【032】霧③
一
一方、G・ゲーマー・グローリーグラディスは黙々と“刈り取る者/ライフイーター”の殲滅に励んでいた。
(――――そもそも、どうして私が下等な人間共の救助なんてやっているんでしょうか……。成り行き上、仕方ないとはいえ……、実に面倒です……)
「ひ、ひいいいっ!?」
「はあ……。――――<祓う光/ホーリーレイ>」
逃げ惑う男性に、一体の“刈り取る者/ライフイーター”が飛び掛かった。
しかしながら、“刈り取る者/ライフイーター”は空から降り注いだ光線によって焼かれると、そのまま欠片も残さずに消滅した。
「は、は……? た、助かった……?」
「拾った命なんですから……、無様にチャッチャと逃げて下さい……」
「あ、え……、わ、分かりましたぁ!」
(悲鳴ばかりで他人本位……。本当に情けない……)
G・ゲーマー・グローリーグラディスは逃げ惑う人々を遠目に眺めながら、静かに溜め息をついた。
「よう。意外と良いところあんじゃん」
「――――は?」
すると突然、G・ゲーマー・グローリーグラディスは地上から声がかけられた。
声の主は、黄金の装飾が目立つ、全身を鎧で包んだ男だった。
男はG・ゲーマー・グローリーグラディスに対して、親しげに手を振っていた。
G・ゲーマー・グローリーグラディスがこの世界にやってきて、最も殺意を募らせている相手だという自覚も無いままに。
「――――<対魔障壁/マジックバリア>」
「え、ちょっと待って。何で閉じ込めんの。出られないんだけど。待って、ちょ――――」
「ようやく見つけました……。アンタだけは許さないと決めていましたからね……。探す手間が省けましたよ……っ」
「待て、待てよ。この状況で俺に食って掛かるとか頭沸いてんだろうよ。待てって」
「待てと言われて待つ人間がいるとお思いですか? 随分とお花畑な思考をしているんですね――――――――」
瞬間、男は大剣を横に振るった。
男を包んでいた障壁はまるでガラスのように砕け散り、そのまま消滅した。
「話、聞けよ」
「―――――――――っ」
瞬間、幾つもの魔法陣が男を囲んだ。
既に魔法陣には魔力が込められ、何時でも目標を焼き尽くせるように準備が整えられていた。
「――――あのな? 俺は頼まれて市民を守ってんの。んで、お前も罪無き市民を助けてる訳だ。協力することはあっても、殺し合うことねえじゃねえか。てかお前ら一回俺のこと殺したけどな」
「何ですか何なんですか……。殺したのにどうしてのうのうと生きてるんですか……? ぶっ殺しますよ……?」
「どんだけ殺意に溢れてんだよ怖えよ」
男は気楽な口調でそう言った。
「まあいいや。見てる限り、お前は犯人じゃねえんだろ? 取り敢えず犯人をとっちめて、後でゆっくりお茶でもしようや」
「――――はあ……。本体が来てくれるなら考えてあげますけどね……」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは呆れた様子でそう言うと、男を囲んでいた魔法陣が消滅した。
そしてG・ゲーマー・グローリーグラディスは、静かに男の前に降り立った。
「――――俺の名はプラームだ。嬢ちゃんの名前は?」
「言うと思うんですか……? 馬鹿なんですか……?」
「いや、名前ぐらい教えてくれよ嬢ちゃん……」
男――プラームはガッカリした様子でそう言った。
「まあ……、良いでしょう……。貴方のことは極めて憎たらしく思っていますが……、この場で“ことを構える”のは私にとっても本意ではありません……。一時休戦ということで……、逃げないで下さいね……?」
「嬉しい申し出なんだけど、身の危険を感じるのは俺だけ?」
「正常な感覚かと……。後で生け捕りにして差し上げます……」
「わあい! 間違ってなかった! でも今回は心強い味方がいるから簡単に上手くいくとは思わないでよね!」
男――プラームのふざけた様子に、G・ゲーマー・グローリーグラディスはあからさまに舌打ちをした。
「――――んで、犯人って何処にいると思う?」
「“生き死体/リビングデッド”共に囲まれているのにもかかわらず……、生き残っている怪しい存在が向こうにいます……。恐らくは……、首謀者の一人でしょうね……」
「やるじゃん。やっぱとんでもねえ魔法使いだな」
「……逃げないで下さいね?」
「勘弁してくれや」
プラームは冗談めいた様子でそう言った。
