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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
188/200

【188】古の勇者


 一


 場所は統一国家ユーエス。

 パルパス県にある中央平原に設置された、大規模な野戦基地にて。


 兵士達が陣形を整えた場所は、山脈に挟まれた広い一本道のようになっていた。

 見渡す限り障害物は無く、吹き抜ける風が轟々と響き渡っていた。


「つ、遂に来たか……」

「邪神だか何だか知らないが、我らユーエスに手出しはさせないぞ……」


 瞬間、敵の襲来を知らせる警笛が鳴り響いた。

 しかしながら、兵士達は既に目視によって敵の存在を確認しており、警笛は大して役に立っていなかった。


 獣、骸骨、或いは、知性無き亜人。

 ありとあらゆる魔物達が集団を成し、首都ルエーミュ・サイへ向かって侵攻を続けていた。


(C・クリエイター・シャーロットクララが“骸兵行進曲/アンデッドマーチ”を発動させていた筈なのですが……。思ったより数は減っていないようですね……)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは、部下である魔術師達と共に、遥か上空から敵軍を見下ろしていた。


 瞬間、G・ゲーマー・グローリーグラディスは、魔物達の中に一人だけ異様な雰囲気を纏った人物が居ることに気が付いた。


(――――私に匹敵するほどの魔力……。彼女がこの戦いの大将首という訳ですか……)


 その人物の名は、ブレイブ・フォン・グレーシア。

 またの名を、古の勇者。


 史上最強の人物の一人として数えられている彼女を前に、G・ゲーマー・グローリーグラディスは少し苛立った様子で溜め息をついた。


「分かっているとは思いますが……、先頭に居る彼女には近付かないように……。左右に散開し、距離を取りつつ遠距離攻撃を……」

「か、畏まりました」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの部下である魔術師達は、少し緊張した様子でそう言うと、一斉に飛び去っていった。


(さて……。開戦の狼煙を上げさせてもらいますか……っ!)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは静かに息を吐くと、魔力を集中させた。

 G・ゲーマー・グローリーグラディスはその力を開放させるように両手を広げると、天空に巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。


「――――<虐殺術式/ジェノサイドマジック>!!」


 瞬間、幾つもの光の柱が、魔物達へ向かって雨のように降り注いだ。


 二


 G・ゲーマー・グローリーグラディスが放った大魔法は、圧倒的な熱量で以って魔物達を完全に焼き尽くしていた。

 その光景はまさに神の裁きのようであり、ユーエス軍の兵士達は、次元の異なる攻撃を前に呼吸することを忘れていた。


(悪くない……。だが、欲を言えば、もう少し威力が欲しかったところだな……)


 しかしながら、何もかもが焼き尽くされた筈の大地に、一人の女性が静かに立っていた。


 その女性は静かに息を吐くと、ゆっくりと歩き出した。

 そして、女性は少しずつスピードを上げると、やがては風を切るほどの速度で走っていた。


「に、人間……? 逃げてきたのか……?」


 魔物達の軍勢から逃げるようにやって来た女性の姿に、兵士達は怪訝な表情を浮かべていた。


「――――私は敵だ!! 絶対に容赦なんてするな!!」


 女性――ブレイブ・フォン・グレーシアは、一喝するようにそう叫んだ。


 兵士達は一瞬、ブレイブ・フォン・グレーシアを魔物から逃げてきた民間人だと判断していたが、驚異的な速度で駆け抜ける姿を見て、ただの人間ではないことに気付いた。

 そして司令官と思われる男性が声を上げると、兵士達は一斉に剣を引き抜いた。


(――――そうだ。それでいい)


