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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
二章
31/200

【031】霧②


 一


「――――皆様、これは一体……」


 ジョルジュ・グレースは見通しが悪くなっていく街を眺めながら、鹿羽達にそう問い掛けた。

 それに対し、G・ゲーマー・グローリーグラディスは面倒臭そうに応じた。


「良いですか……? 貴女は屋敷で大人しくしていて下さい……。他の者にも、屋敷の外には出ないように、と……」

「ど、どういうことなんですか……?」

「――――この街に魔物が発生している可能性がある。このままでは、犠牲者が出るかもしれない」

「そ、それが本当なら! 早く騎士団の方々に知らせないと!」


 ジョルジュ・グレースは慌てた様子で言った。


 この世界における治安維持の為の実力組織として、各都市に騎士団が配置されていることを、鹿羽はNPCの調査報告によって知っていた。

 そして、騎士団が国家や有力貴族を後ろ盾に大きな影響力を持つことも知っていた。


(騎士団……、か。あまり関わりたくは無いんだが……)


 その本質がどうであれ、騎士団は鹿羽にとって関わりたくない組織の一つであった。


「――――遅かれ早かれ、この異常事態に気付くだろう。俺達は街の様子を確認してくる」

「で、でも……。それなら私が伝えてきます!」

「貴女程度の人間が……、出しゃばって何になるんですか……? 実力の無い人間なんですから……、せめて自分の身だけを心配していれば良いんですよ……」

「……っ」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの言葉に、ジョルジュ・グレースは押し黙った。

 しかしながら、鹿羽には、ジョルジュ・グレースが心の底から納得している風には見えなかった。


(……外が本当に“刈り取る者/ソウルイーター”で溢れかえってるんだとしたら、弱い奴が死ぬのも事実。そして弱い奴が死ねば死ぬほど、事態がより悪化していくのも事実だからな……)


 しかしながら、鹿羽は騎士団に関わるつもりなど毛頭なかったし、だからといって、この状況の中でジョルジュ・グレースが出歩くことが賢明な判断だとも思えなかった。


「行くぞ。――――――――<飛行/フライン>」

「はい……。良いですか……? 大人しく待っているんですよ……?」

「……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの問いかけに、ジョルジュ・グレースが応じることはなかった。


 鹿羽とG・ゲーマー・グローリーグラディスの二人は“飛行/フライン”を発動させると、空高く飛び上がった。

 そして、ジョルジュ・グレースは独り、庭に置き去りにされていた。


「――――私が動けば、助かる命があるかもしれない……っ。私みたいに、これ以上家族を失う人間がいて良い筈ない……っ」


 少女の呟きを聞く者は、誰一人としていなかった。


 二


 空を飛ぶ魔法によって空高く上昇した鹿羽達は、城塞都市イオミューキャを上から見下ろしていた。

 深い霧のせいで街の全貌は良く見えなかったが、所々で聞こえる甲高い悲鳴と、各地で見受けられる骸骨の存在が、鹿羽の予想が的中していることを示していた。


「……二手に分かれた方が良さそうだな。こっち側は俺がやる。G・ゲーマーは向こう側を頼む」

「はい……。お任せ下さい……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは頷くと、瞬時に加速して移動を始めた。


 一人残った鹿羽は、街を見下ろしながら呪文を口にした。


「――――――――<超把握/ウルトラパシーブ>」


 戦況を把握する為に、鹿羽はこの都市全てを魔力探知によって知覚した。

 しかしながら、拒絶されるような感覚が、大量の情報と共に鹿羽の脳内に流れ込んだ。


(――――“抵抗/レジスト”……っ。それも二体……っ。この都市に“超把握/ウルトラパシーブ”を“抵抗/レジスト”出来るだけの誰かがいるってことか……。最悪、俺と同等以上の――――)