二
プラームとG・ゲーマー・グローリーグラディスの二人は、“刈り取る者/ライフイーター”を殲滅しながら、一連の事件の犯人を捜していた。
「ん? ここ?」
「魔力を消費するのは嫌なので……、貴方が倒してくれませんか……? どうせ雑魚でしょうし……」
「――――誰も居なくね? 臭いは残ってるかもしれねえけど」
「はあ……。この程度の魔法すら見極められないんですね……。情けない……」
「んだとー!? だったら何処に居んだよコンチクショー!」
呆れた様子でそう言ったG・ゲーマー・グローリーグラディスに対し、プラームは憤慨した様子でそう叫んだ。
「――――死にたくなかったらさっさと出てきなさい……。さもないと……、殺しますよ……?」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは誰も居ない通路に向かって、脅すようにそう言った。
しかしながら、その声に反応するものは何も無かった。
「……やっぱ誰も居なくね?」
「ち……っ。何ですか何なんですか……。――――<実像の鏡/サブスタンシエイト>」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは苛立った様子で術式を展開させると、青く反射する半透明のクリスタルがG・ゲーマー・グローリーグラディス自身の周りを漂い始めた。
半透明のクリスタルは周辺を探るようにフワフワと飛び回ると、やがて何かを見つけたかのように輝き、そのまま砕け散った。
そしてクリスタルが砕け散ったそこには、居なかった筈の男が一人立っていた。
「……っ」
「うお! すげ! なんか出てきた!」
「――――出て来いと言ったのに出てこないなんて……。良い度胸してますね……」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは男を睨み付けながら、吐き捨てるようにそう言った。
「まさか本当に分かっているとは思わなかったからな。ついてない」
「運の尽き、とでも言わせてもらいましょうか……。――――ここで何をしていて、何を企んでいたのか……。洗いざらい話してもらいますよ……」
「――――だが貴様は馬鹿で良かった。不幸中の幸いという奴だろう」
「――――っ! 嬢ちゃん! 避けろ!」
プラームが叫んだ瞬間には、男はG・ゲーマー・グローリーグラディスの眼前へと飛び出していた。
男の手には、いわゆる“メイルブレイカー”と呼ばれる突き刺すタイプの短剣が握り締められており、それがG・ゲーマー・グローリーグラディスに届くまで一刻の猶予も無かった。
しかしながら。
「――――不意を突けば倒せると思いましたか……? 非常に下劣で不快なことを考えるんですね貴方達は……」
「か――――、は――――っ」
「安心して下さい……。急所は全て外しました……。無論、このまま放っておけば出血多量で死にますけどね……」
しかしながら、男の短剣がG・ゲーマー・グローリーグラディスに届くより前に、幾つもの漆黒の杭が男を貫き、そして吹き飛ばしていた。
「な、にが――――?」
「簡単な話ですよ……。貴方が弱いだけです……」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは吐き捨てるようにそう言うと、男はそのまま意識を手放した。
「――――マジ焦ったぜ。よく動けたな」
「相手が何を考えているかなんて……、魔力の動きで分かります……」
「え、それじゃあ俺の考えていることも分かんの?」
「何ですか何なんですか……? 喧嘩売ってるんですか……? ぶっ殺しますよ……?」
「いや何でだよ!」
プラームは突っ込むようにそう言った。
(――――表面上はふざけていても……、魔力に一切の乱れを感じさせない……。やはりいけ好かない男ですね……)
G・ゲーマー・グローリーグラディスは、プラームの考えていることが読み取れない為に、ただ普通にムカついていただけだった。
「そういや、コイツ倒したのに霧が晴れねえな。そういうもんなのか?」
「術者はまだ別に居ます……。さっさと片付けましょう……」
「おう。それじゃあ行くか!」
「――――<転移/テレポート>」
「……ん? あれ? もしかして置いていかれた? おーい」
プラームはもう一度“おーい”と叫ぶと、静かに溜め息をついた。




