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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
187/200

【187】避けられない戦い


 一


 場所は統一国家ユーエス。

 鹿羽達のギルド拠点内部の、広い会議室にて。


 クイントゥリアの宣戦布告を受け、鹿羽達は今後の方針を確認していた。


「――――ユーエス軍はこの場所に集結しているわ。丁度、首都ルエーミュ・サイへのルートを塞ぐ形ね。相手が直接首都を落としに来るなら、そのままぶつかり合う形になるし、ここの山脈を迂回して来るなら、こっちに軍を動かせば何とかなると思うよ。まあ、遥々山を越えて突っ込んでくる可能性も無くは無いけど、そうなったらシャーロットクララちゃんとグローリーグラディスちゃんにチャチャっと焼き払ってもらうことになるわね」


 麻理亜は机に広げた地図を指差しながら、淡々とした様子でそう言った。


「八万体の魔物、か……。俺も前に出て、“骸兵行進曲/アンデッドマーチ”を発動させた方が良いんじゃないか?」

「うーん。あんまり前線に戦力を集中させちゃうと、何かトラブルがあった時に対応力が落ちちゃうのよね……。個人的には鹿羽君を後ろに下げておいた方が安心かなー」


 麻理亜は、少し困ったような表情を浮かべながらそう言った。


 リフルデリカ教皇国との戦いや魔大陸での戦いなど、今までの戦争では、鹿羽は前線に出て積極的に戦っていた。


 しかしながら、今回の戦いでは、鹿羽は予備戦力として後ろに下がることになっていた。


「カバネ氏。前線にはシャーロットクララ氏を始め、優秀な人材が沢山居る筈だよ。僕達は後ろでのんびりさせてもらおうじゃないか」

「まあ、作戦のことを考えたら、仕方無いか……」

「それに、相手はあのクイントゥリアさ。従来の戦争のようにはいかないだろうね。いきなり後ろから襲い掛かって来ても不思議じゃないよ。それを鑑みれば、僕達が後方で待機することにも大きな意味はある」

「……そういうもんか」


 リフルデリカの言葉に、鹿羽は何とも言えない表情を浮かべながらそう言った。


「――――それじゃあ、作戦の確認をしよっか。エラエノーラちゃん、グローリーグラディスちゃん、シルヴェスター君の三人は最前線でユーエス軍の援護。ローグデリカちゃんとシャーロットクララちゃんは奇襲に備えて、前線の少し後ろで待機。鹿羽君と楓ちゃんとリフルデリカちゃんとアダムマン君は後方で待機ね。私とブラックバレットちゃんとラウラリーネットちゃんとテレントリスタン君はクイントゥリアの動向を監視するって感じかな。――――あ、そうそう。エシャデリカちゃんはどうするつもりなの?」


 麻理亜は何てことない様子でそう問い掛けたものの、この場にはエシャデリカの姿は無かった。


 しかしながら、楓が座っていた椅子の影が不自然に膨らむと、そこからエシャデリカが姿を見せていた。


「び、びっくりしたぞ……」

「……私はカバネとカエデの傍に居る。能動的な作戦に加わるつもりはない」

「あら、そう」


 麻理亜は気楽な様子でそう言うと、エシャデリカは再び影の中へと消えていった。


「――――しかし、読めないね。一週間後に攻撃すると言ったら、普通は約束を破って奇襲を仕掛けるのが定石だろう? クイントゥリアには別に国家間のしがらみがある訳でもない。想定される狙いとしては、適当に期限を指定することによって相手を混乱させるというものが考えられるけれど、大して通用しないことぐらい彼女にも分かる筈さ」

「……他に狙いがあるってことか?」

「どうだろうね。クイントゥリアがただの愚物であるならば、それまでの話なんだけれども、どうにも不合理的な部分が散見されるよね。――――要するに、戦いに勝とうという意思が感じられないんだよ。まるで初めから勝敗になんて興味が無いとまで思えてしまうね」


 リフルデリカは、少し呆れた様子でそう言った。


(クイントゥリアは見た目とは裏腹に、割と無邪気で幼稚な部分があったよな……。この戦いも、その延長線上にあるってことなのか……?)


