【004】作戦会議
一
「――――私は皆様をお守りする盾であり剣。L・ラバー・ラウラリーネット、この命に代えても忠義を尽くし、マス」
「だってさー。私達の味方みたいだよ?」
麻理亜は明るい口調でそう言った。
それに対し、楓は戸惑いの表情を浮かべ、鹿羽はただ黙っていた。
「んー、馴染むのにはまだまだ時間がかかりそうだねー」
「ま、麻理亜殿……。その……」
「麻理亜、説明してくれ」
「私に言われても困るんだけどなー。だって私が呼びつけた訳でもないしー、二人に会わせようと思った訳でもないしー」
麻理亜はいかにも不本意であるという態度を崩さないまま、少女――L・ラバー・ラウラリーネットに視線を投げ掛けた。
「ラウラちゃんが説明すれば良いんじゃない? 何を説明するのかは知らないけど」
「私は、皆様の敵ではありまセン。忠義の為とあらば、死地へ赴き任務を遂行し、命に代えても皆様をお守り致しマス」
L・ラバー・ラウラリーネットの言葉に、楓はホッとしたような表情を浮かべた。
対照的に、鹿羽の表情は引き締められたままだった。
鹿羽は、一つの疑念を抱いていた。
何故、L・ラバー・ラウラリーネットは、自分が味方であることを強調するのだろうか、と。
味方であることが、L・ラバー・ラウラリーネット本人にとって当たり前のことならば、わざわざ強調する意図が少し不可解だと言えた。
つまりこのL・ラバー・ラウラリーネットの振る舞いは、L・ラバー・ラウラリーネットにとって、わざわざ味方であることを強調しなければならない事情があることを意味していた。
それが、懸念すべき事態を招くのではないか、と。
鹿羽は、L・ラバー・ラウラリーネットに厳しい視線を向けた。
「L・ラバー。どうしてそれをわざわざ確認する必要がある。何か気になることでもあったのか?」
「先ほどマリー様とお話ししたところ、我々の忠誠を憂慮なさっているのではないかと判断致しましたのデ……」
「麻理亜。何を吹き込んだんだ?」
「吹き込んだなんて酷ーい。だって“この状況”だよ? いきなり目の前に現れてさ、根掘り葉掘り確認したくなるのは、仕方の無いことなんじゃないの?」
麻理亜は、口調に含みを持たせながらそう言った。
「恐れナガラ、宜しければ事情をお教え下さいませんカ?」
「……そうだな。予断を許さない状況なのは間違いない。だが、情報が少なすぎる。もう少しだけ待ってくれないか?」
「イエ、出過ぎた真似を……。失礼致しまシタ……」
L・ラバー・ラウラリーネットは、申し訳なさそうに頭を下げた。
鹿羽は、実質的に初対面である相手に情報を漏らすのは得策ではないと考えていた。
それは、目の前のL・ラバー・ラウラリーネットも例外ではなかった。
そうは言っても、隠し事は苦手だ、と。
鹿羽は素直にそう思った。
そして自分を覗き込んでニヤニヤと笑みを浮かべている麻理亜に、鹿羽は何とも言えない感情を抱いた。
「それじゃあさ、鹿羽君曰く“予断を許さない状況”なんだから、皆で話し合って解決しないといけないよね。そう思うでしょ? 楓ちゃん」
「う、うむ」
「さっき、良さげな部屋を見つけたの。そこで作戦会議でもどうかしら?」
麻理亜は気楽な様子でそう言った。
二
先ほど鹿羽達がいた場所から少し歩いたところに、麻理亜が言っていた部屋があった。
部屋の大きさは、もはや無駄とまで言えるほど広かった。
西洋の豪邸にありがちな巨大な長テーブルが部屋の中央に配置され、広大なスペースに丁度良く収まっていた。
「<静音術式/サイレンス>」
麻理亜は空間を撫でながら、呪文のような言葉を口にした。
紫がかった淡い光の粒子が飛び散り、この部屋を満たすように広がっていき、そして消えた。
「ま、魔法であるか!?」
楓は、興奮した様子でそう言った。
