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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
192/200

【192】VS竜神


 一


 場所はエシャデリカ竜王国。


 クイントゥリアの手によって蘇った竜神――クロスティガーは、エシャデリカ竜王国の王都を静かに見下ろしていた。


(――――勇者の野郎に邪魔されて、結局成し遂げることが出来なかった“復讐”を、まさかこんな形で再挑戦出来るとはな……。邪神クイントゥリアってのは案外粋なことをするじゃねえか)


 エシャデリカ竜王国が誕生する混迷の時代よりも遥か昔、クロスティガーは民を率いる竜王の一人だった。


 クロスティガーは戦いの才能に恵まれていた。

 戦では負け知らずであり、当時の竜王の中でもクロスティガーは突出した強さを持っていた。


 クロスティガーは、やがて自分が竜王を率いる白金竜王になるものとばかり思っていた。


 しかしながら、クロスティガーはいつまで経っても白金竜王にはなれなかった。

 後輩の優秀な竜王達が次々と白金竜王になっても、クロスティガーは白金竜王になることが出来なかった。


 竜王になる為には必須とされた、民を想う心が、クロスティガーには無かった。


「相変わらず竜王国ってのは綺麗なもんだな。この俺を追い出しやがって、俺は死んだってのに相変わらず綺麗に残ってやがる。許せねえよなぁ?」


 クロスティガーは、吐き捨てるようにそう言った。


「――――誰? お前」


 対する男――黄金竜王プラームは、何てことない様子でそう言った。


「はっ! 口の利き方がなってねえんじゃねえか? 先輩に対してよ」

「いや知らんて。それに口の利き方つったって、今は俺がこの国で一番偉い訳で。別に無理して尊敬しろとまでは言わねえけどよ、お前さんの方が明らかに失礼でしょ」

「俺のことを忘れるたぁ良い度胸じゃねえか。八人の竜王をぶち殺した竜神――クロスティガー様のことをよぉ」


 クロスティガーはそう言うと、ニヤリと笑った。


 対するプラームは何とも言えない表情を浮かべると、大きく溜め息をついた。


「……はあ。へいへい。知ってるよ。だってお前、竜王国の教科書に載ってるし。あ、良いこと教えてやろうか。お前今、子供達に“デコ助”って呼ばれてるらしいぜ。子供の感性ってのは鋭いもんだよな」

「……馬鹿にしてんのか?」

「今の話で馬鹿にされてないって思う方がヤバいと思うよ。――――そういう訳で今日からお前は“デコ助”な。よろしく頼むぜ。デコ助野郎」


 プラームは挑発するかのような口調でそう言うと、腰に差した剣を静かに引き抜いた。

 対するクロスティガーもまた、背中に差した大剣をゆっくりと構えた。


 二人は、互いの実力を推し量るように睨み合った。


 瞬間、剣が交錯した。


「俺様に殺された九人目の竜王として覚えておいてやるよ。死ね」

「うるせえ。お前の悪行は現代までキッチリ語り継がれてんだよ。サッサとくたばりやがれ」


 プラームは吐き捨てるようにそう言うと、半歩後ろに下がり、鋭い突きを繰り出した。

 対するクロスティガーは薙ぎ払うように大剣を振るうことによって、プラームの突きを弾くと、その勢いのまま大剣を思い切り地面へと叩き付けた。


 瞬間、クロスティガーの振るった大剣の衝撃波によって、プラームは大きく後ろに吹き飛ばされていた。


「ち……っ。随分な馬鹿力だな……」

「オラァ!! 死ね!!」

「死なない!!」


 クロスティガーは追撃の為に飛び出すと、その手に握り締めた大剣を振るった。

 一方、プラームはその斬撃を悠々と回避すると、反撃とばかりに鋭く斬り返した。


 しかしながら、プラームの剣は、クロスティガーの素手によって受け止められてしまっていた。


「うっわ。マジかよ」

「これでもう動けねえなあ?」

「……せやな」


 プラームはそう言うと、呆気なく剣を手放し、クロスティガーから距離を取っていた。


「な……っ! 逃げんな!」

「いや、殺されるぐらいなら剣を捨てて逃げるでしょ」


 憤慨した様子で叫ぶクロスティガーに対し、プラームは飄々とした態度でそう言った。


(相性は悪くないとはいえ、普通に格上なんだよな……。だからといって、俺以外の竜王が何とか出来るとも思えねえし……。さて、どうしたもんか……)


