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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
四章
74/200

【074】凍①


 一


「ちき、しょう……」

「……」


 男はそう吐き捨てると、静かに地に伏した。


「勝者! シルヴェスター!」


 審判の男が叫ぶようにそう言うと、大きな歓声が上がった。


 帝都ダルストン名物、闘技大会、決勝トーナメント初戦。

 S・サバイバー・シルヴェスターは予選と同様に、盾による一撃で相手を下していた。


 S・サバイバー・シルヴェスターは昇降機によって控え室に戻ると、一人の男性に声を掛けられた。


「……やっぱすげえよアンタ。怪我させないように、ワザと盾で戦っているんだろう? 相手だって弱くなかったのに」

「このような余興で、わざわざ殺すことも無い。それだけでござる」

「…………アンタみたいになりたかったよ。本当に」


 男性は何か思うところがあるのか、複雑な表情でそう呟いた。

 S・サバイバー・シルヴェスターの記憶では、目の前の男性も同じく決勝トーナメントに進出を決めた参加者の筈だった。

 しかしながら、知り合いという訳でもなかったので、S・サバイバー・シルヴェスターはそのまま男と別れた。


「ふん。余裕そうだな」

「……」

「明日の相手はこの私だ。必ずお前を下し、ニームレスの居場所を吐いてもらうぞ」


 S・サバイバー・シルヴェスターは鹿羽達の元へ戻る途中、仮面の少女――アポロにも声を掛けられていたが、何も言わずに通り過ぎていた。

 仮面の少女――アポロも、S・サバイバー・シルヴェスターのその態度には何も言わず、忌々しそうにその背中を見送っていた。


 二


「――――カバネ様。少し宜しいでござるか?」

「どうした。何かあったか?」

「……迷宮攻略に同行していた、かの仮面の者に声を掛けられてしまったでござる。そして、ニームレスを探している、とも」

「僕かい? その名前を彼から貰って以来、外に知り合いは居ない筈なんだけれども」

「ニームレスは昔、俺が偽名として使っていた時の名前だ。――――しかし、何で俺を探しているんだ? そこまで親しい仲でも無かった筈だろ」

「……理由は分からないでござる」

「ふむ……。まあ、暇なら会ってあげたら? 何なら、正真正銘のニームレスであるこの僕が会いに行ってあげても構わないよ?」

「S・サバイバー。何とか無視してくれ。わざわざ会う義理も無いだろう」

「承知」

「あれ? 僕の意見は?」


 三


 闘技大会も予定通りに日程が進み、いよいよ終盤に差し掛かっていた。

 S・サバイバー・シルヴェスターは決勝トーナメントの二回戦で、冒険者だった頃の先輩に当たる仮面の少女――アポロと激突しようとしていた。


「――――貴様は強い。それは認めよう。だが、戦士と魔術師の間には埋め難い相性が存在することを教えてやる」

「全力で来ると良いでござる。お主ほどの魔術師であれば、戦いにはなろう」

「言わせておけば……。――――貴様にはニームレスの居場所を吐いてもらう約束だ。死んだら承知しないからな」

「……その意気は良し」


 S・サバイバー・シルヴェスターは、小さな声でそう呟いた。


 仮面の少女――アポロの隠しきれない魔力が、周辺の空気を震わせていた。

 高名な魔術師を知る者には馴染み深い現象であり、言うまでも無く、直ぐに魔法を発動出来るようにする為の準備だった。


(……水属性の、それも氷系統の魔術でござるな)


 S・サバイバー・シルヴェスターは何となく、仮面の少女――アポロの雰囲気からそう予想した。

 S・サバイバー・シルヴェスター自身は魔法を使えない為に、その予想に根拠がある訳ではなかったが、日々の鍛錬の中で身に着けた勘のようなものが、S・サバイバー・シルヴェスターにそのような予想を抱かせていた。


