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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
175/200

【175】本当の再会


 一


 場所は、ギルド連合がある城塞都市チードリョット。

 チードリョットは交易の中心市場として、普段から賑わいを見せていた。


 しかしながら、現在、城塞都市チードリョットは平時とは異なる意味で騒がしくなっていた。


 城塞都市チードリョットは、大量発生した魔物による襲撃を受けていた。


「じいさん!! もう戦わねえって言ってたじゃねえか!!」

「このまま放っておけば全員死ぬ!! ならば老いぼれが少しでも道連れした方が良いだろう!! それに私はまだ戦える!!」

「この頑固ジジイ……っ!」


 あっという間に支度を済ませ、冒険者ギルドから飛び出した老人――アンドレに対し、冒険者ギルドの受付をしている男――ウォーレンスは吐き捨てるようにそう言った。


 二人は魔大陸の戦争に傭兵として参加し、アンドレに至っては生死を彷徨うほどの大怪我を負っていたが、その後、奇跡的な回復を見せ、再び剣を取って戦える状態にまで復活していた。


「おい! 状況はどうなっている!?」

「……! アンドレさんでしたか……。――――北門はギルドマスターが行きましたので問題ありません。西門も傭兵ギルドが守っている筈です。しかしながら、やはり冒険者ギルドだけで東門と南門を守るのはちょっと……」

「ぬう……。東門と南門、どっちの守りが手薄なのだ」

「そう聞かれたら、やはり南門ですね……」

「……分かった。ウォーレンス。行くぞ」

「ち……っ」


 ウォーレンスは舌打ちしながら、走るアンドレの背中を追いかけた。


 二


 城塞都市チードリョット、南門にて。


 多くの物資が出入りする筈だった門は固く閉じられ、その門の脇に設置されている小さな出入り口から侵入する魔物を相手に、冒険者達は声を上げながら交戦していた。


「くそ……っ。数が多過ぎる……っ」


 城塞都市チードリョットを拠点とするギルド連合は、現在の統一国家ユーエスである旧ルエーミュ王国から独立した過去を持ち、小さな自治組織ながらも大国の圧力を跳ね除けるほどの経済力、そして武力を有していた。

 チードリョットを取り囲む城壁は普通のはしごでは上に届かないほど高く、その圧倒的な防御力は今回の魔物の大発生でも大いに役立っていた。


「援軍だ!! ユーエスの魔術師部隊が援軍に来たぞ!!」


 瞬間、門に押し寄せる魔物達に炎の球が降り注いだ。

 魔物達と交戦していた冒険者達は空を見上げると、そこには白のローブを纏った魔術師達がふわふわと浮かんでいた。


 魔術師達は再び一斉に詠唱を完了させると、同様に数え切れないほどの炎の球が生成され、魔物達を焼き尽くしていった。


「あ、アイツは誰だ……?」

「あの剣士も、ユーエスからの援軍なのか……?」


 統一国家ユーエスの魔術師達が空から一方的に魔物達を攻撃する中、チードリョットの城壁の外で戦う一人の剣士が居た。

 その剣士は踊るように剣を振るうと、魔物達の首や胴体は次々と切り離されていった。


「ジョルジュ・グレース、じゃなさそうだな……。一体、誰なんだ……?」


 統一国家ユーエスを代表する剣士と言えば、真っ先にジョルジュ・グレースの名前が挙がったが、その剣士は仮面を身に付けており、加えて、ジョルジュ・グレースのものとは思えない不気味な雰囲気を漂わせていた。


「アンドレさん!! 前方より二体!! 気を付けて下さい!!」

「むう……」


(――――アンドレ……? あの人が……?)


 剣士は周りに居た魔物達を殲滅すると、城門付近で剣を振るう一人の老人に視線を向けた。


(守らなきゃ……)


 剣士は瞬時に加速すると、老人と魔物の間に割り込む形で飛び出した。


 そして、目にも止まらぬ速さで剣を振るうと、剣士の目の前に居た魔物はあっという間に十字に斬り裂かれてバラバラになった。


「……大丈夫だったかしら?」


 剣士は思わず、老人にそう声を掛けた。


 そして、それが間違いであったことに直ぐに気が付いた。


「あ、アポリーヌ……?」

「……っ」


 謎の剣士――アポリーヌは、年老いた弟に声を掛けたことを後悔した。


「……っ! 私のことが分かるのか!? アポリーヌ!!」


 瞬間、アポリーヌは逃げるように走り出した。


「く……っ!――――ウォーレンス!! ここは任せたぞ!!」

「あん……? ちょ、おい!!」


 アンドレは、アポリーヌを追いかけて走り出した。


(まずい……。この脚ではとても追いつけぬ……)


