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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
二章
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【021】黄金竜王


 一


 現在、鹿羽達がいる城塞都市チードリョット、その周辺の森林にて。

 迷彩柄の塗装がなされた地対空ミサイルの発射設備が、豊かな自然に溶け込んでいるようで、やはり異様な存在感を放っていた。


「通信状態良好。システムオールグリーン」

「随分と……、かさばるものを持ってきましたね……」

「我々の役目はカバネ様とメイプル様の遠距離からの護衛デス。手段を選ぶナド、ありえないことだと思いますガ」

「何ですか何なんですか……? 別に貴女の判断をどうこう言った訳ではないんですが……」


 L・ラバー・ラウラリーネットの言葉に対し、G・ゲーマー・グローリーグラディスは吐き捨てるようにそう言った。


「威力で言えば申し分ありませんガ、発射までの時間、そして追尾性能には不安が残りマス。速さのある空中戦においては貴女の出番になりますノデ、しっかりと準備しておいて下サイ」

「はあ……。貴女が優秀なのは認めますけどね……。やりにくい……、とでも言えば良いんですかね……?」

「御方々の判断に異議があるということデスカ?」

「……そういうとこですよ」


 この場にいるのは、L・ラバー・ラウラリーネットとG・ゲーマー・グローリーグラディスの二人だけだった。

 冒険者として潜入調査を行っている鹿羽達の護衛として、二人は遠距離から城塞都市チードリョットの監視を行っていた。


「――――招かれざる客が来たようですね……。一旦、場所を移しますよ……」

「折角設置した対空設備を放棄しろということデスカ?」

「察しが良い……、と褒めてあげたいところですが、違います……。別の地点から対処するだけですよ……。既に我々の位置は割れてしまっているようなので……」

「貴女の魔力のせいデハ?」

「私より優れた魔術師なんて……、この世に二人しかいません……。それに魔力探知ならば……、私がそれに気付かないということはありえません……。恐らく……、原始的で動物的な能力でしょうね……」

「……分かりましタ。従いマショウ」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスが発動させた転移魔法によって、二人は音も立てずに消失した。


 二


「ふむ。若い女の子の“かぐわしい”香り……。さしずめ、薬草集めかね」


 黄金の装飾が目立つ鎧を全身に纏った男は、気楽な様子で言った。


 男の名はプラーム。

 彼を知る者からすれば、あらゆる種族の女性を口説いて回る好色な男だった。


 しかしながら、本当の彼を知る人にとってすれば、彼はとても畏れ多い存在だった。


 またの名を、黄金竜王。

 男は普段、国を離れ、好き勝手に振舞う浮浪者であったが、実は南方の大国エシャデリカ竜王国において上から二番目の地位を持つ有力者であり、それほどの称号を与えられるだけの能力と実力がこの男にはあった。


「どうやったら仲良くなれるかな。紳士的に声を掛けるべきか、それとも獣のようにガツガツと迫ってしまおうか……」


 しかしながら、はたから見れば妄想たくましい残念な男にしか見えないのだった。


「ふんふーん。そろそろだな。さてさてさて、今回の美少女は如何ばかりかってね」


 自身が持つ鋭い嗅覚を頼りに、匂いの元へと辿り着いたプラームだったが、そこには謎の巨大な物体が置いてあるだけで、お目当てのものは存在しなかった。


「……あれえ? おかしいな。匂いはここで途切れてるんだが……。つーかデカッ。ナニコレ?」


 不思議そうな声を上げながら、プラームは目の前に設置されている謎の物体を叩いた。

 叩いた音から察するに、どうやら金属製の物体のようだったが、使い方や此処に置いてある意味は、プラームにはさっぱり分からなかった。


「……女の子のプレゼントとして持って帰るのもアリか? でも、こんなん貰っても嬉しくねえよなあ。どうしよ」


 プラームは、しばらく考え込むような仕草を見せると、何か思いついたかのように手を叩いた。


「ま、持って帰ってから考えれば良いか!」


 プラームは呑気にそう言うと、目の前の物体に手を伸ばした。


 その瞬間。


「あっぶえっ!?」


 プラームは瞬時の判断によって屈みこむと、小さな“何か”が、プラームの頭があった場所を高速で通り抜けていった。

 そして、耳に刺さるような破裂音と同時に、辺りに衝撃が走った。


「うっへえ!? 何処ですかあ!? 何処からですかあ!? 悪の秘密結社さんは何処から俺を攻撃してるんですかあ!?」


 プラームはすぐさま体勢を立て直し、この場を離れようと動き出すが、謎の攻撃は次々とプラームの鎧を掠めていった。


 しかしながら、流石竜王とも言うべきか。

 突然の、それも想定外の鋭い攻撃に対しても、プラームは恨み言を吐き捨てながら回避していった。


「――――見つけたぜえ! 理屈は理論は分からんが、そんな物騒な物は捨てちまえ“お嬢さん”!」


 プラームは攻撃を行っていた少女を発見し、その手に持っていた武器を叩き落そうと試みた。

 しかしながら、背筋を伝うような嫌な直感が、プラームに防御姿勢を取らせた。


「――――理屈も理論も分からないんだとしたら死ぬだけですね……。――――<虚空斬/リアリティブレイク>」

「ぐっは!?」


 プラームが攻撃を加えようとした少女よりも、さらに幼く見える“少女”が、プラームの身体を大きく吹き飛ばした。


「何ですか何なんですか……。感触が“浅い”んですけど……」


 “少女”――G・ゲーマー・グローリーグラディスは苛立った様子でそう吐き捨てた。


(――――やっべえ。ほんのちょっと遅れてたらバラバラにされてたわ……。フツーに俺並みに強いんですけど)


