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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
二章
26/200

【026】図書館


 一


 鹿羽達は冒険者活動を一旦休止し、ギルド拠点に帰還していた。

 それに伴い、遠くから護衛していたL・ラバー・ラウラリーネットとG・ゲーマー・グローリーグラディスの二人も、同様にギルド拠点へと戻ってきていた。


 場所はギルド拠点内部、大図書館。

 この大図書館には魔法といった実践的な知識を扱う実用書に加え、娯楽や社会経済、何処の世界のものかも分からない歴史まで扱った本が存在した。

 その総量は気が遠くなるほど膨大なものであり、管理を担当しているC・クリエイター・シャーロットクララを除いて、誰もその正確な数を把握出来ていなかった。


 そこはまさに、何処までも続く知識の回廊。

 個人が持つ知識や経験を嘲笑うかのように、本棚の列は何処までも続いていた。


 そんな、あらゆる知識が集約されているこの大図書館に、一人の少女の姿があった。

 少女の名は、G・ゲーマー・グローリーグラディス。

 自身が持つ知識だけでは解決出来ない問題を解決する為に、彼女はこの場所を訪れていた。


(――――あの男が使用していた……、人形を遠隔操作して、“あたかも”本人がそこにいるように見せる技術……。いつ思い出しても……、湧き上がる屈辱は抑えられそうにありませんが……。早急な解明と対策が必要でしょうね……)


 魔術師として、G・ゲーマー・グローリーグラディスは魔力の扱いや知識には自信があった。

 しかしながら、あの飄々としていた男が密かに仕組んでいたあの“からくり”を、G・ゲーマー・グローリーグラディスは見破ることが出来なかった。

 それは、G・ゲーマー・グローリーグラディスほどの魔術師でも気付くことが難しい巧妙な技術の表れであり、このことが後に鹿羽達にとって頭の痛い問題となる可能性は十分にあった。


(そもそも遠隔操作ということであるならば……、何かしらの魔力のつながりが生じている筈……。しかしながら、“あれ”は完全に独立していた……。ということはつまり……、“あれ”は本体の一部であるという見方が正しいのでしょうか……?)


 参考になりそうな蔵書を机の一面に広げ、G・ゲーマー・グローリーグラディスは自身の知識と照らし合わせていた。

 幾つもの仮説が脳裏に浮かび上がり、一瞬、それが正しいのではないかと思うものの、確かな根拠によって、それらはあっという間に崩壊していった。


「……何ですか何なんですか」


 その吐き捨てるような言葉を合図に、一面に広げられていた蔵書は閉じられ、ひとりでに元の場所へと収納されていった。

 残ったのは、頭を抱え込むG・ゲーマー・グローリーグラディスただ一人だけだった。


(事実上、負けを認めるようで癪ですが……、あれはきっと……、独自に体系化された魔法技術なのでしょう……。とにかく……、理論として解明して対策を講じるには情報が少な過ぎます……)


 同じ相手に何度も辛酸を舐めさせられているような心境に陥り、G・ゲーマー・グローリーグラディスは静かに舌打ちをした。


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは自分が出来ることはもう無いと判断し、同じく魔術の専門家であるC・クリエイター・シャーロットクララに今回の件を相談しようと立ち上がった。


 その瞬間。


(――――足音……? 他にも誰か……、図書館に来ているのでしょうか……?)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは図書館を訪れそうな仲間の姿を思い浮かべ、一体誰が来ているのか、半ば反射的に予想した。


(C・クリエイター・シャーロットクララ、はありえそうですけど……。ああ見えて……、一度見たものは絶対に忘れない狂った脳味噌の持ち主ですからね……。彼女が調べものにここに来ることは考えにくい訳ですから……、そうなると……、L・ラバー・ラウラリーネットか、T・ティーチャー・テレントリスタン辺りでしょうか……)


 しかしながら、あくまで訪れそうな人がいるだけで、G・ゲーマー・グローリーグラディスからすれば誰も図書館を訪れそうになかった。


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは気配を消すと、遠目から足音の正体を覗き込んだ。


 その正体は。


(か、カバネ様……?)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスにとって、この肉体と魂を捧げ、たとえ命を以てしても忠誠を貫こうと決めた御方々の一人が真剣な表情で棚にある蔵書を睨んでいた。


(え、えっと……。この場合……、私はどうすれば……)


