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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
三章
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【061】独り大論争


 一


 場所はギルド拠点内部、鹿羽の自室。


『――――そろそろ口を開いても大丈夫かい? 黙って大人しくしているというのも、思った以上に退屈なものなんだよ。もう仕事は終わりだろう? 魔術師同士、お互いの理想や嗜好について夜通し語り合おうじゃないか』


『退屈退屈って散々言うけどな……。いきなり話しかけられる俺の気持ちにもなってくれ……。けっこう神経に障るからな……?』


『そんなこと言われても困るよ。確かに僕の存在は、君の予定には存在しなかった、非常に煩わしいものなのかもしれない。それでも、僕と君が出会ったのは単なる偶然ではなく、もはや必然とまで言えるだろう。僕と君の魔力の親和性の高さは、偶然という言葉で片付けられないほどに凄まじいものなんだ。これは興味深い事象として十二分に研究する価値のあることだと僕は思う。もし、僕らがこの謎を解き明かし、具体的な技術として応用することが出来たのなら、その恩恵は計り知れないものになると思うね。良いかい? 冷静に考えておくれ。客観的に、落ち着いて、利己的に考慮してもらっても問題は無い筈さ。僕と君が共に協力し合うことが、僕にとっても、そして君にとっても、どれだけ価値があるのかということを論理的に考えることが――――――――』


『ワザとだよな……? 分かっててやってるだろお前ェ……』

『…………? 勿論、僕は理解しているとも』

『くっそ……』


 鹿羽は心の中で、そう吐き捨てた。


『……あれだ。お前は他人を不快にさせるレベルでお喋りなんだよ。黙れとまでは言わない。だから、もう少し簡潔に喋ってくれ』


『簡潔……。なるほど。君の言い分は理解した。僕の方針としては、適切といえるありとあらゆる情報を羅列して、相手の理解を促進させようという方針で語っていたのだけどね。君の主張は最もだ。それも他人との相互理解において重要な要素の一つと言えるだろう。やはり、異なる視点、異なる考えを持つ他人と交流することには大きな意義があるよね。こうして、独りよがりかもしれない僕の考えに、新たな着想を与えてくれるんだから。一人では到達出来ない更なる高みに、君は今、僕を導いてくれた。これは小さな一歩かもしれないが、人々の膨大無限といえる営みの中では、偉大な一歩に繋がるかもしれない。たとえ大きな飛躍が過去の歴史に存在していたとしても、それは一つ一つの小さな歩みによって成し遂げられた、いわば積み重ねみたいなものだ。小さな歩みを否定する者は、いわゆる巨視的なものしか見えていないんだろうね。僕が生きていた時代にも、そういった人種がとても多かった。でもそれは間違っているといっても良い。君も分かるだろう? 一歩ずつの小さな歩み……、取るに足らない一つ一つの事象を注意深く観察し、確かな根拠を以って検証することこそが、最も有効な改善方法なんだよ。少なくとも僕はそう思う。だからこそ僕らは、いや、最低でも僕と君は、こういった方針に基づいて議論を重ねていく必要があると――――』


『俺がなんて言ったか、覚えているか?』

『……簡潔に説明することだったよね。まだ不満かい?』


『少なくとも、俺とお前が互いを理解して協力し合う未来は見えなかったけどな……っ』


『それは大変なことだ。未来への損失と言い換えてもいい。僕の主観では、簡潔に説明するように心がけたつもりだったんだけど、具体的に何が問題だったんだい? 僕には、君の主張を受けて、改善を図っていく用意がある。君と交流が出来ないことは、僕にとって大きな痛手となるからだ。躊躇う必要はないよ。議論というのは、先ず、躊躇わずに意見を表明することから始まるんだから。この考えには自信があってね。ある日、僕の後ろについてきた――――』


『……お前を消滅させる。悪く思うな』

『待って待って待って! それは困るよ!』


『もう限界だ! 消滅させるね! たとえお前の存在にどれだけのメリットがあったとしても! 俺は自分の精神の安寧を選ぶ! 死ね!』

『待っておくれ! 君が今! どれだけ恐ろしいことを口にしているのか理解しているのかい!? これは僕自身の損失にとどまらないよ!? 全世界全人類に対する冒涜的な行為だ!』


