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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
二章
34/200

【034】霧払い


 一


「……すまなかった。代表して謝罪する」

「良いってことよ。まあな? いきなり攻撃された時は焦ったけどな? 実際死にかけた訳だし?」

「……すまない」


 “刈り取る者/ライフイーター”を殲滅し、その首謀者であった魔術師達の捕縛に成功した鹿羽達。

 今回の事件における解決の大きな功労者となった訳だが、その功労者達の表彰にて、衝撃の事実が発覚することになっていた。


 冒険者として楓達と共に活動していた頃、鹿羽は、L・ラバー・ラウラリーネットより何者かと戦闘したという報告を受けていた。

 鹿羽にとって望まない形での現地勢力との敵対だった訳だが、その相手が今回の功労者の中に混じっていたのだ。


 名はプラーム。

 鹿羽と共闘したマークスの仲間であり、飄々とした印象を与える男だった。


「うっへっへ。なら、その仮面の下を見せてくれるかい? アンタの顔をじっくり覚えたら、完全に許せるような気がするわ」

「あ、アンタ……っ。ニームレス様。やはり殺しましょう……」

「待て待て待て! お前の魔法はシャレになんねえから! マジで!」


 プラームの態度こそは柔和で親しみを感じるものであったが、本人曰く、G・ゲーマー・グローリーグラディス達の方から攻撃を仕掛けたとのことだった。

 鹿羽はG・ゲーマー・グローリーグラディスに確認したところ、先に攻撃を仕掛けたことを否定しなかった。


 つまり、護衛中における戦闘は鹿羽達側に責任があったのだった。


「……これで水に流してくれるか?」


 鹿羽は静かに仮面を外した。

 プラームは興味深そうに鹿羽の顔を覗き込んだ。

 そして。


「……………………男じゃん」

「言われなくても男だが……」

「うおおおおおお!!! 絶世の美少女だと思ったのに男かよ!? 紛らわしいわ!! クッソ!! 騙された!!」


 プラームは悶えるように頭を抱えた。


「はあ……」


 そして鹿羽は落ち込んだ様子で、仮面を再び身に着けた。


「……しかし、プラームを撃破するほどの魔術師か。彼はどうしようもない色男とはいえ、実力は本物だ。簡単にはいかぬ筈なんだがな」

「あん時にはもう一人、茶髪のキャワイイ女の子もいたけどな。片方だけなら楽勝だったぜ」

「ならば、今ここで……」

「待て待て待て。ここは穏便に話し合いといこうぜ? な? そうだろニームレスさんよ」

「……そうだな。無駄な争いは避けたい」

「ぐ……っ」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは悔しそうにプラームを睨んだ。


「ほっほっほ! 皆様、大変お待たせ致しました。この城塞都市イオミューキャを襲った未曽有の危機……。お救い頂いた皆様には、市民を代表して感謝申し上げます。そして―――――――――」


 二


 領主による表彰を終えた鹿羽達はマークス達と別れ、依頼主である豪商の屋敷に戻ってきていた。


「――――――――これで大丈夫だろう。数日で完治する筈だ」

「……ありがとうございます。ニームレス様」


 左腕に包帯を巻きつけたジョルジュ・グレースは、鹿羽より治癒魔法による治療を受けていた。


「何故……、屋敷で大人しくしていた筈の貴女が怪我をしているのか……。どうしてなんでしょうね……?」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの皮肉が込められた問いかけが、ジョルジュ・グレースに投げ掛けられた。

 対するジョルジュ・グレースは俯いたまま、申し訳なさそうに口を開いた。


「…………皆様の言い付けを守らず、外を出歩いたことは謝罪します」

「極端な話……、貴女がどうなろうと私達の知ったことではありません……。しかしながら……、貴女はまだ子供です……。そのような無謀な行いを続けていくと……、いつか高いツケを払わされる羽目になりますよ……?」

「……理解しています。自分が必要以上のことに手を出していることも――――」

「ならば――――」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスが更なる追及をしようとした瞬間、鹿羽達のいる部屋のドアをノックする音が響いた。


「グレース様。貴女に会いたいという方が……」

「私、ですか?」


 ドアからは屋敷の小間使いと思われる女性が顔を覗かせた。

 自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、ジョルジュ・グレースは怪訝な表情を浮かべたものの、直ぐに立ち上がった。


「いかが致しましょう?」

「分かりました。行きます」


 三


「お姉ちゃん。助けてくれて、ありがとう……」

「お礼に来てくれたんですね。お互い無事で良かったです」

「ジョルジュさん……。ウチの子を守る為に怪我をなさったと……」

「大した怪我ではありません。それに、優秀な魔術師様が治療して下さったので、この通り痛みは殆ど無いんですよ?」

「でも、お姉ちゃん、血だらけに……」

「……私は大丈夫ですよ? ほら、見て下さい。ピンピンしてます」


 鹿羽とG・ゲーマー・グローリーグラディスは、外から聞こえてくるジョルジュ・グレース達の会話に耳を傾けていた。


(――――――――子供達を守ったのか……。自分もまだ、守られる側だとしてもおかしくない年齢だろうに……)


