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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
三章
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【053】行進曲①


 一


 ルエーミュ王国とリフルデリカ教皇国の国交は、お互いの利益を優先するが故の、睨み合いの歴史であった。

 それでも、反戦主義、貿易における双方の利益といったある種の資本主義的な営みが、ルエーミュ王国とリフルデリカ教皇国双方に平和をもたらしていたのもまた事実だった。


 その平和が今、終わろうとしていた。


 議会の正式な承認を得て、旧ルエーミュ王国である統一国家ユーエスは、国際法上においても有効な宣戦布告をリフルデリカ教皇国に通達していた。


「――――――――皆様、お集まり頂き、誠にありがとうございます。わたくしは、今回、真の愛国者である皆様の指揮を任されました、アダムマンと申します。この軍帽、中々良いものでしょう? これはわたくしが尊敬してやまない、ある意味父親のような方から頂いた素晴らしい代物です。これについて、わたくしが持つありったけの感情を全てご説明するとなれば、この戦争が終わってもなお終わることはありません。――――話が逸れましたね。自由と平等を愛する者として、皆様は自分の意思で、この国をお守りする志願兵となった訳ですが――――――――」


 壇上にて、A・アクター・アダムマンは大袈裟な仕草を交えながら、リフルデリカ教皇国に対する宣戦布告の件で招集されることとなった志願兵達に演説を行っていた。


「――――では、我が国の為に剣を取ることを決意された愛国者達の総数を発表するとしましょうか。是非、落ち着いてお聞きになって下さい。無論、もう皆様には見当がついているかもしれませんが」


 A・アクター・アダムマンは、一枚の羊皮紙を取り出した。

 演説に耳を傾けている者からすれば、羊皮紙には志願兵の詳しい人数が書かれているのだろうと容易に予想がついた。


 しかしながら、その羊皮紙には何も書かれてはいなかった。

 A・アクター・アダムマンを良く知る人物からすれば、それは彼による下らないユーモアの一つであることを直ぐに悟ったであろうが、残念ながらその事実に気が付く者はここには居なかった。


「ここに集まった志願兵の総数は、およそ五千。現在確認されているリフルデリカ教皇国の兵力はおよそ五万ですので、一人当たり十人倒せば勝利ですね。いやはや、簡単な話です」

「ま、待てよ!」

「ふざけるな! 俺達を殺すつもりか!?」

「――――おや? 命を以って祖国に報いる為にここにいるのではなかったのですか? あなた方の愛国心とは、死を前に消えてしまうような生半可なものであった、と?」


 声を上げた志願兵に、A・アクター・アダムマンは煽るような視線を向けた。

 しかしながら、声を上げなかった他の志願兵も、A・アクター・アダムマンに対して疑念が込められた視線を投げかけていた。


 そして、志願兵の一人――ジョルジュ・グレースは、はっきりとした口調で抗議の声を上げた。


「そんなの間違っています! 私達は自由と平等の為にここにいる! 今! 貴方が口にしたことは! 論理を履き違えた屁理屈です! むやみに私達の命を使い捨てるおつもりなら! 私達は貴方についていくことなど出来ない!」

「そうだ!」

「そうだそうだ!」


 ジョルジュ・グレースの意見に賛同するように、志願兵達は次々と声を上げた。

 責め立てるような抗議の声と視線が、一斉にA・アクター・アダムマンへと殺到していた。


「は」


 瞬間、A・アクター・アダムマンは口を開けた。


 そして、腹を抱えて、頭を抱えて、楽しそうに大笑いを始めた。


「はははははははは!!」


 一つになりかけていた志願兵達の抗議は、A・アクター・アダムマンの異様な笑い声によって容易く砕かれてしまった。


 その様子は、おかしい、というより、ただただ異様であった。


「素晴らしい! 実に素晴らしい! やはりこうでなくては! 私が一方的に語りかける演説など! 一人芝居も良いところだ! わたくし達は今! 歴史の中にいる! 現在進行形で形作られた舞台の上に立っているのだ!」