 瞬間、何処からか風が吹き抜けた。


「――――おや。悪い竜が暴れているようですね。大丈夫ですか?」


 女性の声だった。


 プラームとクロスティガーの二人は視線を向けると、そこには穏やかな表情を浮かべる女性が立っていた。

 女性はプラームと目が合うと、ニコリと笑った。


 しかしながら、女性の放つ威圧感を前に、プラームは動けなくなっていた。


(んだよコレ……っ。心臓を鷲掴みにされてるみてえだ……っ。人生初の失恋の時も、こんなにキツくはなかったぞ……っ)


 プラームは、女性が放つ異様な雰囲気に飲み込まれてしまっていた。


「――――テメーは何者だ」

「私でございますか? そうですね……。自分を何者かというのは中々に説明が難しいところでございますが……」


 クロスティガーの質問に対し、女性は考え込んだ様子で顎に手を当てた。


「……私の名はポタージュ。通りすがりの僧侶でございますよ」


 女性――ポタージュは、ニコニコと笑顔を浮かべながらそう言った。


(ポタージュ……? どっかで聞いたことあるような無いような……)


「……本物か?」

「そんなこと申されましても困りますね。貴方様にとって私が“本物”かどうかなど、私には分かりかねることでございますから」

「……面白い。ぶっ殺せば直ぐに分かる話だ」


 クロスティガーは笑いながらそう言うと、勢いよく飛び出し、ポタージュに向かって一気に肉薄した。


「――――むふふ。私と戦うなんて、良い度胸ですね」


 ポタージュは、自信を感じさせる口調でそう言った。


 しかしながら、クロスティガーの拳がポタージュの顔面を捉えると、ポタージュはそのまま向こう側の壁まで吹き飛ばされていた。


(弱……っ!?)


 強者の雰囲気を漂わせながらも、呆気なく散ったポタージュの姿に、プラームは心の中で思わずそう呟いた。


「……?」


 瞬間、クロスティガーは右腕に違和感を覚えると、直ぐに自身の右腕に目を向けた。


 そこには、ある筈の右腕が綺麗に根元から切断されていた。


「申し訳ございません。取れてしまいました」


 ポタージュは、気楽な口調でそう言った。


 クロスティガーの一撃をもろに食らっても、ポタージュは無傷だった。

 そして、無傷どころか、ポタージュは一瞬の間にクロスティガーの右腕を根元から引き千切っていた。


(ま、マジかよ……っ)


「やるじゃねえかよ……っ!! 古の賢者ぁ!!」


 クロスティガーは吠えるように叫んだ。


 対するポタージュは、引き千切った腕を放り投げると、何処からか剣を取り出した。


「……誰にも認められず、暴力でしか思いを伝えられないその気持ち。少しだけわかるような気がします」


 優しく諭すような、そんな口調だった。


 しかしながら、ポタージュは誰にも知覚出来ないほどの速さで飛び出すと、次の瞬間にはクロスティガーの目の前まで距離を詰めていた。


「――――しかしながら、暴力で生まれるものは悲しい感情だけです。愛される為には、先ず、相手を愛する必要があるのですよ」


 ポタージュは、穏やかに笑っていた。


 しかしながら、聖女のように笑いながら剣を構えるその姿は、あまりにも不自然で、形容し難い恐ろしさのようなものを放っていた。


「――――“天地一閃”」


 瞬間、音を置き去りにして、斬撃が放たれた。


 クロスティガーは、何が起きたのか全く理解出来なかった。

 そして、何も分からないまま、クロスティガーは絶命していた。


 数秒後、プラームは、クロスティガーがポタージュの手によって葬られたことをようやく理解した。


(つ、強過ぎね……?)


 プラームは、クロスティガーが居た場所に目を向けると、そこには血や肉片すら残っておらず、焦げた跡が地面に残るのみだった。

 ただ、その存在だけが綺麗に切り取られたように、クロスティガーは完全に消滅させられていた。


「――――ふう。思ったよりも彼女の動きが早いようですね。少し急がなければ……」


 ポタージュは特に気に留めた様子も見せずに、淡々とした様子でそう言った。


 そしてポタージュは、プラームの元へ駆け寄ると、申し訳なさそうな表情を浮かべながら口を開いた。


「あのー。後はお任せしても宜しいでしょうか?」

「……お、おう。気を付けてな」

「はい。それでは失礼致します」


 ポタージュはペコリと頭を下げると、そのまま飛び去ってしまった。


 プラームはただ、その後ろ姿を見送ることしか出来なかった。


「お茶に誘えなかった女性は、久しぶりだな……」


 プラームは、唖然とした様子でそう言った。


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