 そして、仮面の少女――アポロは、S・サバイバー・シルヴェスターの予想通り、氷系統の魔術の準備をしていた。


 試合開始を告げる鐘の音が、響き渡った。


「容赦はしない。――――<氷床の大地/アイスバーン>!」


 瞬間、闘技場の地面がスケート場のように凍り付いた。


 S・サバイバー・シルヴェスターの両脚も、何も無かった地面とくっ付くように凍り付いていた。


(先に足場を……。本気のようでござるな……)


「そのまま凍りつけ!――――<氷結/フリーズ>!」

「効かぬ」


 更なる冷気がS・サバイバー・シルヴェスターの全身を凍り付かせようとした瞬間、S・サバイバー・シルヴェスターが振るった剣によって冷気は吹き飛ばされた。

 そして、S・サバイバー・シルヴェスターはくっ付いてしまった両脚を無理矢理引き抜くと、そのまま強く踏み込み、地面を覆っていた氷を粉々に砕いた。


「これで氷に足を取られることも無い」

「――――ッ。――――<垂氷の槍/アイシクルランス>!」

「効かぬ」


 幾つもの氷の槍がS・サバイバー・シルヴェスターに殺到したが、全て弾かれた。

 そして、闘技場の端から端まで開いていた筈の二人の距離は、踏み込んだS・サバイバー・シルヴェスターによって縮められていた。


「ち――――」

「終わりでござる」


 そのまま、突き出された盾によって、仮面の少女――アポロの身体は壁に叩きつけられた。


「か、は――――っ」


 少なくない衝撃によって、アポロは肺の中にあった空気を全て吐き出し、苦しそうに何度もむせた。


「――――身体は存外丈夫でござるな。手加減をし過ぎたでござる」

「は……っ。良いだろう……。この一撃で終わらせなかったことを、一生後悔させてやる……」

「ならば、次は確実にしとめるでござる」

「やってみろ……。さあ、来い……」


 身体をふらつかせながら、仮面の少女――アポロは挑発するような仕草を交えてそう言った。


「言われなくとも」


 S・サバイバー・シルヴェスターは盾を構えて、仮面の少女――アポロに突進を仕掛けた。


 速度を持って繰り出された盾が、再びアポロの身体を捉えようとした瞬間。


「――――――――“影渡り”」


 仮面の少女は小さな声でそう呟いた。


 その時にはすでに、S・サバイバー・シルヴェスターの首から鮮血が舞い、仮面の少女――アポロの手には氷で出来た長剣が握られていた。


「――――驚いたでござる」

「貴様の身体も丈夫なようだな……。殺すつもりだったんだが」

「それが良かろう。拙者を殺すのは誰であろうと骨でござる」


 S・サバイバー・シルヴェスターがそう言い終える頃には、首に出来た大きな傷は消滅していた。


 四


「――――リフルデリカ。今のは……」

「珍しいものが見れたね。あれは吸血鬼達が独自に研究して開発した転移魔法の一種さ。魔力の消費量がとても多いから、多用は出来ないけど……。それでも実戦では有用な術式といえる。どうして彼女が使えるのかっていう疑問はあるけれど……。まあ、些細な問題だろう」

「S・サバイバーは大丈夫だよな……」

「問題無いね」

「……そうか」


 リフルデリカの言葉に、鹿羽は安心した様子でそう言った。


(――――今まで障害の無い人生を歩んできたのかもしれないけれど、カバネ氏には実戦経験が不足しているかもしれないね……)


「……そんなに見つめられても困るんだが」

「いやー、改めて見ても僕と似ているよね。実は生き別れの兄妹なんじゃないのかな? そうなると僕がお姉ちゃんだね。お姉ちゃんって呼んでくれても構わないよ?」

「生憎俺は一人っ子だ。お前みたいな姉は記憶に無い」

「年頃だね……。弟が姉離れしてしまって、お姉ちゃんは悲しいよ……」

「面倒くせえ……」


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