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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
二章
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【024】見知らぬ復讐劇


 一


 途中、盗賊の襲撃という予期せぬトラブルに見舞われた鹿羽達だったが、無事に撃退し、輸送護衛の依頼を全うしていた。


「……? ああ、成程な」

「止まったみたいだが……」

「……休憩に入りますので、どうか皆さんも外で休んで下さい」


 急に馬車が停止したことに驚いた鹿羽と楓だったが、間もなく入ってきた商人の台詞によって、それが緊急の事態ではないことを理解した。


「ふむ。休憩もあるのだな」

「……我々はただ仕事が無いことを祈るだけの身であるが、馬はそうではない。休み無く走らせれば、早々に潰してしまうことになる」

「そういうことか」


 考えれば当たり前のことに鹿羽は納得し、そして頷いた。


 二


 鹿羽達の依頼主である商人達が選んだ休憩場所は、見晴らしの良い平原であった。

 通行する人々によって踏みならされた街道を除いて、平原は膝程度までに伸びた雑草がひたすら広がっており、何にも遮られない風が轟々と吹き荒れていた。


 馬を休ませる為に漫然と過ごす鹿羽達の前には、時折、通行人であろう馬車達が通り過ぎていった。

 仮面を身に着け、素性を隠している鹿羽にも丁寧に手を振ってくれる辺り、この世界の人々は比較的社交的なのかもしれないと鹿羽は考えていた。


「……どうした。老骨に何か用かね」

「折角だから訊きたいことがあってな」

「ふん。訊くだけなら“ただ”みたいなものだ。勝手に申せ」

「それじゃあ、お言葉に甘えてだな……。アンドレさんから見て、俺達は冒険者に向いているか?」


 鹿羽はこの世界の住人ではなかった。

 よって、鹿羽はこの世界における冒険者というものを詳しくは知らなかった。


 餅は餅屋、という訳ではなかったが、冒険者ということならば冒険者に訊くのが一番良いだろうと考え、鹿羽は先輩から話を聞こうと試みていた。


「――――類い稀な魔道の才能などを見れば、向いているのかもしれないな」

「やっぱり冒険者は危険か?」

「……力ある者は惹かれ合う。力を振るうことを生業とするならば、当然のことではないのかね」


 アンドレは淡々とそう言った。


(危険かどうかは愚問ってことなのかね……)


 鹿羽が一番知りたかったことは、自分達にとって冒険者という仕事が危険かどうかだった。

 しかしながら、一般論として冒険者がリスクを背負うことは自明のことであり、冒険者が危険かどうかなんて、そもそも質問としてナンセンスだったことを鹿羽は悟った。


「……悪い。変なことを聞いたな」

「迷うのは良いことだ。無論、戦いの中での迷いは命取りになるであろうが、生きる上での迷いは必然であろうよ」


 アンドレは、どこか懐かしむように言った。


 その瞬間。


「――――ッ!」

「――――ッ!?」


 アンドレの背にあった馬車の積み荷が、轟音と共に火柱を上げた。


「何事であるか!?」

「おいおい待てよ……っ。じいさん! ニームレス! 大丈夫か!?」


 叩きつけられるような爆発音に、馬は暴れ、辺りは騒然となった。

 爆発の中心にアンドレと鹿羽がいることを見ていたライナスは、慌てて近くに駆け寄った。


「…………問題ない。何とか間に合った」

「な、何が起きたのだ……? 助けてくれたのか?」

「そうだな。結果から言えばそうなる」


 しかしながら、爆発の中心地に鹿羽とアンドレはおらず、少し離れた場所でアンドレを肩で支えている鹿羽の姿があった。


「お、おい。怪我はねえのか?」

「俺は問題ない。アンドレさんは大丈夫か?」

「……ぬう」

「じいさん! 大丈夫か!?」

「案ずるな。持病の腰痛だ」

「何なんだよ……。心配させんじゃねえ……」


 アンドレは鹿羽の支えを振りほどくと、何とか一人で立ち上がった。

 そして、鹿羽に対し、問いかけるように口を開いた。


「……爆発が起きてから反応するのは不可能だった筈だ。どうやって異変に気付いた?」

「後ろの荷物から不自然な魔力の高まりを感じたんだ。恐らく、人為的なものだとは思うが……」

「み、皆さん! 大丈夫ですか!?」


 男性の心配する声が響き渡ると、商人の一人が慌てた様子で鹿羽達に駆け寄った。


 すると突然、アンドレが苛立った様子で商人の胸倉を掴み上げた。


「ぐえ」

「輸送予定の荷物に爆発物なんて無かった筈だ。どういうことか説明してもらおう」

「ひ……っ!? し、知りません!」

「最終確認した責任者は誰だ」

「そ、それは……」


 掴み上げられた商人は何が何だか分からない様子だった。

 すると、別の商人が鹿羽達の元へやって来た。


「……しぶといな。アンドレ」

「心当たりのありそうな顔だな。私に恨みでもあるのか?」


 アンドレは乱暴に手を離すと、もう一人の商人を睨みつけた。


「ああ、あるとも。忘れたとは言わせないぞ」

「……なら私一人を仇討ちすれば良かろう。関係無い者を巻きこむなど、言語道断」

「復讐者に何を求めているのだ……? 特務傭兵団第二部隊副隊長殿」

「何年前の話だ」


 アンドレは吐き捨てるように言った。


「何年前……、だと?」


 しかしながら、商人は聞き捨てならないことを聞いたかのように、震えながら問い返した。


「ふざけるな……っ! 忘れたとは言わせぬっ! 家族を! 無抵抗の市民を惨殺し! 罪人共は報いを受けた中! なぜ貴様は生きている!? なぜ貴様だけはのうのうと生きているのだ!」


