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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
189/200

【189】伸びゆく戦火


 一


 場所は統一国家ユーエス。


 鹿羽、楓、リフルデリカ、A・アクター・アダムマンの四人は、リフルデリカが展開した結界の中にて待機を続けていた。


「――――ところでカバネ氏。彼は……、いや、彼女は女性なのかい? それとも性別を超越した存在なのかな?」

「ミス・リフルデリカ。わたくしはれっきとした男性でございますよ。ただ、この姿でのわたくしは、肉体的には女性になっていますがね」


 可愛らしい少女の姿をしたA・アクター・アダムマンは、丁寧な口調でそう言った。


「……A・アクター。あまりその姿になるな。皆が混乱するだろう」

「おや、そうでしたか? 今のカバネ様はまさに両手に花……。となれば、わたくしも僭越ながら一輪の花として可愛がって頂こうと愚考したのですが……」

「いや、どういうことだよ……」


 上目遣いで身体をもじもじとさせるA・アクター・アダムマンに対し、カバネは呆れた様子でそう言った。


 今のところやることのない鹿羽達は、茶菓子の置かれたテーブルを囲んで、話に花を咲かせていた。


「ふむ。この菓子は悪くないね。茶の味わいも中々のものといえる」

「お褒めに預かり光栄です。ミス・リフルデリカ」

「うん。流石はアダムマン氏だ。カバネ氏の忠実なる下僕を自称するだけのことはある」

「ふひ……っ。失礼。ありがたいお言葉ですね」


 A・アクター・アダムマンはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、嬉しそうに言った。


 リフルデリカは、ゆっくりとティーカップに口を付けると、そのまま勢いよくそれを飲み干した。

 そして、静かに息を吐くと、リフルデリカは淡々と口を開いた。


「――――だからこそ、招かれざる客の存在は無粋と言える。愚かだね。もはや罠とすら呼べない結界の中に土足で踏み込むだなんて、どうしようもないほど愚かだ」


 瞬間、何かが落下するような音が響き渡った。


 リフルデリカ以外の全員が、音のした方へ視線を向けると、そこには一人の男が苦しそうにうずくまっていた。


「て、敵襲であるか!?」

「……念の為、警戒はしておいて欲しいところだけれど、まあ、問題は無いんじゃないかな。ここは僕の城みたいなものだし、特に多くの魔力を持つ相手には絶大な効果を発揮するよ。――――カバネ氏には少し懐かしいものになるのかな? それとも、ただの嫌な思い出に過ぎないかい?」


 リフルデリカは淡々とした様子でそう言うと、手元に置いてあった茶菓子を勢いよく口の中に放り込んだ。


 現在、鹿羽達はリフルデリカの結界の中に居た。

 鹿羽達からすれば、結界の中は適切な気温や湿度が保たれている快適な空間であったが、本来は敵の魔力に干渉し、その流れをぐちゃぐちゃにかき乱すという、特に魔術師にとってはこの上なく恐ろしい場所だった。


(この魔力……。まさか……)


 鹿羽は、目の前でうずくまっている男が魔術師であることに気が付いていた。


 更に言えば、男は鹿羽の知っている人物であった。


「カバネ氏。あまり不用意に近付くことはお勧めしないけれども……」

「楓。こいつは迷宮の奥に居た“屍王/リッチ”だ。魔力が一致している」

「……っ! あの時の死者の王であるか……。かの邪神の話も、真ということであったか……」


 男の正体は、鹿羽達が冒険者だった頃に迷宮の最深部で出会った“屍王/リッチ”だった。


「知り合いかい?」

「……いや、大した話じゃない。――――ただ、こいつもきっとクイントゥリアに人生を狂わされたのかもしれないと思ってな」


 鹿羽は複雑な表情を浮かべながら、淡々とそう言った。


 鹿羽は、男がクイントゥリアの存在を示唆していたことを思い出すと、静かに息を吐いた。


「ど、どうするであるか……?」

「……リフルデリカ。こいつは元に戻るのか?」

「僕は彼のことを知らないからね。何を以って“元に戻る”と言えるのかによるんじゃないかな。――――しかしながら、彼の場合は少しばかり手を加えられ過ぎているよ。魂そのものを変質させられてしまっているし、放っておいても自壊してしまうんじゃないかな? 勿論、元に戻すのも中々に難しい話だね」

