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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
三章
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【057】光の天使VS“B”①


 一


 統一国家ユーエスとリフルデリカ教皇国との間にて勃発した国家間戦争。

 両国の境界線にて始まった初戦を華々しく勝利で飾った統一国家ユーエスは、前線をリフルデリカ教皇国領内へと押し上げていた。


 場所はリフルデリカ教皇国内、モードという名の平原。

 統一国家ユーエスの志願兵と、リフルデリカ教皇国の正規兵達は、祖国の利益の為に、再び睨み合う形となっていた。


 正体不明の大魔法によって大敗を喫したリフルデリカ教皇国は、ここ、モードにて行われる戦いを決戦に位置付けていた。

 今回、リフルデリカ教皇国が用意した兵は、国境付近によって勃発した戦いから撤退したものを含め、おおよそ八万五千。

 その中には、教皇国最強の部隊と名高い国家組織――黒の教会の姿もあり、ひいては教皇国最強と言われている“光の天使”――セラフィマの姿もそこにはあった。


(――――まさか、私が歴史の表舞台に引きずり出されるとは思わなかったけれど。どれだけ切羽詰まっているのかしら、ねえ)


 リフルデリカ教皇国の作戦は、以下の通りだった。

 開戦時刻と共に、正体不明の大魔法を使用したとされる魔術師を“光の天使”によって撃破。

 統一国家ユーエスの作戦の根幹であろう大魔法を早々に潰すことで、統一国家側の戦力を大幅に削り、そのまま八万五千の大軍で飲み込もうというものだった。


(結局、私頼みってことよねえ。たまたま風邪で休んだらどうするつもりなのかしら?)


 “光の天使”――セラフィマに任された役割は、この戦いの最終的な勝敗に直結するほどに重要なものであった。

 なぜなら、リフルデリカ教皇国に甚大な被害を与えたその正体不明の大魔法の対抗策が、“光の天使”によって何とかしてもらうしかなかったからだった。

 もし、“光の天使”が大魔法を防ぐことが出来なければ、リフルデリカ教皇国にはもう打つ手など無かった。

 もし、“光の天使”がその役割を果たすことが出来なければ、兵士と国民の無駄な犠牲を惜しんでの降伏でしか、統一国家ユーエスの侵攻を止める手段は存在しなかった。


(しくじったら国が終わる、ねえ。散々閉じ込めておいて、いざとなったら全責任を背負わせるだなんて……。全く……。上層部には誇りというものが無いのかしら?)


 見晴らしの良い場所にて、“光の天使”――セラフィマは空を見上げていた。


(――――不可視化の魔法……。見つけた。あれが、リフルデリカ教皇国正規兵五万を退けたっていう化け物ね)


 そして、統一国家ユーエスの兵がいる場所の上空にて、魔法によって姿を隠している一人の魔術師の姿を、セラフィマは肉眼で捉えた。


(ターツァ山脈にいたヤバい魔術師では無さそうね。ちょっと意外だったけれど、そこまで世間は狭くない、ということかしら)


 セラフィマは、E・イーター・エラエノーラとの戦いの時を思い出していた。


 自分に撤退を決意させた、強大過ぎる魔力。

 上空を漂う魔術師が持つ魔力は、セラフィマが鮮明に覚えている“それ”とは別物だった。


(まあ、一緒だろうと、そうでなかろうと、化け物相手には変わりないんだろうけどね)


 セラフィマは静かに笑うと、禍々しい剣を握り締め、遠くに浮かぶ小さな影を見据えた。


 二


(――――隠し切れない、俺への殺意……。あれが“光の天使”、か)


 鹿羽は上空で強風に吹かれながら、リフルデリカ教皇国の兵を見下ろしていた。


(予定では、“光の天使”が早い段階から俺を潰そうとする筈だが……。さて、どう出るか……)


 鹿羽達が行った事前の打ち合わせ通り、この戦場には、リフルデリカ教皇国の切り札である“光の天使”が姿を見せていた。

 そして、麻理亜やC・クリエイター・シャーロットクララが予想した展開としては、その“光の天使”が直ぐに鹿羽の元へとやって来るだろう、とのことだった。


(まあ、来ないのであれば、前回同様“骸兵行進曲/アンデッドマーチ”でリフルデリカ教皇国を潰すだけだが)


 鹿羽の目的は、“光の天使”の無力化だけだった。

 その過程で、どのように戦況が変化し、どれだけの人々が犠牲になろうとも、今の鹿羽にはどうでも良かった。

 E・イーター・エラエノーラを傷付け、その先で、自分の大切なものを傷付けるかもしれない存在を葬ることしか、鹿羽の頭には無かった。


(――――時間、だな)