『一々説明が胡散臭いんだよ! 頭沸いてんのか!?』

『君は今! 感情に支配されてしまっている! 冷静に! 落ち着いて! 長期的な視点で僕の価値を理解するんだ!』

『長期的な視点で考えてもデメリットがでか過ぎるんだよ!』


 鹿羽は怒りを露わにしながら、心の中でそう吐き捨てた。


 そして、鹿羽は深い溜め息をついた。


『…………お前が俺の中で喋らなくなる方法を教えろ。無いなら問答無用で消す』

『分かったよ。あまり良い方法ではないかもしれないけれど、方法はあるにはあるんだ。上手くいけば、最高の結果で終わるかもしれない。でも根拠も不十分だし、何より検証されていないというのが大きな不安要素だ。お互いにも大きな負担を要するものだし、何より君が納得するか――――』


『方法だけを教えろ。どうするかは俺が決める』


 鹿羽は、遮るようにそう告げた。


『……強権的だなあ。分かったよ。君が僕に魔力を貸してくれるだけで良い。それだけだ』

『魔力を貸してもらってどうするつもりだ? 俺に魔法をぶっ放すつもりじゃないだろうな?』

『あはは! 面白いことを言うね。僕は自分の肉体を持っていないというのに、どうやって君を攻撃するというんだい?』


 魔法を使えるだけで、その詳しい仕組みには疎い鹿羽は、その主張に反論することが出来なかった。


『――――はあ。納得した訳じゃないが…………。分かった。どれだけの魔力を貸せばいい?』

『半分だね』

『……俺の全魔力の半分っていうことか?』

『そうそう。簡単だろう?』


『…………短い間だったが楽しかった。じゃあな』

『なんでさ!? そんなのおかしいだろう!?』

『なんで俺がお前の為に全魔力の半分を消費しなくちゃいけないんだよ!? おかしいのはそっちだろ!?』


『はあ……………………。分かった。分かったよ。何とかする。君が非協力的なことは非常に残念だけど……、少ない魔力で何とかするよ。だから、少しで良いから魔力を貸しておくれ。その少しだけの魔力で、僕は君を納得させるような結果を出して見せる』

『……どのくらいだ?』

『五十分の一くらいで良いよ。最低限、それくらいあれば問題は無い』


『……………………言いたいことはあるが、分かった。良いだろう』

『はあ……』

『こいつ……っ』


 鹿羽は一思いに消し飛ばしたい衝動を押さえながら、自身に流れるもう一つの魔力に意識を向けた。


『そうそう。もっともっと』

『終わったぞ。きっちり五十分の一だ。さっさとやってくれ』

『本当に最低限の量を送ってくるなんて……。君という人は……』


(我慢しろ自分……。これで駄目だったら消せば良いんだ……。どの道、俺は解放されるんだ……)


 鹿羽は、必死に自身の感情を押さえつけた。


『…………はい、準備は出来たよ。用意は良いかい?』

『待て。具体的にどうなるんだ?』


『具体的って言われても……。簡単な話だよ。実体化して、君の外から出ていくだけだ』

『どういうことだよ。それって――――』

『問題無いなら、さっさと始めるね』


 そう言うと、鹿羽の中に存在するもう一つの魔力が、大きく変化を始めた。


『――――――――全く面倒な術式だよ。本当に……』


 鹿羽の自室は、強い光で満たされた。


 あまりにも強い光に、鹿羽は思わず目を閉じた。


「――――――――っ」

「あー。大成功、かな。良かった良かった。本番に強くて本当に良かったよ」


 光が消滅した。

 そして、鹿羽は、ゆっくりと目を開けた。


「お、お前……」

「ふふ。凄いだろう? 僕の魔術は不可能を知らないのさ。無論、それ相応の代償を必要とするけどね」


 鹿羽の前には一人の人間が立っていた。


 その一人の人間は、鹿羽に酷似していた。

 髪の色、瞳の色、身体の造形に至るまで。

 まるで同一の存在として人工的に作られたかのように、その人間は鹿羽によく似ていた。


 異なる点を挙げるとすれば、その人間の右目には大きな傷跡があった。

 更に言えば、鹿羽は衣服を身に着けていて、その人間は裸だった。


「……驚くことかい? ああ、裸というのが頂けないのか。君は気難しいからね」

「…………っ」

「目を逸らすこと無いだろう。殆ど君と同じなのに。自分の裸を恥じらうほどに初心なのかい?」


 その人間は、一切恥じらう仕草を見せずにそう言った。


 対する鹿羽は顔を赤らめ、その人間から視線を逸らしていた。


「お前……、女だったのかよ……」

「ん? そりゃあ、そうだけど……。ああ、なるほど。君は一応、男だったね」


 かつて、信仰の魔女と呼ばれ、後に偏愛の魔女を自称した、一人の少女がいた。

 リフルデリカという名を持つその少女は、自分から目を逸らす少年のことを静かに見つめていた。


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