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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
三章
63/200

【063】枝分かれした敵意


 一


「よう。似合ってるじゃないか」

「…………僕は自由を愛していることを再認識出来たよ。良い機会になった。感謝するよ。――――話は変わるけど、僕ってけっこう記憶力には自信があるんだ。他人から頂いた恩も忘れないんだよね。――――その逆も、僕は絶対に忘れないんだ…………」

「なんで服を着ただけで、そんなにダメージ食らってるんだよ……」


 鹿羽は呆れた様子で、そう呟いた。


「――――まあ、良いさ。僕はこの女に存在を抹消されることを懸念していただけだからね。多少の無礼も、君に免じて忘れることにするよ。うん。これで僕と君の貸し借りは無しだ。ようやく立場が対等になった気がするね。心置きなく、君と関われる訳だ」

「お前が服を着るのに、どうして貸し借りの話になるんだろうな」

「……?」

「心底不思議そうな顔をするんじゃねえよ……」


 頭を傾けている少女――リフルデリカに対し、鹿羽は深い溜め息をついた。


「カバネ様。この方は、カバネ様の客人様ということで宜しいのでしょうか?」


 リフルデリカの後ろで、C・クリエイター・シャーロットクララは鹿羽にそう問いかけた。


「――――招かれざる客、という点ではそうかもしれないな。こいつは“光の天使”を操っていた黒幕だ。まあ、成り行きで一緒に行動しているんだが…………」


「その説明は誤解を招くよ。“光の天使”というのが僕の魂の依り代として選ばれた女性であることを前提に話すけどさ、僕はあくまで魂の依り代として彼女を利用していただけで、彼女を操ってなんかいないし、そもそも操ることなんて出来なかった。たとえ彼女が君達にどれだけの損害を与えたとしても、僕にそんな意図は無かったんだよ。そもそも僕は今の今まで意識を失っていたからね。君達に害を為そうとして行動していた訳じゃない。――――全部話すと長くなるから、詳しい説明は割愛させてもらうけれども、魂として僅かな魔力だけを残すこととなった僕は、君と出会うまで、ただフワフワと存在していただけなんだ。仮に僕の魂がかつての依り代の人格に影響を与えていたとしても、それは僕の意思とは関係が無いんだ。黒幕だなんてやめておくれよ。僕は君の味方だ。――――無論、僕がこの女の味方かどうかは、まだまだ議論の余地が残されているけどね」


「一先ず、敵じゃないそうだ……。そういうことで頼む……」

「か、畏まりました……」


 呆れた様子でそう言った鹿羽に、C・クリエイター・シャーロットクララはコクリと頷いた。


「君が僕の為にそう言ってくれるだなんて意外だね。まあ、そもそも僕をここまで復活させてくれた君のことだから、なんかかんだ言って僕の味方をしてくれることは理解しているけどね。それでも、こうやって言葉で僕の都合の良いように発言してくれるというのは、とても気分が良いものだ。やはり、僕と君の出会いは偶然なんかじゃない。きっと、何かしらの根拠に基づいた必然なのだろう。それを解き明かすのはもう少し後になりそうだけど、僕が僕の使命を果たして、全てが丸く収まった時に、この必然をゆっくり研究して、検証していくとしようか。そうだ。それが良い」


「……C・クリエイター。こいつは決して味方ではないからな。くれぐれも油断はしないでくれ」

「畏まりました」

「やっぱり君は酷い人だなあ!」


 リフルデリカは不満げな様子でそう吐き捨てた。


「でも、やっぱり、こいつの存在を皆に知らせないと駄目だよな……。麻理亜辺りが納得してくれるかどうか……」

「――――麻理亜ちゃんが納得するかどうかは、麻理亜ちゃんに直接言ってみないと分からないんじゃなーい?」

「麻理亜……。居たのか……」

「ふふ。面白そうなことになってるねー」


 ギルド拠点内部、装備品を保管してる倉庫にて。

 その入り口で、麻理亜は笑みを浮かべながらそう言った。


「……言い訳をさせてもらっても良いか?」

「言い訳ってことは、やましい事情でもあるの? もし私の知らないところで鹿羽君が悪いことをしていたんだとしたら、ちょっぴり悲しいかなー、なんて」

「悪くは無いと思うが……、な」

「いずれにせよ、鹿羽君の口から話を聞きたいなー」

「……分かった。リフルデリカ、そう言う訳だ。説明するからお前も手伝――――――――」


 鹿羽は振り向いて、言い切ろうとした瞬間。

 リフルデリカは鹿羽を手前に引き寄せて、麻理亜から距離を取った。


「…………何だよ」

「ごめんよ。身体が先に反応してしまったようだ。僕にも確証がある訳じゃないからさ、何とも言い難いというのが実情なんだけどね。しかし、まあ…………。困ったな。論理よりも本能が、僕に警鐘を鳴らしている」