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、兵士達の勇敢な表情を見て、静かに笑った。


 最前線に配置されたおよそ八千の兵士と、一人の勇者が、静かに激突しようとしていた。


「……っ!!」


 高速で駆け抜けたブレイブ・フォン・グレーシアは、既に兵士達の前に躍り出ていた。

 そして、最前線の中でも更に先頭に居た兵士達は、剣を構え、まさにそれを振るおうとしていた。


 瞬間、ブレイブ・フォン・グレーシアの拳が、一人の兵士の頭蓋を跡形も無く消し飛ばしていた。

 そして次の瞬間には、ブレイブ・フォン・グレーシアの脚は別の兵士の内臓を破裂させ、肘はまた別の兵士の顎を粉々に破壊していた。


「んな……っ!?」


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、一切武器を手にしていなかった。


 しかしながら、ブレイブ・フォン・グレーシアは全身を巧みに使い、圧倒的な運動能力で以って兵士達を次々と葬っていた。


 瞬間、ブレイブ・フォン・グレーシアは葬った兵士から剣を奪い取ると、目の前に居た三人の兵士を一太刀で斬り伏せた。

 そして向かってくる兵士に一切の攻撃を許すことなく、たった一撃で次々とその命を刈り取っていった。


(まずい……。このままではただの虐殺になってしまう……。身体の自由を奪われた私に出来ることは何だ……?)


 ブレイブ・フォン・グレーシアは大きく踏み込むと、身体をしならせる形で横に剣を振るった。

 ブレイブ・フォン・グレーシアは剣に魔力を込めていなかったが、超高速で放たれた斬撃は空気の刃となり、遠くに居た兵士の首さえも切り裂いていた。


 次々と兵士達を葬り去っていくブレイブ・フォン・グレーシアだったが、次の瞬間、何者かがブレイブ・フォン・グレーシアの剣を受け止めていた。


「……ようやく出てきてくれたか。英雄よ」


 その者の正体は、S・サバイバー・シルヴェスターだった。


「拙者は英雄などという器ではござらん」

「そうか……。――――私は強いぞ。絶対に油断はするな」

「無論」


 瞬間、S・サバイバー・シルヴェスターは盾によって受け止めていた剣を押し返すと、そのまま薙ぎ払うように剣を振るった。

 対するブレイブ・フォン・グレーシアは、押し返された衝撃を受け止める形でS・サバイバー・シルヴェスターから距離を取っていた。


「ふわ……。――――“天槍”」


 瞬間、上へと飛び出していたE・イーター・エラエノーラは、自身の背丈に匹敵するほどの槍を音速を超えるスピードで投擲した。

 そして、槍は秒もしない内に地面へと着弾すると、ブレイブ・フォン・グレーシアが居た場所を跡形も無く消し飛ばしていた。


「避けられちゃった。凄く、速い」


 しかしながら、ブレイブ・フォン・グレーシアは、E・イーター・エラエノーラの超高速の攻撃を回避していた。


 次の瞬間、ブレイブ・フォン・グレーシアは、自身の魔力が意図しない形で使われようとしていることに気が付いた。


(……っ!! 魔法で焼き払うつもりか……っ!!)


 ブレイブ・フォン・グレーシアは必死に魔力を押さえ込もうとしたが、肉体が自由に動かないのと同様に、それを止めることは出来なかった。


「避けろ!!――――<黒雷乱舞/サンダーストーム>!!」


 ブレイブ・フォン・グレーシアが詠唱を完了させた瞬間、魔法陣から黒い雷が飛び出すと、S・サバイバー・シルヴェスター達に向かって一気に広がった。


「――――<避雷針/ライトニングコンダクト>」


 しかしながら、黒い雷は見えない力に突き動かされるように方向転換すると、術者である筈のブレイブ・フォン・グレーシアに降り注いだ。


「……素晴らしい魔法だ。よくやった」

「何ですか何なんですか……。どうして貴女が上から目線なんですか……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは、吐き捨てるようにそう言った。


 ブレイブ・フォン・グレーシアの魔法は、G・ゲーマー・グローリーグラディスの雷属性の魔力を反射させる魔法によって跳ね返されていた。


(この三人であれば、もしかしたら私のことを止められるかもしれないな……)


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、人理を超えた圧倒的な力を有していた。

 ブレイブ・フォン・グレーシアの知っている中で、彼女を打ち負かすことが出来るであろう人物は、かつて彼女の師であった古の賢者ポタージュただ一人だけであった。


 しかしながら、今、ブレイブ・フォン・グレーシアの前に立ちはだかる三人もまた、特別な力を有していた。


「――――全力で来い。さもなくば、死ぬぞ」


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、少し楽しそうにそう言った。


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