 鹿羽から見て、ジョルジュ・グレースはせいぜい中学生程度の子供だった。

 無論、誰かを守ろうとするその正義感は素晴らしいものだったが、ジョルジュ・グレースの場合、やや度が過ぎているように思えた。


「私には理解出来ません……。不特定多数の他人を助けようとする……、その思考回路が……」

「良い子なんだろうが、どうにも、な」


 鹿羽は他人の性格や信条に口を出すつもりはなかった。

 しかしながら、ジョルジュ・グレースの在り方は、とても危ういものに思えたのだった。


 四


「……いやはや。まさかイオミューキャの英雄となった魔術師様に指導を頂けるとは。娘も大変勉強になったことでしょう。いやはや、ありがとうございます」

「こちらこそ、期待に添えたようで何よりだ」


 今回、鹿羽達による指導の依頼は、初日に魔術師達の襲撃に巻き込まれたという波乱万丈の幕開けとなったが、その後は何事も無く順調に進んだ。

 そして当初の予定通り、三日間に渡る指導の依頼は無事に完了したのだった。


「……皆様、本当にありがとうございました。この三日間で学んだことは、決して忘れません」


 ジョルジュ・グレースは丁寧にお辞儀をした。


「いやはや、まさか第三階位にとどまらず、第四階位の魔法まで習得してしまうとは……。本当に皆様に来て頂いたお陰です、はい」

「才能があったことも事実です……。時間も無いので……、雷属性の攻撃魔法に集中して指導致しましたが……。結果が出たようで何よりです……」

「あ、あの、先生。一つだけ、良いですか?」

「何ですか……?」


 相も変わらず、G・ゲーマー・グローリーグラディスは鋭い視線をジョルジュ・グレースに向けた。


「……先生の名前を教えてくれませんか? 私、先生の名前を知りません」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスはこの三日間、誰に対しても自分の名前を教えていなかった。

 実は、偽名自体は予め鹿羽と相談して用意してあったのだが、その偽名すらもG・ゲーマー・グローリーグラディスはジョルジュ・グレースに教えることはなかった。


「…………知らなくて良いことです。――――――――そういえば……、貴女に渡し忘れていたものがありました……。どうぞ……」

「こ、これは……?」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは一片の紙切れを何処からか取り出し、ジョルジュ・グレースに手渡した。

 薄汚い紙切れには何も書かれておらず、傍から見れば只の紙屑だった。


「ただの魔除けです……。気に入らなければ……、捨てるなり、売るなり、好きにして下さい……」

「――――ありがとうございます。大切にします」


 他人が見れば顔をしかめるような品にもかかわらず、ジョルジュ・グレースは大切そうに紙切れを握り締めた。


「――――――――では、そろそろ失礼する」

「そうですか。いやはや、重ね重ねありがとうございました」

「皆様、本当にありがとうございました」


 依頼主との別れをもって、鹿羽達が引き受けた依頼は完全に終了した。


 五


 鹿羽達が城塞都市イオミューキャを去ってから数日後、ジョルジュ・グレースは、G・ゲーマー・グローリーグラディスからもらった紙切れを何気なく眺めていた。


「……? これって……、魔法、陣?」


 ジョルジュ・グレースは、一片の紙切れに刻まれた、巧妙に隠れた術式の存在に気付いた。

 そして、それに刻まれた意味を確かめる為に、ジョルジュ・グレースは紙切れに魔力を込めた。


「きゃっ!?」


 瞬間、紙切れは燃え上がり、火の粉として飛び散ってしまった。


「そ、そんな――――っ」


 ジョルジュ・グレースは突然のことに驚き、そして後悔の念を抱いた。


 しかしながら、それは直ぐに別の感情へと変化した。


『――――よく気付きましたね。流石は……、私が指導したほどのことはあります……』

「せ、先生……?」

『――――では……、そんな貴女には、唯一覚えなくて良い知識を授けましょう……。良いですか……?』


 火の粉として飛び散った筈の紙切れは魔法陣となって、ジョルジュ・グレースの脳内に直接語り掛けていた。

 そして、その小さな魔法は、最後のメッセージを紡いだ。


『――――私の名は、G・ゲーマー・グローリーグラディス。さあ、忘れなさい。覚えなくても良いことです……』


 ジョルジュ・グレースは、その名を決して忘れることはなかった。


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