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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
三章
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【041】最後の冒険②


 一


 場所はハワッフネ王国ヤネヒカ領。

 十二年もの間、あらゆる挑戦者を退けてきた迷宮の前で、攻略の為の作戦会議が行われていた。


「――――先ずは挨拶させて頂く。今回、ヤネヒカ領主様に作戦の責任者を任されたダリポルだ。迷宮の攻略の為には皆様の協力が不可欠。私の指示には、極力従って欲しい」


 木製の簡素な演壇の上で、ダリポルと名乗った男はハッキリとした声で作戦内容の説明を始めた。


 鹿羽は説明に耳を傾けながら、周りにいる同業者に目を向けた。


(……予想より人数は多いな。既存の兵士に加えて、腕が立つ冒険者や傭兵を雇った感じか)


「迷宮の中では、四方八方から魔物が湧き出てくる。対処する為には陣形を崩さないことが重要だ。陣形は非戦闘員を中心とした楕円形に、近接戦闘が得意な者は外側、魔法や弓矢が使える者はその後ろから支援攻撃を行ってくれ。繰り返しになるが、陣形を崩さないことが今回の作戦における成功へのカギになる。各自、肝に銘じておいてくれ」

「――――ということは、我々は最前線であるな」

「待て。カエーテも魔法は使えるだろう。後ろから支援攻撃に徹するぞ」

「それではここに来た甲斐がないではないか!? 我は戦うぞ!」

「接近戦は何が起こるか分からない。危険だ」

「…………自分は内緒で冒険してたくせに」

「ぐ……っ」


 痛いところを突かれ、鹿羽は思わず押し黙ってしまった。


「――――ニームレス様。カエーテ様は拙者が守りますゆえ」

「……はあ。分かった。カエーテ。危なくなったら問答無用で転移魔法で飛ばすからな」

「無論である!」


 S・サバイバー・シルヴェスターの説得により、鹿羽は不服そうに了承した。

 対する楓は、満足そうに頷いた。


「――――――――では、陣形の確認を行う。説明された通りに移動してくれ」


 二


「うおおおおおおおお!!!」

「絶対に侵入を許すな!! 気張れえええええええ!!!!!」


 迷宮に攻略部隊が突撃してから、およそ三十分後。

 異様なまでに静かだった迷宮内の巨大な通路は、怒声が交錯する戦場へと様変わりしていた。


(――――兵士達がしつこく警戒を呼び掛けていたのが良く分かった。これだけの数……。警戒するなと言う方が無理がある)


 鹿羽は心の中でそう呟くと、ごく低位の攻撃魔法を詠唱して、兵士に迫っていた人形の頭を吹き飛ばした。


 迷宮攻略部隊に襲い掛かったのは、鹿羽がプレイしていたゲームに登場するモンスター、“駆動騎士/オートマタ”に酷似した人形達だった。

 脚部や頭を破壊するだけで動かなくなる為、一体一体の対処は容易であったが、四方八方から大群で押し寄せた人形達は、攻略部隊の陣形に確かな圧力を加えていた。


「――――――――降り注げ。<魔の矢/マジックアロー>」


 先輩の冒険者として鹿羽達と同行していた仮面の少女が、呪文を唱えた。


 無数に生み出された光の矢が射出され、戦場に降り注いだ。

 そして、矢は味方である兵士や冒険者に命中することなく、人形のみを破壊していった。


 その光景は圧巻の一言であり、最前線で陣形を死守している戦士達の心を奮い立たせた。


「…………集中しろ。新人」


 思わず見惚れていた鹿羽に、仮面の少女は冷たく吐き捨てた。

 まさか文句を言われるとは思わなかった鹿羽は、顔をしかめながら呪文の詠唱を再開した。


「ふはははははは!! 我! 最強!」

「……すげえ」

「ギルド連合の冒険者か……。これが英雄級の実力……」


 一方、人形達と直接ぶつかり合う最前線においても、戦況を引っ張る英傑達が存在していた。


「中々ヤルナ」

「お主こそ! 見事な剣さばきであるな!」

「右、ヤル。左、任セタ」

「うむ! 任された!」


 全身を鎧で包んだ先輩冒険者の一人は、楓と共に戦場を縦横無尽に駆け巡っていた。


 楓は背丈に匹敵する程の大剣を振るい、人形達を押し潰していった。

 一方、全身を鎧に包んだ先輩冒険者はレイピアのような細剣を両手に一本ずつ握り締め、華麗に人形達の首を斬り落としていった。


 対照的な二人の剣技。

 過程や方法は全く異なるものの、もたらされた結果は同じく圧倒的なものだった。


(――――まあ、この程度の相手なら、楓も後れを取ることはないか)


 遠目で楓の戦いを見守りながら、鹿羽はそう思ったのだった。


 三


 人形の軍勢を殲滅することに成功した攻略部隊は、息を整える為に休憩を行っていた。


「――――あの、サインくれませんか?」

「む? この石で擦れば良いのか?」

「はい。貴女が描いたものだと分かるようにしてくれると嬉しいです」

「分かった。我が刻みし永遠の盟約、大切にするが良いぞ」


 先の戦いで一騎当千の活躍を見せた楓の元に、何人かの兵士達が集まっていた。


「――――こういうの見るの、初めて?」

「いや、そういう訳ではないが……」

「五年後、十年後。有名人になってる可能性も十分にあるからね。有名人のゆかりの品は価値が出るから、ああやって名前を刻んでもらったりするの。見てる限り、凄い実力だったし、サイン貰いたくなる気持ちも分からなくはないわ」

「……成程な」


 エルフの先輩冒険者の言葉に、鹿羽は納得した様子で頷いた。


 鹿羽には、楓の元に集まっている兵士達の姿が、ちょっとした有名人に群がる“おっかけ”に見えた。


「あ、あの……」

「…………? 俺か?」

「は、はい。後ろで見てて……、凄い正確な魔法だったから……。ここに描いてくれませんか……?」


 鹿羽は、非戦闘員であろう女性スタッフから革製の手袋とチョークのような石を渡された。

 言動こそは控えめで謙虚なものであったが、強引に渡してくる辺り、内面は“したたか”なのかもしれないと鹿羽は思った。


「描いてあげれば?」

「…………これで良いか?」

「あ、ありがとうございます……」


 女性は丁寧に頭を下げると、そそくさと立ち去ろうとした。


 瞬間、鹿羽の先輩冒険者である仮面の少女が、女性が抱えていた革製の手袋を乱暴に取り上げた。


「ちょ、アポロちゃん!」

「…………有害な術式ではないようだな」


 仮面の少女は取り上げた手袋をしばらく睨みつけると、興味を無くしたように女性へと投げ返した。


「ご、ごめんね……」

「い、いえ」


 女性は怯えた様子で、あっという間に立ち去ってしまった。


「――――落書き如きに奇妙な術式を刻むな」

「確かに余計なことだったかもな」

「何か細工でもしたの?」

「……魔除けの術式だった。全く、紛らわしい真似を」


 少女は仮面の上から鹿羽を睨みつけると、同様にこの場から立ち去った。


「…………魔術師って大変なのね」


 エルフの女性は、ボヤくように呟いた。


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