 そして興奮した様子で、A・アクター・アダムマンはそう叫んだ。


 しかしながら、打って変わって、A・アクター・アダムマンの態度は直ぐに当初の落ち着いたものに変化した。

 それは、さながら台本のままに演じる俳優のようだった。


「――――ミス・ジョルジュ・グレース、でしたね? ご安心下さい。貴女の懸念は最もです。とは言っても、要らぬご心配であることにはお変わりありませんが」

「……それでは、どうするおつもりなのでしょうか。アダムマン指揮官殿」

「はは。良い響きですね。ミス・ジョルジュ・グレース。――――今回わたくし達は、誠に遺憾なことでありましょうが、歴史に名を刻む役者ではないのです。ご理解頂けますか?」

「分かりません。貴方の話は抽象的過ぎます。具体的にこれからどうするのかを、教えて欲しいです」

「実に謙虚で勤勉で美しい方だ。良いでしょう。わたくし達――志願兵に与えられた役割とは何か……。それを、実に分かり易くお教え致します」


 A・アクター・アダムマンは何も書かれていない羊皮紙を、壇上の机にひらりと落とした。


「あなた方は、只の観客だ。戦争が始まり、そして終わるのを眺めるだけの“オーディエンス”に過ぎない。何の準備も要りません。むしろ準備など興醒めも良いところでしょうね。最高のショーを見届けた貴方達は、ただ、祖国で噂話をすればいいのです。最高の物語だった、とね」


 A・アクター・アダムマンは、ハッキリとした口調でそう言い放った。


 二


 場所は統一国家ユーエス、リフルデリカ教皇国との国境付近。


 風が吹き荒れる遥か上空で、鹿羽とC・クリエイター・シャーロットクララの二人は、向こう側で着々と準備を進めているリフルデリカ教皇国の兵士達を遠目に眺めていた。


「――――――――良い、天気だな」

「そうですね。カバネ様の御力を大陸に知らしめるのに、相応しい空模様かと」

「……C・クリエイターは何も思わないのか? 俺がここにいて、これからすることの、その恐ろしさを」

「私は、御方の意思を尊重致します。たとえ人々がそれを非難し、世界を敵に回したとしても、私は…………」

「……それは間違っていると思う。俺が言うのもおかしな話だが」

「カバネ様は、守る為に戦っているのです。その過程で誰かの大切なものを奪ったとしても、それはカバネ様が奪われる悲しみをご理解していらっしゃるが故のことであると。何を躊躇う必要がございましょうか」

「躊躇ってなんかないさ。ただ、自分の行いが間違っていると分かっているだけだ。俺は……、頭が悪いからな」

「…………」


 鹿羽の言葉に、C・クリエイター・シャーロットクララは何も言わなかった。


「そろそろ、か。開戦の時刻は」

「はい。間も無く、A・アクター・アダムマンより合図がある筈かと」


 C・クリエイター・シャーロットクララがそう言い終えた瞬間、統一国家ユーエス側に設置された拠点で旗が振られたのを、鹿羽はしっかりと確認した。


「時間、か」


 鹿羽は、淡々とそう呟いた。


 そこには複雑な感情が込められていたが、対するC・クリエイター・シャーロットクララは何も言わなかった。


「――――C・クリエイター。タイミングは任せた」

「了解です。カバネ様」

「じゃあ、始めよう。“戦争”を」


 巨大な魔法陣が、上空に浮かんだ。

 その魔法陣は黒く、そして禍々しかった。

 魔術師であれば誰でも分かるほどに、その魔法陣は深く闇へと傾倒したものだった。


「――――――――<骸兵行進曲/アンデッドマーチ>」


 魔法陣は、自身に刻まれた意味を発現する為に、その闇を更に深いものにしていった。


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