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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
三章
62/200

【062】服探し


 一


「ねえ。何か感想は無いのかい? 自分で言うのはおかしいのかもしれないけどさ、凄い魔術だろう?」

「少しは隠せよ! お前には恥じらいというものが無いのか!?」

「恥じらい、ねえ……。勘違いしないで欲しいのは、僕は別に自分の裸を見せびらかしたい訳ではないんだけれど……。確かに大衆の前で裸になれと言われれば、多少の躊躇いはあるけれども、今の状況はそれには該当しない訳で……。短い間だったけど、君は僕の依り代として協力してくれた恩人みたいなものなんだ。いや、それ以上かもしれない。魔力の相性が良くて、こうして僕は自我を取り戻して活動出来ている。恩という言葉では言い尽くせないな。言うなれば、君は僕の家族だ。利益や論理を超えて助け合う運命共同体みたいなものだね。そんな君に裸を見られることには、僕には一切の羞恥は無い。無論、君はそうではないみたいだけど――――――――」


「身体を隠せって言ってるんだよ!」


 鹿羽はそう叫ぶと、自室のベッドにあったシーツを少女に投げた。


「……? 心遣いはありがたいんだけどさ、別に寒い訳じゃないんだよね」

「隠せって意味だよ! ふざけんな!」

「ああ、そういうことだったのか」


 少女――リフルデリカは、鹿羽から受け取ったシーツを纏った。


「やっぱり窮屈だから脱いでも良いかい?」

「……いい加減にしろよ?」

「別に良いじゃないか……。君には不利益が無いだろうに……」


 リフルデリカは不満そうに、そう呟いた。


「くっそ……。――――行くぞ」

「何処へ行くんだい? 文句を言いつつ優しくしてくれる君のことだから、本質的に僕の不利益となるような場所には連れていかないとは思うんだけれども……。君の機嫌が損なわれない範囲内で、ぜひとも教えてくれると僕としては嬉しいんだけどさ。そう言えば、君には頼りになりそうな味方が何人かいたね。もしかして僕のことを紹介してくれるのかい? もし、君の味方が同様に僕の味方をしてくれるんだとしたら、これ以上の喜びは無いよ。きっと優しい君の仲間のことだから、その人達もきっと僕に優しくして――――――――」

「お前の服を探しに行くだけだ。今後の待遇に関しては、皆に相談して決める」

「ありがとう。君はやっぱり、僕の味方をしてくれるんだね」

「――――良くて追放。最悪の場合は考えるまでもない」

「どうしてそんな酷いことを言うのさ!? 僕はこんなにも君に尽くしているっていうのに!」

「言わせてもらうが! 尽くした記憶はあっても尽くされた記憶は無いからな!?」


 鹿羽は、シーツ一枚で身体を隠すリフルデリカを連れて、静かに自室を後にした。


 二


「少しは自分で探してくれよ……」

「そんなことを言われてもさ、僕は身に着けるものにはあまり興味が無いんだよね。流石に裸で外を出ることには多少の躊躇いはあるけれど、肌を隠せるものであればなんでも良いというか……。そうだね。君が決めてくれて良いよ。そうだ、それが良い。僕が選ぶ手間が省ける」

「俺が選ぶ手間が増えるんだよ……」


 場所はギルド拠点内部。

 あまり重要ではないアイテムや装備が保管されている倉庫にて。


 リフルデリカの衣服を見つける為に、鹿羽は倉庫の中の装備品を漁っていた。


(そもそも男である俺が、こいつの服を見繕うこと自体間違っているだろ……。でも半裸であるこいつを誰かに任せる訳にもいかないし……。全く……)


「近くに誰かいるみたいだね」

「な……っ。か、隠れろ! 今のお前を誰かに見られたら――――」

「どうしてだい? 何を隠す必要が――――」

「俺が困るんだよ!」


 鹿羽は声を抑えながら、そう叫んだ。

 しかしながら、リフルデリカが鹿羽の思う通りに動くことは無かった。


「…………カバネ様。そちらの御方は、一体……?」

「C・クリエイター、か……。こ、こいつはだな……」

「はじめまして。僕の名はリフルデリカ。よろしくお願いするよ」

「リフルデリカ……? こ、こちらこそ、よろしくお願い致します……」


 C・クリエイター・シャーロットクララは怪訝な表情を浮かべつつも、リフルデリカに対して、丁寧にお辞儀をした。


「あ、あのだな。事情を説明すると長くなるんだが……」

「へえ。君も魔術師なんだね。それも、彼や、この僕に匹敵する程の……」

「……カバネ様には遠く及びません。私も、貴女も……」

「ふむ。確かに今の僕は、全盛期だった頃の僕とは程遠いものだ。でも全盛期の頃の僕は、決して君達には劣ってはいないと思うよ? まあ、勝るとまでは言わないけどさ。それに、彼は魔術師としてやや未熟な部分も見受けられる。無論、その身に宿す魔力の量は大したものだけどね」

「……」


 リフルデリカの主張に対して、C・クリエイター・シャーロットクララは不服そうに押し黙った。


「…………C・クリエイター。今のところ、こいつは悪い奴じゃない。でも信頼するには不安が残る。一応、気を付けてくれ」

「相変わらず、君は酷いな。いつ、何処で、君に何をしたって言うんだい?」

「俺を魂の依り代とやらにしようとしたのは何処のどいつだ?」

「……そういえば、そうだったね。そうだったそうだった。君を利用しようとしたのは謝るよ。悪かったね」

「…………こういう奴だ。絶対に信用はするな」

「か、畏まりました……」


 C・クリエイター・シャーロットクララは困惑した様子で、そう頷いた。


「あと、C・クリエイターに頼みがある。こいつの服を選んでやってくれないか? やむを得ない事情でこうなったんだが……」

「畏まりました」

「ちょ、ちょっと待っておくれよ。僕を置いていくつもりかい? 僕がこの女に惨殺されたらどうするのさ」

「……それはそれで仕方ないかもしれないな。だってお前、性格悪いし」

「流石にそれは誹謗中傷だよ! 心外だ!」


 リフルデリカは大きな声でそう言うと、グイっと鹿羽に迫った。


「そんな格好で近づくな……」

「君は僕よりも彼女を信頼しているみたいだけどね! 僕は彼女より君のことを信頼しているんだよ! 僕の信頼に応えてくれたって良いじゃないか!」

「くっそ……っ。C・クリエイター! こいつを頼む!」

「……畏まりました」


 C・クリエイター・シャーロットクララはそう答えると、魔法によってリフルデリカを鹿羽から無理矢理引き剥がした。


「く……っ! 全盛期の頃の僕だったら! こんな魔法なんか効かないのに……っ!」

「命令ですので、大人しくして頂けると幸いです……」

「屈辱だ……っ!」


 C・クリエイター・シャーロットクララの魔法によって、リフルデリカは、彼女の思い通りに動かされていた。


「……そう言う訳で、頼んだぞ。終わったら呼んでくれ」

「畏まりました。カバネ様」

「待て! 待ってくれ! 僕が悪かった! これからは君の機嫌を一切損ねないように努力すると誓おう! だから! この女から僕を解放しておくれ!」


 鹿羽は振り返ることなく、この部屋を後にした。


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