「随分と鹿羽君にご執心なのねー。別に取り上げようって訳じゃないよー? あげるつもりもないけどねー」

「何を言っているんだい? 別にお前……、いや、貴様……、ああ、良い言葉が出てこないな。ごめんよ。これは僕自身の極めて個人的な話だ。おそらく、君には関係の無い話だろう」


 リフルデリカはそう言いつつも、口調には敵意のようなものが宿っていた。


「お前こそ何を言ってるんだ。何の話だよ、リフルデリカ」

「…………そう、だね。君には、そう遠くない未来に説明するよ。先ずは目の前の、何を考えているのか分かり辛い人……。――――ごほん。彼女の対処が先決だ。彼女はいったい何者なんだい? あと、君とどんな関係なのか教えてくれないか? 場合によっては、然るべき対応が必要かもしれない」

「……麻理亜は俺の幼馴染だ。悪いが、お前が麻理亜の敵なら、俺は迷いなく麻理亜に付くからな」

「わーい。うれしー」

「――――それは少し寂しい意見表明だね。まあ、そうか。別におかしな話じゃないのか……。身体を伝う不快感は拭えないけれど、絶対に受け入れられない邪悪な雰囲気は彼女には無い。つまり、ただの偶然、ということになるのか……」

「ふふ。私が悪役みたいな雰囲気だねー。リフルデリカちゃんだっけ。非常に興味深い名前だけどー、良ければ事情を教えてくれない?」

「ごめんよ。それは遠慮させてもらう。全く関係の無い人にこんな対応をしてしまって、非常に不愉快な思いをさせてしまったのかもしれないけれど……。僕も少なからず、不愉快な記憶を思い出してしまったんだ。気分が落ち着いた時にでも、それこそ簡潔に説明すると誓おう。そうだ。それが良い。今はお互いに時間を置くことが必要だ」

「別に私は気にしていないけどねー。でもー、簡単に説明ぐらいはしてくれたって良いんじゃない?」

「そうだね。君の言う通りだ。簡単な説明ぐらいは、必要だったね」


 リフルデリカは無表情のまま、続けた。


「――――ただ、僕の大嫌いな人に似ていたってだけの話さ。簡単だろう?」

「……私はただの被害者だったみたいねー」


 麻理亜は呆れた様子で、そう呟いた。


「……リフルデリカ。そろそろ放せ。痛いんだよ」

「ああ、ごめんごめん。突然のことだったからね。珍しく、僕も焦ったんだよ。悪く思わないでおくれ」

「全く……。良い迷惑だ」


 鹿羽は吐き捨てるようにそう言った。


「まあ、新しい味方ということで良いのかしら? 鹿羽君が見つけてくる人材は、みんな優秀だからねー。鹿羽君にそっくりというのは気になるけどー」

「悪いけど、僕は彼の味方であって、君の味方であるかは別の話だ。あまり僕を信用しないでくれたまえ」

「敵の敵は味方かもしれないけどー、味方の味方は敵にはならないんじゃなーい?」

「はっ! 場合によるとしか言えないね。敵の敵が敵であることはよくあるし、味方の味方が敵であることも多々ある。それに自分の味方を自称する奴なんて、そもそもロクな人間じゃないさ。――――失礼、少し言い過ぎたようだ」

「似ているってだけで、知らない誰かさんへの敵意を向けられるのは悲しいことだわー。私、何にも悪くないのにー」

「そうだ。君は何も悪くない。だからと言って、君が良い人間かどうかは別の話だけれどもね」

「鹿羽くーん。この子が虐めてくるのー。麻理亜ちゃん悲しー」

「ふん……。白々しい……」


 鹿羽に泣きつく麻理亜をよそに、リフルデリカはそう吐き捨てた。


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