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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
177/200

【177】淡々と進む時間


 一


 場所は統一国家ユーエス。

 首都ルエーミュ・サイにある、ユーエス議会の一室にて。


 そこには鹿羽、楓、麻理亜に加え、数人のNPC、更にはラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの姿もあった。


「――――とりあえずー、これでエシャデリカ竜王国と戦争することは避けられそうかなー? 残った竜王が穏健な人で良かったねー」


 麻理亜は、気楽な様子でそう言った。


 エシャデリカ竜王国では首脳会談が襲撃されるという事件が発生しており、その成り行きで統一国家ユーエスの護衛が多くの竜騎士、竜王を殺害していた。

 その後、G・ゲーマー・グローリーグラディスとC・クリエイター・シャーロットクララの働きにより、エシャデリカ竜王国の上層部の殆どが何者かによって操られていたことが判明していたが、一連の事件による混乱はエシャデリカ竜王国を含めた各国に暗い影を落としていた。


「麻理亜。フィリル村の方で保護していた竜王のことなんだが、統一国家ユーエスを少し疑っているみたいだった。確かにエシャデリカ竜王国、ローグデリカ帝国がやられている中で、統一国家ユーエスに被害が殆ど出ていないのがやっぱり疑わしいみたいだな……」

「疑いたくなっちゃう気持ちも分からなくはないけれどー、だからといって被害を容認する訳にもいかないしねー。――――私達は何も悪いことしてませーんって、弁明するしかないんじゃない?」

「まあ、そうだよな……」


 鹿羽は何とも言えない表情を浮かべながら、同意した様子で頷いた。


「あー、そうそう。皇帝陛下に伝えたいことがあってねー。どうやらローグデリカ帝国がラルオペグガ帝国に宣戦布告したみたいだよ?」

「……初耳だな。信用出来る情報なのか?」

「統一国家ユーエスが誇る工作員部隊が手に入れた情報だからー、真っ赤な嘘ってことはないと思うかなー?」

「私を首脳会談に呼んだのは、ローグデリカ帝国の注意をラルオペグガ帝国に向けさせる為か。――――本当の黒幕は貴様なんじゃないのか? マリアよ」

「酷ーい。私はただ皆と協力し合えたら良いなって思っただけなのにー」

「はっ! したたかな奴め」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは吐き捨てるようにそう言ったが、対する麻理亜は屈託の無い笑顔を浮かべたまま、話を続けた。


「――――ローグデリカ帝国と統一国家ユーエスの間には大きな山脈があるからねー。第七階位相当の転移魔法の使い手が居れば話は別だけどー、そうじゃないならあの山脈を越えて進軍させるのはやっぱりキツイんじゃない? でも皇帝を殺された復讐はしたい訳だから、その矛先がラルオペグガ帝国に向いちゃったってだけで」

「ふん……。まあ良い。かの帝国とはそろそろ決着を付けたかったところだ」

「ま、待て。ラルオペグガ帝国が皇帝を暗殺した訳じゃないんだろ? 何とかならないのか?」


 鹿羽は、イマイチ納得がいかない様子でそう言った。


「……カバネよ。真実が必ずしも真実として扱われることはない。皇帝が殺されたとなれば、他国の関与を疑うのは決して不自然な話ではないだろう」

「それにローグデリカ帝国とラルオペグガ帝国が戦争するって言ったってー、ローグデリカ帝国が雪の中を攻め込むのは大変だしー、だからと言ってラルオペグガ帝国がローグデリカ帝国の軍勢を蹴散らすのは無理だからー、例によって互いに攻め切れることなく休戦協定が結ばれて終わりだと思うよー」

「私が本気を出せば話は別だがな」

「あはは。強がりだね」

「黙れ。潰すぞ」

「きゃー怖い」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは常人であれば気絶するほどの殺意を飛ばし、周りに居たE・イーター・エラエノーラとS・サバイバー・シルヴェスターの二人は警戒態勢を取ったが、対する麻理亜は気にする様子を一切見せることはなかった。


「まーまー、二人も落ち着いて。皇帝陛下は冗談が下手なんだから」

「……ふん」

「――――という訳でー、帝国を操っている黒幕を討伐して、それを何とか帝国の国民に周知出来れば良いんだけどー、報告を見る限り、ローグデリカ皇帝の娘が指導者として祭り上げられているみたいだしー、彼女を救出出来れば戦争を早期に終結させられるかもねー」


(皇帝の娘……。あの時の女の子か……)


 鹿羽は、ローグデリカ帝国で皇帝の娘が誘拐された時のことを思い出していた。


 鹿羽の記憶では、ローグデリカ皇帝の娘は礼儀作法がキチンと叩き込まれた幼気な少女という印象だった。

 皇帝の娘は確かに王族という特別な立場には居たものの、それでも普通の人としての側面が存在していた筈だった。


 そんな少女の父は何者かによって暗殺され、その少女すらも戦争の象徴として祭り上げられているという現実に、鹿羽は不快感と共に運命の残酷さのようなものを感じていた。


 すると、ずっと黙っていた楓が、まるで疑問を投げ掛けるように口を開いた。


「麻理亜殿。そういうことならば、直ぐにでも行動を起こすべきではないか?」

「うーん。私としてはもう少し様子を見ても良いんじゃないかなーって思うんだけどねー」

「俺も楓の意見に賛成だ。無駄な戦争を見過ごすことは出来ない」

「……そう、ね」


 麻理亜は少し考え込んだ様子でそう呟いた。


「――――分かったわ。早急に部隊を編成して、ローグデリカ帝国に居ると考えられる黒幕の討伐作戦を実行に移してみる。相手も弱くはないだろうし、統一国家ユーエスの正規軍を使うと政治的な意味で大変だから、私達で作戦を遂行することになるわね」

「そういうことなら、俺も作戦のメンバーに加えてくれないか? きっと役に立てる筈だ」

「わ、我も!」

「……何が起こるか分からないから、私はちょっと反対かなーって」

「危険なら尚更だ」


 鹿羽は真っ直ぐな視線を麻理亜に投げ掛けると、対する麻理亜は観念した様子で溜め息をついた。


「――――はあ。分かったわ。ちょっぴり嫌な予感がするから、あまり鹿羽君と楓ちゃんは連れていきたくなかったんだけどねー。二人が行くって言うなら、私も出ることにするね」

「ああ。その方が絶対に良い」

「……! 三人で行動するのは久しぶりであるな!」

「ふふ。そうね」


 楓の言葉に、麻理亜はクスクスと笑った。


「――――あ、そうそう。皇帝陛下にもう一つ、伝えたいことがあったんだった」

「……何だ」

「私達のせいでローグデリカ帝国と戦争する羽目になっちゃったでしょ? だから、戦争を止める秘策があることを伝えておこうって思って」

「ほう。大きく出たな。どのような策なのだ。言ってみろ」

「それは見てからのお楽しみってことで、どうかしら?」


 麻理亜の言葉に、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは何とも言えない表情を浮かべた。


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