 目の前に忠誠を誓っている御方がいるのにもかかわらず、それを見て見ぬふりをして立ち去るなど、不敬も良いところだった。

 だからといって、何やら集中した様子で蔵書を眺めているのを遮る形で声を掛けるのも、あまり褒められた行いではないとG・ゲーマー・グローリーグラディスは思った。


(――――さりげなく、本当にさりげない感じで……、良い感じに声をお掛けすれば大丈夫な筈……)


「……G・ゲーマー、か。奇遇だな」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「だ、大丈夫か?」

「す、す、すみません……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは普段から、五感に加えて魔力による周辺の把握を行っていた。

 視覚や聴覚よりも高い精度で全体を把握することが出来る為、G・ゲーマー・グローリーグラディスは半ば無意識的に魔力探知に頼り切っていた。


(何という失態……っ。カバネ様とC・クリエイター・シャーロットクララだけは魔力探知に引っかからないことを失念していました……っ)


 しかしながら、魔力探知は自分と同等以上の実力を持つ魔術師には通用しなかった。

 その為、鹿羽が静かに近付いて来ていたことに、G・ゲーマー・グローリーグラディスは気が付くことが出来なかったのだった。


「……よく図書館には来るのか?」

「い、いえ……。先の戦闘に関して、少し調べたいことがございましたので……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは丁寧な口調でそう言った。


 鹿羽は、G・ゲーマー・グローリーグラディス達より、護衛中に起きた戦闘に関する報告を受けていたことを思い出した。

 結論から言えば、鹿羽は敵対行為を避けたかったが、避けられない戦いが存在することも理解していた。


 既に起きてしまったことに関してはどうしようもなかったが、NPCが自分の身に起きたことに関して自発的に行動を起こしているということは、鹿羽にとってありがたいことであった。


「……あの件に関しては、とにかく無事で良かった」

「お気遣い頂き、ありがとうございます……。詳細につきましては、L・ラバー・ラウラリーネットより報告がありますので……」

「ああ。承知している。――――――――それで、何か分かったことはあるか?」


 鹿羽はG・ゲーマー・グローリーグラディスを見据えながらそう言った。


「恐れながら……、敵はおそらく……、独自に確立した魔法技術を使用しておりました……」

「未知の魔法、ということか?」

「申し訳ございません……。そこまで断言できるかは……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは自信なさげにそう言った。

 それは、明確な結論を下せるほどの確証が無いことに他ならなかった。


「いや、十分だ。良く分かったな」

「……っ」


 みすみす相手を逃し、その分析さえも満足な結果を出せていないと感じているG・ゲーマー・グローリーグラディスにとって、鹿羽の励ましは素直に喜べるものではなかった。


 必ず。

 必ず、挽回の機会をものにし、お役に立って見せると。

 G・ゲーマー・グローリーグラディスの静かな屈辱と決意を知る者は、本人ただ一人しかいなかった。


「――――そういえば一つ、G・ゲーマーに訊きたいことがあったな。構わないか?」

「は、はい……。何でもお答え致しますが……」

「G・ゲーマーは、他人に魔法を教えることが出来るか?」


 鹿羽の質問は、G・ゲーマー・グローリーグラディスにとって予想外のものであった。


「魔法の指導ですか……。それ自体は可能だと思いますが……、カバネ様と比べればまだまだ未熟の身ですので……、ご期待に応えられるかどうか……」

「いや、ごく基礎的な魔法についての話だ。現地にて魔法の指導を依頼されてな。それを上手く利用すれば、現地勢力との新たなコネクションを築くことが出来るんじゃないかと思ってだな」

「つまり、カバネ様がわざわざご教授するほどの相手ではない、と……」

「いや、まあ、あのだな」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスにとって、鹿羽は魔術の極致にいる人物であった。

 もし魔術師の身でありながら、鹿羽の指導を受けられるとするならば、地を這って泣きながら感謝しても不自然ではないと思うほどに。


 しかしながら、当の鹿羽本人は魔法自体は使えるけれども、その過程や仕組みは全く知らなかった。

 知識も何も無い為に、逆立ちしても他人に魔法の指導なんて出来ないという理由から、鹿羽はG・ゲーマー・グローリーグラディスに今回の話をしていたが、G・ゲーマー・グローリーグラディスには全く別の意図に映ったようだった。


「――――とにかくだ。この依頼を遂行する為に、G・ゲーマーかC・クリエイターのどちらかに相談するつもりでいた。どうだ。魔法の指導は出来そうか?」

「…………やって見せます。必ずや……、ご期待に沿えるような成果を上げて見せましょう」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは力強く、そう言った。


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