有名なのは、決して素行不良だけによるものではなかった。
闘技大会決勝トーナメントの決勝戦にまで勝ち残っている事実の通り、ダマシャという男はとてつもなく強かった。
「――――――――よおぉ、お前が最後かぁ」
「……いかにも」
「見たところ魔術師では無さそうだなぁ。魔術師ってのは奇妙なことをしやがるが、“ひよわ”なんでなぁ。俺的にはそっちのほうが嬉しいんだけどよぉ」
「……」
「まぁ、弱くはなさそうだなぁ。目がビビってねえからなぁ」
「……拙者が戦いにおいて恐れを抱くことは無いでござる」
ダマシャの鋭い視線がS・サバイバー・シルヴェスターを捉えた。
しかしながら、S・サバイバー・シルヴェスターは動じる様子を見せなかった。
「は……っ。ははははは! 良いじゃねえかぁ。テメぇは大物だぁ。テメぇをぶっ飛ばして、金貰って帰らせてもらうぜぇ……」
「否。拙者が負けることは無い。全力で掛かってくるが良いでござる」
「ひひ……。ああぁ。俺はいつだって全力だぜぇ」
ダマシャは腰に差した剣を引き抜いた。
そして乱暴に振り回すと、笑いながら剣を構えた。
「へへ。死んでも文句無しだぁ」
「安心すると良い。拙者は滅多なことでは死なぬ」
「まるで死んだことがあるような口ぶりだなぁ?」
「戦い、死ぬことが使命のようなものでござる。――――――――では、尋常に」
「――――はっ! テメぇも俺も似た者同士ってこったぁ!」
そして、試合開始を告げる鐘の音が響き渡った。
「――――――――迅雷」
「うお――――っ!?」
瞬間、一瞬にして距離を詰めたS・サバイバー・シルヴェスターがダマシャに盾を叩きつけた。
そして、ダマシャは何とかその一撃を剣で受け流した。
「……見事」
「見事じゃねえよぉ! その剣はお飾りかぁ!?」
「この剣は命を刈り取るものでござる。この場で易々扱えぬ」
「戦いはいつだって命がけだろうがよぉ! 舐めてんのかぁ!」
怒声と共に、ダマシャは剣を振るった。
しかしながら、その剣は易々とS・サバイバー・シルヴェスターの盾によって防がれていた。
「ち――――っ」
ダマシャは思わず距離を取った。
いつだって自分の攻撃が相手に通用していたダマシャにとって、自分の攻撃が防がれるというのはあまり経験の無いことだった。
(――――英雄の領域、いや……、その向こう側にいやがるなぁ)
「来ないのでござるか」
「好き勝手言いやがってぇ……」
ダマシャは忌々しそうにそう吐き捨てた。
しかしながら、ダマシャはS・サバイバー・シルヴェスターの挑発に乗ることなく、直ぐ反撃はしなかった。
(さあ、どうするかぁ。面倒な話だが、俺よりつえぇ。まともに戦ったところで、痛い目に遭うだけだろうなぁ)
「……ならば、拙者から仕掛けるまで」
「ち――――っ」
再び、S・サバイバー・シルヴェスターの盾による強烈な一撃が繰り出された。
ダマシャは剣で衝撃を逸らすことによって、再びそれを防いだ。
S・サバイバー・シルヴェスターは繰り返し繰り返し、同じ攻撃を繰り出した。
ダマシャも同様に、防御に徹することで何とか攻撃を受け流していた。
「がぁ! 面倒くせぇ!」
「随分と消極的でござるな。守りに徹するとは……」
(反撃した瞬間を狙ってるくせによぉ。よく言うぜこの野郎ぉ……)
「あのダマシャが押されているな……」
「あいつが防御しているところなんて初めて見たぞ。やっぱシルヴェスターが優勢か?」
(ち……。好き勝手言いやがってぇ。素人の癖によぉ)
観客席から聞こえてくる会話に、ダマシャは癇に障った様子で舌打ちをした。
「――――迅雷」
(どうする……。上、下、右、いや、右だぁ)
繰り出された盾の一撃に、ダマシャは剣を合わせて再び衝撃を受け流した。
「……見事」
「いってぇなぁ! おい!」
「言動はともかく、戦いぶりは熟練のそれでござる。鉄の如き手堅いものでござるな」
(反撃したら直ぐにやられる……。だがこれ以上耐えるのも現実的な話じゃねえ。棄権も選択肢かぁ?)
瞬間、ダマシャは勝てないことを前提に頭が働いていることに気が付いた。
そして、ダマシャは歯を剥き出しにして笑った。
(あぁ……。負ける、負ける、負けるぅ。懐かしいじゃねえかぁ)
ダマシャは思い出した。
自分が初めて剣を握った、あの日のことを。
死んだ兵士から奪った剣を片手に、魔物と命のやり取りをした、あの日を。
(最っ高に楽しいじゃねえかぁ! 何で忘れてたんだろうなぁ!?)
「……迷いは晴れたでござるか」
「ああ、あぁ。ちっとばかし俺は強かったんでなぁ。大事なことを忘れてたんだわ。くひ」
「では――――」
「あぁ……っ。来やがれ英雄ぅ。テメぇをぶっ飛ばして俺はもっと強くなるぅ!」
「……」
剣が交錯した。
火花を散らし、ダマシャとS・サバイバー・シルヴェスターの互いの剣は弾かれた。
そして、S・サバイバー・シルヴェスターには盾が残っていた。
対するダマシャには、もう戦う為の武器は残されていなかった。
(――――――――は、結局挑発に乗せられて終わりかよ。あっけねえぇ)
盾が、ダマシャの顎を砕いた。




