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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
191/200

【191】VS大海の魔王


 一


 場所は魔大陸。

 レ・ウェールズ魔王国領内にて。


 クイントゥリアの手によって蘇った大海の魔王マーレニクスは、数々の街や集落を破壊して回っていた。


(信念の無い戦いはしまいと誓った身でありながら、無意味な殺戮を繰り返すとは……。忌まわしき呪いよ)


 マーレニクスは、あまり争いごとを好まない性格の持ち主であった。

 ましてや一方的な虐殺はマーレニクスの最も嫌うところであり、たとえクイントゥリアによって操られた結果だとしても、マーレニクスは心に沈む罪悪感のようなものを抱いていた。


「せめて、魔王なる者が我を止めてくれると期待していたが……」


 マーレニクスは、複雑な表情を浮かべながらそう言った。


 そして、マーレニクスが魔力を集中させた瞬間。


「…………この村に、手出しはさせない」


 男性の声と共に、光り輝く剣閃がマーレニクスの身体を掠めた。


「――――勇猛なる戦士よ。ようやくか」


 マーレニクスは、待ちくたびれた様子でそう言った。


「…………何が目的だ」


 マーレニクスの前に立ちはだかった男性――孤高の魔王フット・マルティアスは、真剣な様子でそう言った。


「我は操られている。今はただ、世界を破壊する人形に過ぎん」

「…………どういうことだ」

「そのままの意味だ。汝は我を殺せばよい。難しい話ではない筈だ」


 マーレニクスは淡々とした様子でそう言ったが、対するフット・マルティアスは怪訝な表情を浮かべていた。


「――――ところで、魔王なる者はまだこの世界に存在しているか?」

「…………俺がその魔王だ。魔大陸の秩序は、俺が守る」

「ほう。なんと心強い言葉であろうか……。汝であれば、我を止めることが出来るかもしれぬな」


 マーレニクスはそう言うと、大きく息を吐いた。


「――――我は、大海の魔王マーレニクス。遠慮は無用だ。今を生きる若き魔王よ」


 瞬間、目にも留まらぬ速さで、マーレニクスの拳がフット・マルティアスに向かって振るわれた。


「…………っ!!」


 対するフット・マルティアスは、剣を巧みに振るうことによってその衝撃を受け流すと、カウンターとばかりに鋭く斬り返していた。


 しかしながら、マーレニクスの身体には傷一つ付いていなかった。


「素晴らしい太刀筋だ。愚直に剣を振り続けたのだろうな」

「く……っ」

「――――しかし、戦い方は異なれど、我もこの肉体を極限まで鍛え上げたつもりだ。たとえ必殺の刃であろうと、そう簡単に傷は付かぬ」


 マーレニクスは淡々とした様子でそう言うと、強烈な回し蹴りをフット・マルティアスの胴部へと叩き込んだ。

 そして、すかさず拳を叩き付けると、フット・マルティアスは大きく吹き飛ばされた。


「――――<海神/ポセイ・ドン>」


 マーレニクスは静かに詠唱を完了させると、空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 そして魔法陣からは、先端が三叉になっている巨大な光の槍が姿を見せると、フット・マルティアスに向かって勢いよく射出された。


「…………!!」


 光の槍は、吹き飛ばされたフット・マルティアスに見事に命中すると、周りの地形を飲み込む形で大爆発を起こした。


「流石にこの程度は耐えるか。若き魔王よ」

「…………っ」


 常人であれば跡形も無く消し飛ばされるであろう攻撃にもかかわらず、フット・マルティアスは何とか耐えていた。

 しかしながら、マーレニクスが繰り出した数々の攻撃は、フット・マルティアスに大きなダメージを与えていた。


「――――しかし、汝では我を打倒することは難しいようだ。死にたくなければ、疾く去れ」

「…………俺は戦うぞ。皆を守る為に」

「死んでしまえば何にもならぬ。無為に命を危険に晒すな」


 マーレニクスは、まるで諭すかのようにそう言った。


「――――テメーが死ねば全て解決するんじゃねえのかよぉ。オイ」


 そして次の瞬間、マーレニクスと同じぐらいの背丈の男の子が、マーレニクスを後ろから思い切り殴りつけ、大きく吹き飛ばしていた。


「…………れ、煉獄の魔王か……?」

「はっ! ざまあねえなボッチ野郎!」


 マーレニクスを殴り飛ばした男の子は、吐き捨てるようにそう言った。


 男の子の正体は、煉獄の魔王エーマトンだった。


 エーマトンは、マーレニクスへと視線を戻すと、そこには驚愕の表情を浮かべるマーレニクスの姿があった。


「ウルカヌス……? い、生きていたのか……?」

「あん……? 何を勘違いしてんのかは知らねえがぁ、俺はテメーのことは知らねえぞぉ」


 エーマトンは怪訝な表情を浮かべながら、吐き捨てるようにそう言った。


(――――他人の空似、であったか……。よくよく思い出せば、我が弟は気が弱く、荒事は苦手であったな……)