「……そうか」


 鹿羽は、再び大きく息を吐くと、静かに魔力を集中させた。


「――――<軛すなわち剣/ヨーク>」


 瞬間、リフルデリカの剣が、男の心臓を貫いた。


「……どういうつもりだ。リフルデリカ」

「少し辛そうだったからね。君の手はあまり汚れていない訳だし、こういうことは他人に任せても良いのではないかい?――――それとも、迷惑だったかな?」


 リフルデリカは、淡々とした様子で続けた。


「――――あまり思い詰めるのは良くないよ。彼は運が悪かっただけさ。幸せになれる人もいれば、そうではない人も存在する。他人の人生をそうやって背負い込む必要は無いさ。先ずは自分のことをしっかりやらないとね」


 リフルデリカの言葉に、鹿羽は何も言うことが出来なかった。


 二


 場所は統一国家ユーエス。

 パルパス県にある、中央平原にて。


 クイントゥリアの主戦力としてユーエス軍の殲滅を命じられているメイプルツリー・アケルとデアフェダー・コルプスの二人は、悠々と空を飛んでいた。


「――――今度はあっちだ。あっちに行くぞ」

「……アケル。“飛行/フライン”は決して難しい魔法じゃない。君なら数日もしない内に習得出来るだろう」


 デアフェダー・コルプスは、メイプルツリー・アケルの両脇を持ち上げる形で空を飛んでいた。


「あん? 何でオレがそんな面倒臭いことしなくちゃいけねえんだよ。オレは“白金焔刀ケルベロス”の封印を解くのに忙しんだ。んなことしてる暇なんかねえ。――――次は向こうだ」

「そうかい。それでは私は、こうやって面倒臭いことをしなくて済むように新しい魔法の開発に勤しむとしよう。――――全く……」


 あまり恰好が良くない状態で飛行を続けているデアフェダー・コルプスは、呆れた様子でそう言った。


 二人はしばらくの間、気ままに飛行を続けていると、中央平原に設置されたユーエス軍の野戦基地を発見していた。


「キヒヒ。沢山居るじゃねえか。サッサと焼き払っちまえ」

「……いや、とんでもない相手が居る。二人で戦おう」

「ち……っ。ビビってんじゃねえよ。――――どいつだ。そのとんでもねえ相手ってのは」


 メイプルツリー・アケルは吐き捨てるようにそう言うと、野戦基地の周りに居る人々に視線を向けた。


 すると、たった一人だけ、メイプルツリー・アケルとデアフェダー・コルプスの二人の存在を肉眼で捉えている少女が居た。


 その少女は、どことなくメイプルツリー・アケルと似ていた。


「――――彼女は君の“起原/オリジナル”じゃないか? だとすれば、あの威圧感は納得がいく」

「ほう……? 面白いじゃねえか」


 メイプルツリー・アケルはニヤリと笑うと、デアフェダー・コルプスの腕を振りほどいて、たった一人で飛び出した。


「な……っ! 不用意に飛び出すのは危険だ!」

「ふはははは!! “起原/オリジナル”はオレだ!! オレこそが唯一で最強の存在なんだよ!!」

「全く君という人間は……っ!」


 デアフェダー・コルプスは再び、呆れた様子でそう叫んだ。


 そして、メイプルツリー・アケルは、自分達の存在に気付いていた少女のそばへと着地した。


「――――キヒヒ。よお。テメーがオレの“起原/オリジナル”か?」

「……何の話だ」

「見りゃ分かるだろうが。オレはある人間の生体情報を基に造られた人造人間なんだよ。テメーがその“起原/オリジナル”かって訊いてんだ」

「は……っ! なるほどな。おおよその事情は理解した。――――残念だったな。私はその“起原/オリジナル”などではない」


 少女は、吐き捨てるようにそう言った。


「――――だが、偽物が本物に劣る道理は無い。偽物は私一人で十分だ」


 少女の名は、ローグデリカ。


 圧倒的な実力を持つ、恐るべき剣士だった。


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