【200】後日談
一
場所は統一国家ユーエス。
鹿羽達のギルド拠点内部の、医務室にて。
(見慣れた天井、か……)
鹿羽の視界には、見慣れた医務室の天井が映っていた。
ポタージュとの戦いを終えた鹿羽は、医務室のベッドの上で目覚めていた。
鹿羽は自分の身体を起こそうと腕に力を込めた。
しかしながら、鹿羽の身体は思ったように動かず、代わりに鋭い痛みが全身を駆け巡った。
(案外、俺もハードな人生を送っているのかもな……)
この世界に来て以来、何度も命懸けで戦っているという事実に、鹿羽は大きな溜め息をついた。
「――――やあ。お目覚めかい?」
「リフルデリカ、か……。――――うぐ……っ。結構身体が痛いな……」
「そりゃそうだろうね。全身の骨は殆ど折れてたし、内臓の“だめーじ”も深刻なものだったよ。何より、心臓が欠損してしまったんだ。しばらくは絶対安静だね」
ベッドのそばに座っていた少女――リフルデリカは、淡々とした様子でそう言った。
「……麻理亜と楓は無事か?」
「はあ……。二人は大丈夫だよ。それより、ずっと看病していた僕に何か言うことがあるんじゃないのかい?」
「……今日は何日だ? どのくらい寝ていた?」
「今日は、天馬の節の十四日だよ。君がここに運ばれてから、丁度五日ぐらいになるね」
鹿羽はせいぜい一日ぐらい寝ていたものだと考えていたが、リフルデリカの言葉は鹿羽の想像を上回るものだった。
「まさか、ずっとここに居たのか?」
「全く席を外さなかったとまでは言わないけれど、出来る限り君の傍に居られるよう努めたつもりだよ」
「……なんか、その、悪いな」
「そういう時は謝罪ではなく、感謝の言葉が欲しいかな」
リフルデリカはそう言うと、真っ直ぐな視線を鹿羽へと向けた。
対する鹿羽は気恥ずかしそうな表情を浮かべると、リフルデリカから顔を逸らした。
「……ありがとな。リフルデリカ」
「うん。それで良いんだ。僕は君の一番の理解者だからね」
リフルデリカは、嬉しそうに笑いながら言った。
「……クイントゥリアはどうなったんだ? 知っているか?」
「――――クイントゥリアは今、ここの地下牢で大人しくしているそうだ。四六時中、グローリーグラディス氏がやけに張り切った様子で見張っているし、カエデ氏も彼女を気にかけているようだから、クイントゥリアに関しては心配要らないんじゃないかな?」
リフルデリカは、気楽な様子でそう言った。
そして鹿羽は、最後に戦った相手のことを思い出すと、少し躊躇った様子で口を開いた。
「……それで、ポタージュのことは何か知っているか?」
「うん。まさか古の賢者が今も存命で、君と派手に戦うとまでは思わなかったけどね。――――彼女は今、首都ルエーミュ・サイの特別な施設に隔離されているそうだ。君のおかげで無力化されたとはいえ、とんでもない力の持ち主だからね。僕としても彼女のことは少し気掛かりなところではあるんだけれども……」
すると突然、何かが軋むような音が響き渡ると、医務室のドアが開いていた。
鹿羽達はドアの方へと視線を向けると、そこには楓によく似た女性が立っていた。
「あ、あのー。お見舞いに来たのですが、入っても宜しいでしょうか……?」
女性――ポタージュは、少し気まずい様子でそう言った。
「あのー。新鮮な果物をお持ちしましたので、良かったら……」
「……隔離されていたんじゃなかったのか?」
「言っただろう? 気がかりだったって。そもそも彼女を何処かに閉じ込めておくだなんて、不可能な話なのさ」
リフルデリカは、呆れた様子でそう言った。
鹿羽もまた複雑な表情を浮かべると、再びポタージュの方へと視線を移した。
「……もう暴れたりしないんだよな?」
「……! はい。私の心臓の呪いが解けることはありません。私はもう誰も傷付けることも、そして殺めることも出来ませんよ」
ポタージュは穏やかな様子でそう言うと、持参したカゴの中からリンゴのような果物とお皿とナイフを取り出していた。
そして、ポタージュは目にも留まらぬ速さで果物を切り分けると、あっという間に山盛りのカットフルーツが完成していた。
「ふふ。可愛らしいウサギさんですね。リフルデリカ様も如何ですか?」
「……ふん。まさか古の賢者様から果物を頂けるとはね」
リフルデリカは皮肉っぽい口調でそう言うと、手ごろな大きさの果物を口に放り込んだ。
「鹿羽殿!!!! 遂に悠久の封印から目覚めたであるか!!!!」
瞬間、足音が慌ただしく鳴り響くと、楓が慌てた様子で医務室に転がり込んでいた。
「おや。貴女様は……?」
そして、ポタージュと楓の二人は目と目が合うと、楓は驚愕の表情を浮かべていた。
「ろ、ローグデリカ殿が、大人のわがままボディになっている、だと……っ!?」
次の瞬間、後からやって来たローグデリカの拳が、楓の後頭部に容赦なく振り下ろされた。
「さっきまで一緒に居ただろう。馬鹿者が」
「む、むう……。我の生き写しがどんどん増えているような気がするぞ……」
楓は、何とも言えない表情を浮かべながらそう言った。
「――――あら。楓ちゃんがいっぱいねー」
すると、麻理亜も医務室に姿を見せていた。
「……鹿羽君。身体の具合はどう? 大丈夫?」
「麻理亜か……。大丈夫って言いたいところだが……」
「無理すると全身の血管が千切れて死んじゃうから気を付けてね?」
「そういう怖い話は先に言ってくれ……」
気楽に語る麻理亜に対し、鹿羽は落ち込んだ様子でそう言った。
「麻理亜殿。鹿羽殿はあとどのくらいで回復するであるか?」
「うーん。一週間ぐらいで歩けるようにはなるんじゃないかな? 全快には二か月ぐらいかかると思うけど……。――――鹿羽君。今後はどうする?」
「そうだな……。言われた通り、しばらくはゆっくり休みたいところだが……」
鹿羽は、少し疲れた様子でそう答えた。
「あら、そう。怪我が治ったらエシャデリカ竜王国の復興支援を手伝ってもらおうかなーって思ってたんだけど」
「まあ、その内な……」
鹿羽は、呆れた様子でそう言った。
以上をもちまして、『ハイゲーマー・ブラックソウル』は完結となります。
皆様のおかげでここまで書き上げることができました。
本当にありがとうございました。