 開戦を知らせる、管楽器のけたたましい音が平原に響き渡った。


 そして、リフルデリカ教皇国側の兵士の一人が、大地を蹴って、恐るべき速度で鹿羽に迫った。


(来たか――――)


 その兵士は、言うまでもなく“光の天使”だった。

 戦争に勝つ為に、脅威を退ける為に、己が使命を全うする為に、“光の天使”――セラフィマは、鹿羽の首を落とさんと迫った。


 そして。


「――――至高なる御方々を守る、剣が一人。いかなる敵も、許しはしない」


 一人の女性が、“光の天使”を阻むように飛び出した。


 女性の名は、B・ブレイカー・ブラックバレット。

 “破壊”を司る、一人の“戦士/ウォーリアー”だった。


 最強とも評される彼女は、鹿羽を守るように、“光の天使”に立ちはだかった。


 そして、同じく最強と呼ばれる“光の天使”を、真っ向から叩き落とした。


「仲間が世話になったようだな。たっぷり礼をさせてもらうぞ――――」

「――――はっ! 一筋縄じゃいかないって訳ねっ! 良いわっ! 全員まとめてぶっ殺してやるっ!」


 最強同士の戦いが始まった。


 三


 戦場となる予定だったこの場所は、確かに苛烈な戦場へと姿を変えていた。


 しかしながら、国家間戦争の戦場である筈のこの場所は、たった二人の戦士しか武器を振るっていなかった。


 この戦場にて命を懸けて戦う筈の兵士達は、目の前の光景に圧倒されて、動くことが出来ないでいた。


「――――流石に、彼女を退けたほどのことはあるようだな」

「はあ、はあ……。あの女のお仲間? 随分と……、余裕そうね……。はあ……」

「…………悪いな。彼女や貴様を愚弄するつもりは無いが……、私は然るべき力を持っている。貴様ごときに後れを取ることはありえない」

「……油断していると、はあ……、足を掬われますわよ……?」

「やってみろ。そのまま踏み砕いてやる」


 “光の天使”――セラフィマは、その手に握り締めた剣を振るった。

 圧倒的な力によって放たれた斬撃は、大地を抉りながらB・ブレイカー・ブラックバレットへと迫った。


「何なのよ……っ」


 セラフィマによる圧倒的な一撃によって、青々とした平原は茶色い地面を剥き出しにしていた。

 しかしながら、B・ブレイカー・ブラックバレットだけは、何事も無かったかのように無傷で立っていた。


「癒えぬ傷を負わせる、その死神の力……。一度でも食らえば、致命傷となるのかもしれないが……」


 B・ブレイカー・ブラックバレットは肩をすくめて、静かに笑った。


「残念だったな。貴様では、私に傷一つ付けられないらしい」

「…………よければ、仕掛けを教えてくれない? はあ……、それが分かれば……、良い勝負になるかも……」

「断る、と言いたいところだが、そこまで難しい話ではない。私が強く……、或いは、貴様が弱いだけだ」


 B・ブレイカー・ブラックバレットは淡々とした様子で、吐き捨てるようにそう言った。


「何の役に立たない助言をくれて感謝するわ……っ! この化け物め……っ!」

「一番大事なことだと思うがな。弱くては、何も出来ない」


 B・ブレイカー・ブラックバレットはそう言うと、白く輝く斧を振るった。

 その一撃は、剣による防御を貫通して、セラフィマにダメージを与えた。


 対するセラフィマも、剣を振るった。

 地を割り、天を裂いて、強烈な斬撃がB・ブレイカー・ブラックバレットを粉々にしようと迫った。


 しかしながら、B・ブレイカー・ブラックバレットが傷付くことはなかった。


 攻撃の速度それ自体に、互いにそこまでの差は無かった。

 しかしながら、B・ブレイカー・ブラックバレットの攻撃がセラフィマの身体を大きく傷付ける一方で、対するセラフィマの攻撃がB・ブレイカー・ブラックバレットの身体を傷付けることは遂になかった。


「――――――――か、は……っ」

「内臓に入ったな。作戦を完璧に遂行する為に、ある程度の手加減をしているとはいえ、貴様も中々に優れた戦士のようだ。誇れ」

「馬鹿に、しやがって……! は、はあ……っ。は、は、はあ……っ」

「闘志も申し分ない。私に使命が無ければ、良き友人になっていたかもしれないな。無論、ありえないことだが」

「は……っ! 願い下げだわ……っ。お前のような……っ、化け物なんかに……っ!」

「――――お喋りはここまでだ。終わらせてもらうぞ」


 B・ブレイカー・ブラックバレットはそう言うと、静かに斧を構えた。


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