「……厄介な能力持ちデスネ。サッサとくたばって下サイ」

「はっ! これまで百人の女が俺にくたばれって言ってきたが、一度として俺はくたばらなかったぜ! お前で一〇一人目だ!」

「死ネ」

「ヤダ死なない!」

「殺しはしませんから……、早くくたばって下さい……」

「俺には違いが分かんないね!」


 少女――L・ラバー・ラウラリーネットは謎の攻撃を繰り出し、G・ゲーマー・グローリーグラディスは苛烈な魔法でプラームを追い詰めていった。

 逃げること、生き残ることに関しては自信のあるプラームだったが、今の状況が自分にとって絶体絶命であることを少しずつ認識し始めていた。


(うーん。死ぬなら可愛い女の子と一緒にいたいっていう願いは達成されそうだけれどもー。まさか可愛い女の子に殺されるとは思いもしなかったなー)


「――――<雷炎大旋風/サイクロン>」

「ああああああああ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! タンマタンマ!! 待って!! 死んじゃううう!!」

「死ネ」

「無慈悲!」


 プラームは、G・ゲーマー・グローリーグラディスが生み出した炎と雷が駆け巡る竜巻に閉じ込められ、大きく傷付いた。

 しかしながら、相手の言葉に一々反応しているのを見る限り、どこか余裕がありそうにも見えた。


「残り一手でチェックメイトですかね……。弱かったですけど……、中々やるじゃないですか……」

「やったぜ女の子に褒められた! でもこれスッゴイきついから解放してくれない!?」

「応じる相手であれば良かったですね……」

「うそん」


 荒れ狂う暴風の中、何とかして脱出を図ろうとするプラームだったが、為すすべなく自身の鎧を傷付けるのみだった。


「安心して下サイ。殺しはしませんカラ」

「だから違いが分からないって言ってるんだよなあ!?」

「然るべき結果に収束するだけですよ……。では……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは黒く巨大な魔法陣を展開すると、プラームを見据えた。


「あ、これ駄目なやつだ」

「終わりです。――――――――<冥神/ハ・デス>」


 漆黒と評するに相応しい、何処までも深い“闇”が、プラームの鎧を包み込んだ。


「――――肉体を残さないと蘇生出来ないのデハ?」

「……」


 L・ラバー・ラウラリーネットの問いかけに対し、G・ゲーマー・グローリーグラディスは何も答えなかった。

 そこには、生気が失われた鎧だけが残されていた。


 そして、G・ゲーマー・グローリーグラディスは静かに鎧の残骸に近付くと。


「クソがっ!」


 酷く感情を露わにした様子で、残った鎧を蹴り飛ばした。


「何ですか!? 何なんですか!? おちょくっていたとでも言うんですか!? ああ忌々しい! クソがクソがクソが!」

「……説明ヲ」


 猛烈な怒りを吐き捨てるG・ゲーマー・グローリーグラディスに対して、L・ラバー・ラウラリーネットは冷ややかな視線を送りながら、状況の説明を求めた。


「説明!? 見れば分かるでしょうが!? 初めからコイツは空だったんですよ!? 絶対に死ぬことも捕まることもありえない万全の状態で来やがったんです!――――ああ……、一体どうすれば……。私達の情報が決して外に漏れないように厳命されていた筈なのに……」

「極めて遺憾な結果になりましたガ、仕方ありませン。作戦を続けマス」

「ぐ…………っ。魔力、覚えましたからね……っ。いずれ、また……、お会いしましょう……っ」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは溢れ出る魔力と怒りを滲ませながら、あの飄々とした男の姿を脳裏に刻んだのだった。


 三


「おや、プラーム様。お目覚めですか?」

「…………おう。良い夢だったぜ」


 耳の長い青年は、一人の男に問いかけた。


「……そうですか。どのような夢であったか、宜しければお聞かせ頂いても?」

「内容ねえ。可憐な花に刺される夢だな。ちょいと刺激的だったわ」

「左様ですか」


 青年は、控えめに笑った。


「……マークスの野郎が何処にいるか知ってるか? アイツに愉快な夢の話でもしてやろうと思ってね」

「マークス様でしたら、いつも通り部屋にいらっしゃると思いますよ」

「そうか。あー、ダルッ。可愛い女の子が膝枕してくれたらなー」


 男は身体を伸ばしながら、嘆くようにそう言った。


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