 商人の手には、禍々しく光る石のようなものが握られていた。

 それを目にしたライナスは、慌てた様子で叫んだ。


「――――ッ! 不味い! じいさん! 下がれ!」

「ふははは!! もう遅い! こいつは“とっておき”だ! 何人たりとも抗うことは出来ない!」


 商人は愉悦に浸ったように笑った。


「ライナス。あれはいったい何だ」

「……人を狂わせ、獣に変えちまう石を見たことがある。確か名前は――――」


 鹿羽の質問に、ライナスは遠い記憶を掘り返すように応じた。

 すると、アンドレは補足するように口を開いた。


「“魔獣石”だ。“魔石”とは異なり、災厄しかもたらさぬ忌々しい代物よ。このような物まで準備していたのか……」

「はははははは!! 死ね!! 今度こそ!! 確実に!! 惨たらしく死んでしまえ!! 死にぞこないが!!」


 握り締められた“魔獣石”は更に輝くと、粘体へと溶け出し、商人の身体を包み込んでいった。


「――――っ! が――っ!? ぎ――」

「見るに堪えぬ……。これが復讐に囚われた男の末路か……」


 苦悶の表情を浮かべながら、“魔獣石”に飲み込まれていく商人の姿に、アンドレは思わずそう呟いた。


(奴の魔力が、“あの石”と混じり合っている――――?)


 目の前で起きている不可解な現象に、鹿羽は思わず顔をしかめた。


「どうすんだよ。じいさん。すげえ嫌な感じがするぜ……」

「一度、同じ“魔獣石”に飲み込まれた者を討ったことがある。あれは見た目以上に速く、残忍だ。決して侮るな」

「ぐぎ――――が――ぐぐるるるああああああ!!!」


 やがて商人の身体は膨れ上がり、爬虫類の化け物のような“獣”へと変貌した。


「……ニームレス殿。どうする心づもりであるか?」

「もう駄目だ。魔力が完全に変質してしまっている。あの変化を食い止めることも、ましてや元に戻すことも出来ない」

「では……」

「カエーテ様。お下がりください」

「むう」


 安全を優先する為に、S・サバイバー・シルヴェスターは楓を安全な場所へと避難させようとした。

 自分だけこの場を離れることに戸惑った様子を見せた楓だったが、鹿羽は首を僅かに動かすと、速やかに離れるよう指図した。


(……結局は他人の復讐劇に巻き込まれただけの話だ。そもそも助けようと思うこと自体、見当違いなのかもしれないな)


 鹿羽は一瞬、あの“魔獣石”と商人を切り離せば、“獣”への変貌を食い止められるのではないかと考えていたが、巻き込まれただけの自分がそんなことをする義理も無いことに気が付いていた。


 降りかかる火の粉は払うだけ。

 加害者の心配なんて必要ない。


 そんな単純で明快な論理が、鹿羽の中で定着しようとしていた。


 やがてこちら側に害をなすであろう“獣”に対処する為に、鹿羽は魔力を集中させた。


 その瞬間。


『――――敵性個体を確認。支援攻撃を行いマス』


 魔法によって暗号化された音声が鹿羽の耳に届くと、風を切るように謎の弾丸が“獣”の身体を何度も貫いた。


「が――ぎ――――ぃっ!!?? がああああああああ!!!」

「な、何事か!?」


 身体に風穴を開けられ、“獣”は苦痛のあまり叫んだ。


「ニームレス! お前の魔法か!?」


 あまりにも突然の出来事に、ライナスは思わず鹿羽の方へと振り向いた。


 結論から言えば、鹿羽は何もしていなかった。

 しかしながら、目の前の異様な光景を見れば、魔術師の仕業と思うのは仕方の無いことかもしれなかった。


(――――L・ラバー・ラウラリーネット、か)


 鹿羽の脳裏に、一人の少女の姿が思い浮かんだ。


 飛来する弾丸は絶え間なく、“獣”の身体を容赦なく撃ち抜いていった。

 鮮血が舞い、肉片が飛び散り、弾丸は獣の生命力を物理的に削ぎ落としていった。


「何という魔法……っ」

「こんな魔法もあんのかよ……」


 “獣”は抵抗することも出来ず、弾丸に貫かれていった。

 やがて地面に膝をつくと、そのまま倒れこんだ。


 しかしながら、執拗な攻撃はまだ止まらなかった。

 もう誰が見ても明らかなまでにズタズタにした後で、ようやく攻撃は止まった。


「ニームレス……」

「何事もなくて良かった。少し派手な魔法だったか?」


 “獣”の無残な死体を前に、鹿羽は気楽な様子でそう言った。


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