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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
一章
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【018】小話:Eのご飯事情、Bの休日


 一


 ギルド拠点内部にて。


「……次は食料のチェックであるな」

「まあ、別にやらなくても良いんだけどねー。あら」


 鹿羽、楓、麻理亜の三人は、ギルド拠点の各施設に異常がないか、チェックを行っていた。

 NPCには拠点内のどんなに些細なことに関しても報告するよう周知してあったが、それでも何が起こるかは分からなかった。

 念には念を、ということで、鹿羽達は定期的にギルド拠点内の見回りを行っているのだった。


「ふわ……? カバネ様と、マリー様と、メイプル様?」


 鹿羽達は食料のチェックを行う為に倉庫に向かうと、その入り口でE・イーター・エラエノーラが体育座りをしていた。

 E・イーター・エラエノーラは立ち上がると、鹿羽達に対して丁寧にお辞儀をした。


「……何をしているんだ?」

「えっと……、お仕事、無い、ので。座って、ました。はい」

「やっぱりエラちゃんは食べるのが好きだったりするのかしら?」

「ふわ……? 食べるの、大好きです。ここは、良い匂いする、から。座って、ました」

「しかし、こんな所にいたのでは余計に腹が減ってしまうのでないか?」

「……?」


 楓の言葉に、E・イーター・エラエノーラは小首を傾げた。


「ピンときてなさそうねー。こっそり食べたりとかしないの?」

「ふわ……。駄目、です。ご飯は、大事なものだから。勝手に食べちゃ、駄目……」

「意外としっかり屋さんなのね」


 麻理亜は感心したように頷いた。


「食料の生産を再開して、倉庫に入り切らない分であれば問題無い筈だが……。どうする?」

「ふわ……?」

「お主が望むのであれば、我らギルドが誇る豊穣の大地を復活させ、自給自足の新世界へといざなうぞ?」

「豊穣……? 自給自足……? 新世界……? えっと、えっと……」


 鹿羽達のギルド拠点には、農産物系アイテムを生産する設備が存在した。

 一部のクエストをクリアする為にそういった設備が活用されることはあったものの、利用においては細かな管理が必要で、需要の少なさ、そしてシステムの面倒さもあって、殆ど利用されてこなかった。


「要は食べ過ぎない範囲内なら、食べても良いよってこと。エラちゃんはご飯食べたいの?」

「……っ! 食べたい、です!」

「ならC・クリエイターに相談だな。彼女なら食料生産、そして料理もお手の物だろう」


 しかしながら、需要があるなら話は別であった。


 二


「動画で撮っておきたいわねー。フードファイターって言うのかしら?」

「圧巻であるな……」


 料理が独りでに運ばれ、空になったお皿は独りでに何処かへと運ばれていった。


「E・イーター。美味しいか?」

「ふわ……。美味しい、です」


 鹿羽の問いかけに対し、E・イーター・エラエノーラは嬉しそうに頷いた。


 E・イーター・エラエノーラは盛り付けられた肉や野菜を器用にフォークでまとめて串刺しにし、口へと運んでいた。

 一回の動作で一皿が空になるという光景は、大食いというより、その道の職人芸のように見えた。


「……C・クリエイター。この量を作るのは大変だったろ」

「いえ、事前に分かっていましたから」


 今回、料理を用意をしたC・クリエイター・シャーロットクララは苦笑いを浮かべながらそう言った。


「――――C・クリエイターも何か望みはあるか? 勿論出来る範囲で、という限定付きにはなるが」

「私のことはお気になさらず。皆様の幸せこそが、私の幸せでございますから」


 今回、E・イーター・エラエノーラの要望に応える為に、鹿羽達はC・クリエイター・シャーロットクララに料理を依頼していた。

 無論、E・イーター・エラエノーラには喜んでもらえた訳だが、鹿羽は彼女だけを優遇したい訳ではなかった。

 E・イーター・エラエノーラのみならず、これからお世話になるであろうNPC全員に対しては、出来る限り報いてやりたいというのが鹿羽の本心だった。


 よって、ごく自然な流れでC・クリエイター・シャーロットクララにもして欲しいことがないか訊いてみた鹿羽だったが、C・クリエイター・シャーロットクララは遠慮深い性格らしく、やんわりと断られてしまっていた。


「……そうか。食料生産の管理については任せる。在庫を消費しない範囲であれば、自由に食材を持ち出して良いからな。他の者にも伝えておいてくれ。あと食料生産に関して要望があれば、それも聞いてくれるとありがたい」

「畏まりました」


 もしC・クリエイター・シャーロットクララに願いがあったとしたら、いつか時間が経った頃に話してくれるだろうと鹿羽は思った。


 三


 場所はギルド拠点内部、農業エリア。

 魔法具である疑似太陽によって照らされたこの場所に、草花で囲まれた美しい庭園が存在した。

 紅茶と焼き菓子の甘い香りを漂わせながら、C・クリエイター・シャーロットクララはそこでお茶会の準備をしていた。


「貴女がお茶会のお誘いなんて珍しいですね……。どういった風の吹き回し……。――――って」

「ふわ……? グーラ、ちゃん。来てくれた」

「何ですか何なんですか……。よりによってどうしてこの娘を誘ったんですか……」


 浮遊しながらやって来たG・ゲーマー・グローリーグラディスは、恨めしい顔を浮かべながらE・イーター・エラエノーラを指差した。


「御方々が在庫を消費しない範囲でなら、自由に材料を使っても良いと許可を出してくれたの。グーラはお菓子が好きだったでしょ? だから……」

「余計なお世話、と切って捨てたいところですが……。貴女の好意は素直に受け取っておきます……。しかしながら……、出席者に関しては文句を言いたいところですがね……」

「グーラちゃん。私のこと、嫌い?」

「――――嫌いでもありませんし好きでもありません……。ただ貴女が、折角の茶菓子を食べ尽くすことを懸念しているだけです……」

「ちゃんとみんなが食べられるようにいっぱい焼いてきたから。きっと大丈夫よ」

「そう……。ならば良いのです……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは難しい表情を浮かべつつも、茶会の席に着くのだった。


