表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
一章
3/200

【003】光学迷彩の幻


 一


「虫! 虫! 鹿羽殿! 虫!」

「落ち着け。あとサソリは……、一応虫なのか……?」

「どうしてそんなに落ち着いておるのだ!!」


やがて大サソリは二人の目の前に迫り、両腕を振り上げて大きく威嚇した。


「ひえ……」


 楓は恐怖のあまり、息を呑んだ。

 一方で、鹿羽は大きく息を吐いた。


 そして。


「……麻理亜。もう良いだろ」


 鹿羽の一言をきっかけに、大サソリの動きがピタリと止まった。


「鹿羽君ったら、直ぐに見破っちゃうんだからー。つまんない」


 硬直した大サソリは、頭から粒子となって霧散していった。

 そして一人の少女が、大サソリのいた場所に立っていた。


「麻理亜……殿?」

「ふふ。麻理亜だよ楓ちゃん。会いたかったよー」


 麻理亜と自ら名乗った少女は、困惑している楓に近付き、そのまま抱き着いた。


「え? サソリが消えて、麻理亜殿になって……。麻理亜殿はサソリで……」

「んー?」

「麻理亜殿は、虫だった?」

「全面的に私が悪いけどー、私は虫じゃないよ?」


 麻理亜はニコニコしながら楓の頭を撫でたが、楓は茫然としたまま動かなかった。


「ありゃ、もしかしてやり過ぎちゃった?」

「気付かなければ誰だってトラウマものだろう。別のモンスターでも良かっただろうに。よりによって……」

「――――それじゃあ、どうして鹿羽君は気付いたのかなー? 見た目じゃ絶対に分からないでしょ?」


 動かない楓をゆらゆらと揺さぶりながら、麻理亜は目を細めて言った。

 対する鹿羽は、言いにくそうに口を開いた。


「直感と……、あとは、魔力的な何か……、か?」

「勘で判断したってことー? サソリに頭からかじられちゃったらどうするのー?」

「確かに勘と言われればそれまでだが……。ほとんど……、いや、百パーセント確信していたな」

「やん。鹿羽君は私のこと百パーセント分かっちゃうんだねー。これって運命かしら?」


 麻理亜はそう言うと、頬に手を当てながら、身体をくねらせた。

 彼女の動きは想定の範囲内であったのか、鹿羽は気にすることなく続けた。


「同意したいところだが、聞きたいことが三つほどある。良いか?」

「三つで良いの? 鹿羽君が知りたいなら何でも答えるけど」


 麻理亜は笑顔を浮かべながら、飄々とした態度でそう言った。

 掴みどころのないその性格は、鹿羽の記憶の中にある彼女と一致していた。


「じゃあ一つ目だ。麻理亜はどうして、いや、どうやって此処に来たんだ?」

「二人に会いたかったから♡」

「茶化すな」

「もー、鹿羽君は堅いなー。じゃあ鹿羽君がどうして、どうやって此処に来たのか教えてくれたら、私も教えてあげる」

「……殺人鬼に刺された。以上」


 鹿羽は何てことないように告げた。

 対する麻理亜も驚くことなく、興味深そうに頷いた。


「へえ。やっぱり訊いて良かった。楓ちゃんは?」

「虫……? 虫? 虫……」


 麻理亜は楓の肩に手を添えたものの、楓は微動だにしなかった。


「駄目だこりゃ」

「楓はトラックに轢かれたと言ってたぞ」

「ふーん。私が言うのもアレだけどー、二人ともロクな死に方してないんだね」


 “死”。

 その言葉を聞いて、鹿羽は僅かに目を細めた。


「ということは、麻理亜も心当たりがあるのか?」

「勿論。みんな大好き麻理亜ちゃんは厳しい闘病生活も虚しく、病状が急激に悪化して帰らぬ人になっちゃったのでしたー。ぱちぱち」

「死んだかどうかは分からないだろう。俺も楓も、麻理亜も生きているかもしれない」

「――――その可能性を論ずる意味はあるの? 私達は生きてて、死にかけた状態でこんな素敵な夢を見てるって言うの? 目の前の鹿羽君は私の痛い妄想かしら」


 麻理亜の鋭い視線が鹿羽を射抜いた。

 鹿羽は目を逸らすことはせず、ただ黙っていた。


 すると麻理亜は打って変わったように、態度を明るいものへと改めた。


「ごめんね。私の悪い癖が出ちゃった。それで、残りの質問は?」

「そうだな……。二つ目は、さっきのサソリだ。犯人が麻理亜だとしても、あの現象が起きて良いことにはならない」

「実はこの世界は私の思い通りに動いているの。私がこの世界の支配者。どう?」

「相変わらず俺と話す時だけ冗談が多いな。……何となく予想はついてる。答え合わせがしたい」

「うん、分かった。あのサソリは“魔法”だよ。どうやらゲームと同じ魔法が使えるみたい。きっと鹿羽君は“魔術師/マジックキャスター”だから、直ぐにピンときたみたいだね。楓ちゃんはあんまり魔法を使わないから、動揺しちゃったみたいだけど」

「……この世界のシステムもゲームに準拠している、ということで良いのか?」

「鹿羽君。その質問に答えたいのは山々だけど、私も分からないことだらけなの。ごめんね?」


 そう言うと、麻理亜は申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「いや、悪かった。分からないのはお互い様だ」


 鹿羽はバツが悪そうに頭を掻いた。


「はっ!? 麻理亜殿!? どうして此処に!?」

「ようやく気が付いたのね。ゴメンね楓ちゃん」

「なにゆえ謝る? 我らの再会を祝うべきであろう?」

「そーだね。会えて良かった♡」

「むう、苦しいぞ麻理亜殿」


 麻理亜は再び、楓を強く抱きしめた。

 楓はやや窮屈そうであったが、決して麻理亜を押し退けることはしなかった。


「感動の再会のところ悪いが……」

「ほら、鹿羽君もこっちこっち」

「……勘弁してくれ」


 楓を抱き締めながら、麻理亜は鹿羽にもこっちに来るように促した。

 鹿羽は目を逸らしながら、静かに拒否の言葉を口にした。


「麻理亜殿。一つ気になることがあるのだが……」

「んー、それは鹿羽君と同じ質問かな? それとも……」


 麻理亜は、静かに視線を鹿羽に移した。


「麻理亜。“危険”は無いんだな?」

「んー、そう願ってるんだけどねー」


 麻理亜はそう言うと、楓から手を離した。

 そして何もない廊下の天井を眺めながら、フラフラと歩き出した。


 そして、咎めるような視線を誰も居ない空間に向けた。


「貴女は“危険”なのかしらー? L・ラバー・ラウラリーネットちゃん?」


 瞬間、麻理亜が視線を向けた先で空間が歪んだ。

 その歪みは、超常的な現象というよりかは、巧妙に隠された仕掛けが暴かれるようだった。

 そして、歪みは色彩を帯びて実体化していった。


 大きさは、だいたい楓の身長ほどであろうか。

 黒を基調とした、冬を彷彿とさせる厚手のコートが目に付いた。

 そのコートは撥水加工特有の艶を見せながら、身体に括り付けられた幾つもの弾倉は異様な雰囲気を放っていた。


「――――私は皆様をお守りする盾であり剣。L・ラバー・ラウラリーネット、この命に代えても忠義を尽くし、マス」


 L・ラバー・ラウラリーネット。

 幾つもの銃や爆弾を隠し持つ、茶髪の少女。

 彼女は、鹿羽達が生み出した、ゲームにおけるNPCの一人だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