 鹿羽は、クイントゥリアに閉じ込められた時のことを思い出していた。


 クイントゥリアは、鹿羽と楓の意識を精神世界に閉じ込めていたものの、そこで鹿羽達を攻撃する訳でもなく、むしろ友好的な態度を見せて、鹿羽達とボードゲームなどで遊んでいた。

 しかしながら、鹿羽と楓の知らないところで、麻理亜達はクイントゥリアと激戦を繰り広げていた。


 戦ったり、その一方で遊んだりと、クイントゥリアの行動には一貫性が無く、鹿羽はクイントゥリアの目的が何なのか分かりかねていた。


「いずれにせよ、カバネ氏とカエデ氏を一瞬で戦闘不能に追い込むほどの相手だ。油断すべきではないね」

「――――というか、あの時の不意打ちをまた仕掛けられたら、どうしようもないんじゃないか? 少なくとも俺は全く反応出来なかったが……」

「あれは結界の中で発動された特別な転移魔法さ。理屈としては無詠唱で瞬間移動する“影渡り”と一緒だよ。ただ、クイントゥリアは殺気を隠すのが上手だったからね。反応出来なくても仕方ない。不用意にクイントゥリアの“ふぃーるど”に近付かなければ、問題は無いと思うよ」

「……そうか」


 鹿羽は、この戦いが終われば、全てが明らかになるような気がした。


 二


 場所は統一国家ユーエス。

 パルパス県にある、中央平原にて。


 最前線にてユーエス軍と共に戦うことになっていたE・イーター・エラエノーラ、G・ゲーマー・グローリーグラディス、S・サバイバー・シルヴェスターの三人は、敵である魔物の軍団が居る方向へと視線を向けていた。


「ふわ……。一人だけ、物凄く強い人が居る。物凄く、強そう」

「やはり楽には終わりそうにありませんか……。具体的にどの程度ですか……?」

「分からない、けど、もしかしたら、ブラックバレットちゃんぐらい、かも……。――――あ、気付かれちゃった」


 E・イーター・エラエノーラは遥か遠くを見通す能力――“地平の魔眼”を発動させながら、驚いた様子でそう言った。


「な……っ。嘘でしょう……?」


 瞬間、G・ゲーマー・グローリーグラディスとS・サバイバー・シルヴェスターの二人は、慌てた様子で警戒態勢を取った。


「ふわ……。でも、まだ、こっちに来る様子じゃない。睨まれちゃったけど……」


 E・イーター・エラエノーラは少し困ったような様子でそう言うと、G・ゲーマー・グローリーグラディスは呆れた様子で大きく息を吐いた。


 しかしながら、少なくともE・イーター・エラエノーラよりも強い敵が居るという事実は、G・ゲーマー・グローリーグラディスからすれば、あまり嬉しい報告ではなかった。


(――――本当にB・ブレイカー・ブラックバレットに匹敵する敵が居るとすれば、相当厄介ですね……。C・クリエイター・シャーロットクララに連絡すべきでしょうか……)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは顎に手を当てると、考え込むような仕草を見せた。


(いや、今回もきっと全てを想定した上で作戦を立てているんでしょうね……。あまり気分が良いものではありませんが……、それが御方々の最善に繋がるのであれば……、喜んで死地へと赴きましょう……)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは溜め息をつくと、静かに気を引き締めた。


 三


 場所は統一国家ユーエス。

 パルパス県にある、中央平原にて。


 八万体にも及ぶ魔物の軍団が集まる中、古の勇者ブレイブ・フォン・グレーシアは静かに息を吐いた。


(災厄となり果てることを恐れ、私は自らの消滅を願った……。しかしながら、結局私は、民に不幸をもたらす災厄となってしまった……)


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、遠い過去の記憶に思いを馳せていた。


(やはり私は、過ぎた力を持つべきではなかったのだろうか……)


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、心の中で、少し後悔した様子でそう呟いた。


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、勇者だった。

 ブレイブ・フォン・グレーシアは、民を守る為に勇者になった。


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、誰よりも強かった。

 ブレイブ・フォン・グレーシアは、その強さが正しいものなのかどうか、よく分からなかった。


「――――時は来た、か」


 ブレイブ・フォン・グレーシアは、感情の読み取れない口調でそう言った。


 丁度、クイントゥリアの宣戦布告から、一週間が経過しようとしていた。


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