 四


 場所はギルド拠点内部。

 鍛錬を終えたB・ブレイカー・ブラックバレットは、自室にて読書に耽っていた。


(C・クリエイターから借りたこの本……。恋愛小説など下らないと思っていたが、中々面白いな……)


 B・ブレイカー・ブラックバレットは当初、更に強くなる上で役立つ本はないかとC・クリエイター・シャーロットクララに尋ねていたが、C・クリエイター・シャーロットクララが紹介したのはただの恋愛小説だった。


(未知のものに触れる大切さ、か。確かに私だけでは、このような書物に目を通そうなど考えもしなかっただろうな。――――しかし、この二人が結ばれて本当に良かった……。一時はどうなることかと気を揉んだが、やはり愛が勝つということか。うん)


 C・クリエイター・シャーロットクララからこの本を渡された時は、こんなものが一体何の役に立つのかと疑問に思っていたB・ブレイカー・ブラックバレットだったが、読み進めていく内に、すっかり本の世界に引き込まれていたのだった。


(そろそろ終わりか。正直言えば、戦いには役立ちそうもない内容だったが、良い気分転換になったといえるだろう。――――ふむ。“二人は互いに強く抱きしめ合って、そのまま……”)


 B・ブレイカー・ブラックバレットは最後の一節を読み終えると、本を握り締めたまま部屋を飛び出した。


 五


「おい! C・クリエイターは居るか!?」

「おや、B・ブレイカーではないですか。珍しいですね」

「A・アクター……。何故貴様がここに居る?」

「わたくしもC・クリエイターに用があって来ただけですよ。ギルドも少し慌ただしくなってきていますしね。――――して、貴女にしては興味深いものをお持ちのようですが……」


 B・ブレイカー・ブラックバレットはC・クリエイター・シャーロットクララの自室の前を訪れていた。

 しかしながら、そこにいたのはC・クリエイター・シャーロットクララではなく、A・アクター・アダムマンだった。


「勘違いするな。これはC・クリエイターに薦められて読んだに過ぎん。それに私はこの本に文句があって来たのだ」

「ふむ。C・クリエイターはどうやら留守のようですので、宜しければわたくしが代わりに用件を伝えておきますが」

「……いや、貴様は信用ならん。私が直接伝える」


 B・ブレイカー・ブラックバレットは薄ら笑いを浮かべるA・アクター・アダムマンの表情を一瞥した後、吐き捨てるようにそう言った。


「そちらの本に文句があるとのことでしたが、それが本当に的を射た意見なのかどうか確かめた方が宜しいのでは? ご安心下さい。わたくし、秘密は守ります」

「……本当か?」

「はい。勿論です」

「誰にも言うなよ? 言ったら半殺しにするからな?」

「分かっております。わたくしは演じることはあっても、嘘つきではございませんから」


 A・アクター・アダムマンは穏やかな口調でそう言った。


「……最後のページに卑猥な記述があった。これは不適切な表現だと思ってだな」

「見せて頂いても?」

「……これだ」

「ふむ……。これは……」


 A・アクター・アダムマンはB・ブレイカー・ブラックバレットから本を受け取ると、言及された最後のページに目を通した。

 そして、A・アクター・アダムマンは怪訝な顔をした。


「…………申し訳ございませんが、何処がどのように不適切なのかを具体的に指摘してもらってもよろしいですか?」

「見れば分かるだろう! 最後に二人は……。き、き、キスをしているではないか!」

「……まさかここまでとは」


 A・アクター・アダムマンは驚いた表情を浮かべながらそう言った。


「きちんとC・クリエイターに伝えておけ! この本は卑猥で不適切だったと!」

「――――残念ながら、キスは卑猥とはいえません。恋愛における、かなり初歩的な概念といえるでしょう」

「……何だと?」

「B・ブレイカー。もし好きな方が居ればその方を、居なければ理想の相手について想像してみて下さい」

「……ああ」

「貴女はその意中の方に言い寄られ、その身を差し出してしまうのです。それはキスにとどまりません。お互い、裸で、深く、情熱的に……」

「は、裸っ!? ふ、深く、じょ、情熱的に……っ」

「――というのが、せめて卑猥といえる内容といえましょう。今更キス程度で赤くなるなんて、そんな初心な……。B・ブレイカー?」


 A・アクター・アダムマンが視線を向けると、B・ブレイカー・ブラックバレットは立ったまま、顔を赤くして気絶していた。


「ふ、ふにゃ……」

「こ、これは少し驚きましたね……」


 A・アクター・アダムマンは少し困った様子でそう言った。


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