麻理亜はそれに応えるように、静かに微笑んだ。
「もう使いこなせる感じなのか?」
「どうなんだろうねー。使えるって確信はあるけれど、実際問題どうなるかは分からないし、この魔法だって本当に効果があるのかは疑問だよねー」
「ゲームで習得した魔法が使えるって感じか? 習得していない魔法は……」
「だから分からないってー。でもー、今のところ私が使えた魔法とー、ゲームで使ってた魔法は一致しているしー、もしかしたらそうなのかも」
人差し指を顎に当てながら、麻理亜は気楽な様子でそう言った。
「我も魔法を使うぞ!」
「同じ理屈だと、楓ちゃんはあんまり魔法を使えないかもね」
「ふっふっふ……。我は“サブウェポン”として幾つかの攻撃魔法を習得している……。この部屋を吹き飛ばすことぐらい、造作も無いわ」
「……吹き飛ばすなよ?」
「く、忌まわしき法と秩序め……」
冗談だと分かっていても、鹿羽には、楓が本当に残念がっているように見えた。
「それじゃあ、これからどうするか皆で決めよっかー」
この場には、先ほどいたL・ラバー・ラウラリーネットの姿は無かった。
麻理亜の巧みな会話術によって、L・ラバー・ラウラリーネットは自らこの部屋の見張り役を買って出ていた。
相変わらず人を動かすのが上手だ、と。
鹿羽は改めて麻理亜のコミュニケーション能力の高さに感心した。
「先ずは水と食料だろう。水が無ければ数日ぐらいしか生きられないんじゃなかったか?」
「わあ。鹿羽君ったら現実的だね。サバイバルする気満々なの?」
「しなくて済むなら、それに越したことは無いが……」
鹿羽は淡々とそう言った。
こうやって非日常な状況に陥ってしまうと、現実的なことを考えてしまうのは仕方の無いことだと鹿羽は思っていた。
大切なことは、自分ひいては仲間の生命を維持できるかどうかだ、と。
鹿羽は現実的と言われようとも、優先順位を履き違えるつもりは毛頭無かった。
「はーい。じゃあ水と食料の確保が第一だね」
「我にも未知なるイデアがあるぞ!」
「はい、じゃあ楓ちゃんどうぞー」
「魔法の実験!」
「……楓らしいな」
これからのことについて真剣に考えを巡らせていた鹿羽にとって、楓の提案は微笑ましく思えるものだった。
「でも魔法が私達の助けになりそうなのは間違いないよね。猛獣が襲ってきても撃退できるかもしれないしー、他にも色んなことに役立ちそう♡」
麻理亜は思わせぶりな視線を鹿羽に向けた。
鹿羽は、麻理亜が数多くのトリッキーな魔法を習得していることを思い出し、少しだけ背筋が寒くなるのだった。
「……まあ、魔法が使い物になるのかということも含めた、身の安全の確保が急務だろうな。L・ラバーがいるということは、他のNPCもいる可能性が高い。L・ラバーは今のところ敵意は無さそうだが、他のNPCも同様に味方してくれるかどうかは不透明だ」
「攻撃してきたらどーする? 殺すつもりで襲い掛かられたら、どうにもならないんじゃない?」
話す内容の割には、麻理亜の態度はどこか気楽に見えた。
「降りかかる火の粉は振り払うのみ!」
「戦うのはあくまで最終手段だが……、戦う術ぐらいは身に付けておきたいところだな」
「んー、自衛手段の確立ってトコかなー? まあ、やられるくらいならやっちゃった方が絶対に良いだろうしねー」
そう言いながら、麻理亜はケタケタと笑った。
「いずれにせよ、そうならないことを願うばかりだ。ところで水と食料はどうする?」
「ラウラちゃんに頼めば良いんじゃない? 言えば水くらい持ってきてくれるでしょ」
「そんなパシリみたいな……。いや、でもそれが得策なのか……?」
「浄化されし聖水が湧き出る泉の在処を訊けば良いのでは?」
「楓の言う通りだ。水が手に入る場所を教えてもらおう」
「……それが良いかもね」
麻理亜は同調するようにそう言った。