 マーレニクスから見て、エーマトンは自身の弟に瓜二つであった。

 しかしながら、マーレニクスの弟は戦いの才能には恵まれず、横暴の限りを尽くすエーマトンとは真逆の性格だった。


「……どうやら人違いだったようだ。汝も魔王か?」

「はっ! 愚問も良いところだなぁオイ。魔大陸最強つったら答えは一つだろうがよぉ」

「ふ……。確かにな」


 エーマトンの言葉に、マーレニクスは静かに笑った。


「――――往くぞ。若き魔王よ」


 一転、マーレニクスは真剣な様子でそう言うと、エーマトンに向かって飛び出した。


 そして、二人の拳が激突し、火花が激しく飛び散った。


「ぐ……っ」


 しかしながら、エーマトンは力負けした様子で大きく吹き飛ばされていた。


「…………だ、大丈夫か」

「ち……っ。他人の心配より自分の心配をしたらどうだぁ?」

「…………分かった」


 エーマトンの威圧的な言動に、フット・マルティアスは思わずそう答えた。


「――――<海神/ポセイ・ドン>」


 マーレニクスは詠唱を完了させると、再び巨大な光の槍が出現していた。


「――――<大地の怒り/ヴォルクエイク>!!」


 対するエーマトンも詠唱を完了させると、地面からは溶岩が噴出し、巨大な壁のように大きく変形していた。


 そして、光の槍が溶岩の壁に激突すると、轟音を響かせながら、再び大爆発を起こしていた。


「が……っ!?」


 暴風が吹き荒れる中、マーレニクスはエーマトンの首を掴んで、地面へと叩き付けていた。


「…………!!」


 フット・マルティアスは、エーマトンを助ける為に慌てた様子で飛び出したが、マーレニクスの念動力によって大きく吹き飛ばされてしまっていた。


「……このままでは死ぬぞ。若き魔王よ」

「は……っ! うるせえよ馬鹿がぁ……っ」


 首を押さえつけられたエーマトンは、苦悶の表情を浮かべながら、吐き捨てるようにそう言った。


(肉親に似た者をこの手で葬るというのは、やはり気分が悪いものだな……)


「ち……っ。余裕のある面しやがってぇ……っ。ムカつくなぁ……っ?」

「……諦めるな。さもなくば、死ぬぞ」

「へ……っ! どいつもこいつもムカつくんだよぉ……っ! 調子に乗りやがってぇ……っ!」


 エーマトンは再び吐き捨てるようにそう言うと、ニヤリと笑った。


 次の瞬間。


「――――<超風球/びゅんびゅんボール>!!」


 次の瞬間、黒い風を纏った巨大な魔力の塊が、マーレニクスに背中に叩き付けられた。


 マーレニクスは、驚愕の表情を浮かべながら振り向くと、そこには野性的な少女が立っていた。


 少女の正体は、暴虐の魔王アイカだった。


 そして、体勢を崩したマーレニクスを、エーマトンは思い切り殴りつけた。


「……っ」

「はっ!! ざまあねえなぁ!!」


 エーマトンは清々しい表情を浮かべながら、吐き捨てるようにそう言った。


「おい。マルティアス。生きてるか?」

「…………見識の魔王、か。来てくれたのか……」

「明らかにやべえ相手だったからな。あの馬鹿を連れて来るのに時間が掛かったぜ」


 見識の魔王テルニア・レ・アールグレイはやれやれとばかりにそう言うと、フット・マルティアスに手を貸した。


「――――しっかし……。煉獄の魔王サマがお前に協力するなんてよ。どういう風の吹き回しだ?」

「…………分からない」

「へ……っ。だろうな」


 テルニア・レ・アールグレイは苦笑交じりにそう言うと、腰に差した剣を静かに引き抜いた。


「おい!! レンゴクの魔王!! 大丈夫か!?」

「うるせえよぉ……。耳に響く」

「耳か!? 耳が痛いのか!?」

「ああクソ!! うるせえつってんだろ馬鹿がぁ!!」


 エーマトンは苛立った様子でそう叫んだ。


(――――仲間というのは、素晴らしいものだな)


 魔王達が集う姿を前に、マーレニクスは静かに笑った。


「――――おい。テメーら。気抜くんじゃねえぞぉ。コイツぁ俺よりほんのちょっとだけ強いからよぉ」

「レンゴクの魔王よりも強いのか!?」

「おいおい。絶対勝ってくれよ? 危なくなったら俺は逃げるからな?」

「…………皆が居れば、きっと勝てる筈だ」


 魔王――エーマトン、フット・マルティアス、テルニア・レ・アールグレイ、アイカの四人は、ゆっくりと戦闘態勢を整えた。


「――――さあ。来い。遠慮は無用だ」


 マーレニクスは、淡々とした様子でそう言った。


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