「――――G・ゲーマー・グローリーグラディス。聞こえるか?」

『は、はい……。何でしょうか……?』

「“超把握/ウルトラパシーブ”が“抵抗/レジスト”された。気を付けてくれ。最悪、俺と同等以上の敵が潜んでいる可能性がある」

『そ、そんな―――――。い、いえ……。警戒を強化します……』

「ああ、そうしてくれ」


(――――逆探知はしてこない、か。一応、対策はしてあるから、逆探知してきたらしてきたらで、やりやすいんだが……。まあ良い。さっさと“刈り取る者/ライフイーター”を片付けよう)


「――――――――<黒の断罪/ダークスパイク>」


 鹿羽は静かに呪文を唱えると、漆黒の杭が無数に生み出され、都市イオミューキャに降り注いだ。

 誰かがその光景を目にしたのか、甲高い悲鳴が上がるものの、それが人間に命中することはなかった。


 まるで自動的に対象を追尾する機能でも付いているのかのように、漆黒の杭は刃物を握り締めた骸骨だけを破壊していった。


(……多いな。本来であれば“殲滅魔法/イレミネイト”の出番なんだろうが……、あれは目立つ上に時間がかかる。各個撃破なんて、魔術師としてどうかとは思うが……)


 ゲーム上における魔術師のメリットを活かせないことに、鹿羽は僅かな不満を抱いた。

 しかしながら、派手なエフェクトをばらまきながら敵を殲滅する魔法なんて、みんなが見ている前で出来る訳なかった。


「――――汝。待たれよ。名を聞かせてはくれまいか?」


 通常の攻撃魔法で上空から敵を殲滅する鹿羽の前に、一人の男が現れた。

 男は全身を眩しい銀色の鎧で覆い尽くしており、深紅のマント、腰に差された神々しい大剣も相まって、物語に登場する騎士を彷彿とさせた。


「お前が犯人か? 少なくとも、只者には見えないが……」

「否。私は民を救うために此処にいる。汝こそ、この状況に心当たりがあるのではないのか?」

「悪いが心当たりなんて無い。たまたま仕事で来ただけだ」

「ふむ……。――――繰り返しになるが、汝の名を聞かせて欲しい」


 男は再び、丁寧な口調でそう言った。


(――――どうして俺の名前に執着するんだ……? 名前が分かったら瞬殺出来るアホみたいな能力者だったりするんだろうか……)


「名前を知りたいなら、先にそっちが名乗ったらどうだ」

「ふむ。一理ある。では、名乗ろう」


 男は胸に拳を当てながら、堂々たる口調で名乗った。


「私の名はマークス。未熟な身ながら、白金竜王の称号を持つ者だ」


(マークス、だと?)


 何処かで聞いたことのある名前に、鹿羽は仮面の下で訝しげな表情を浮かべた。


(――――思い出した。“屍食鬼/グール”の襲撃の後、ライナスが言っていた名前のことか……)


「……? 私を知っているのか?」

「どうだろうな。俺としては、誰であろうと敵対は避けたいんだが……」

「私は名前を語ったのだから、汝も名乗ってくれると嬉しい」

「……ニームレス、だ。聞き覚えはないと思うが」

「ふむ。そうだな。人違いのようだ。この状況の犯人であろう者の名前は知っているのだが、それ以外の情報が無くてな。怪しい者の名前を尋ねて回っているのだが……」


(それは見つからなくても文句は言えないような気がするけどな……)


 少なくとも鹿羽には、そのやり方が致命的な欠陥を抱えているように思えた。


「……犯人が素直に名前を教えてくれるとは思えないけどな」

「――――ッ! 確かに……。では、どうすれば……」

「俺に訊くなよ……」


 鹿羽は呆れた様子で言った。


「――――まあ、良い。汝は善良なる魂の持ち主だとお見受けする。この事態を解決する為に、協力してくれないだろうか」

「……良いだろう。俺もこの事態に嫌気が差していたからな」

「ならば良し。先ずは一帯の“生き死体/リビングデッド”の殲滅からだ」


 男はハッキリとした口調でそう言った。


 白金竜王と名乗った何処かおかしな騎士と、一人の魔術師との奇妙な協力が、この深い霧の中で始まった。


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