 しかしながら、アポリーヌの足は非常に速く、既に二人の間の距離はかなり開いていた。


「アポリーヌ!!」


 アポリーヌが城壁の上へと飛び移ると、自身を追いかけるアンドレのことを一瞥した。

 そしてアポリーヌは考え込むように俯くと、心変わりしたのか、アンドレの元へと降り立った。


「――――その人はもう、先の戦争で死んだわ」


 アポリーヌは、感情の読み取れない声でそう言い放った。


「アポリーヌ……。お前は……」

「……ごめんなさい。私は罪を重ね過ぎた。もう、貴方の元には居られない」

「また、私の元を去るのか」

「私はこれから、贖罪の為に剣を振るう。――――せめて、この街は私が守って見せる」


 アポリーヌは淡々とした様子でそう言うと、再び走り出した。


「待て!! アポリーヌ!!」


 今度は、アポリーヌが振り返ることはなかった。


 三


 城塞都市チードリョット、東門にて。


 ギルド連合の救援要請を受け、転移魔法によって首都ルエーミュ・サイから遥々やって来た魔術師――アポロは、空から押し寄せる魔物達を見下ろしていた。


「失せろ。――――<垂氷の槍/アイシクルランス>」


 瞬間、数え切れないほどの氷の槍が展開されると、魔物達に向かって雨のように降り注いだ。


「は……っ! 楽な仕事だ」


 アポロは吐き捨てるようにそう言うと、眼下に居た大量の魔物は全て串刺しとなり、息絶えていた。


「あれだけの数を一瞬で……」

「おい。あいつアポロじゃないか?」

「……! マジかよ……。居なくなったと思ったら、ユーエスに移ってたのか……」


(ふん。ここに来るのも随分と久しぶりな気がするな)


 見慣れたチードリョットの街並みを前に、アポロは、かつて冒険者をしていた頃を思い出した。


「――――第二部隊は南の城門に向かえ。私と第一部隊はここを死守するぞ」

「了解」


 アポロは部下の魔術師達に素早く指示を飛ばすと、残りの魔物を殲滅する為に移動した。


 そしてアポロは、何かに気が付いた様子で、静かに目を細めた。


(魔物の中に人間、か……。――――まさか、国際的に厳しく規制されている非人道兵器を、再びこの目で見る日が来るとはな)


 アポロは自身が仕留めた魔物の中に、人間らしき遺体が入っているのを見逃さなかった。


(人を魔物に変えるという“魔晶石”……。これだけの数を揃えるとは……。よほど闇が深いと見える)


 アポロは、この襲撃が人為的なものであることに気が付いていた。


 四


 突然の魔物の襲来に見舞われた城塞都市チードリョットだったが、日頃からハードな依頼をこなす傭兵ギルドと冒険者ギルドの活躍や、救援要請にすぐさま駆けつけた統一国家ユーエスの魔術師部隊の攻撃支援も相まって、奇跡的に犠牲者を出すことなく都市を防衛することに成功していた。


「――――見つけたぞ。アポリーヌ」

「……っ!」


 アポリーヌは誰にも見つからないよう、統一国家ユーエスの部隊に紛れ込むように隠れていた。

 しかしながら、彼女の努力が実を結ぶことはなく、すぐにアンドレに見つかっていた。


 そして、アポリーヌは直ぐにこの場から離れようとしたが、近くに居たアポロに肩を掴まれていた。


「いつくたばるかも分からん老人だ。話ぐらい聞いてやれ」

「仮面が無くとも、生意気なところは変わらんな」

「ふん。気付いていたか」


 肩を掴まれたアポリーヌは、観念した様子でうつむいていた。


「――――アポリーヌよ。どうしてお前がここに居て、お前に何があったのかは知らない。そして私は、それを知りたい訳ではないのだ」

「……どういうこと、かしら」

「見ての通り、私に残された時間は多くない。しかしながら、一つだけ心残りがある」


 アンドレは淡々とした様子で続けた。


「私には孫娘が居た。名はグレース。戦争に巻き込まれ、息子夫婦と共に命を落としたとばかり思っていたが……」


 アポリーヌは静かに目を細めると、ゆっくりと口を開いた。


「――――ジョルジュ・グレース、ね」

「やはりお前も気付いていたか……。あの者は類い稀な剣の才能を持ち、そして我々と同じ“特別な血”を引く者だ。見たところ、まだその力の存在を知らないようだが……」

「呪われた血よ。この力さえなければ、貴方と私は戦いの運命に巻き込まれることはなかった……。こんなものさえなければ……、私達は普通の人生を送れた筈なのよ……っ」


 アポリーヌは嗚咽混じりに、吐き捨てるようにそう言った。


「過去は変えられん。だからこそ、お前がグレースを正しい未来へと導くべきなのだ。――――それがお前に出来る、最大の贖罪と言えよう」

「貴方は、どうするの……?」

「私は今まで通り、ここで新人の指導に当たるつもりだ。――――残り短い人生、死ぬまでな」

「……そう」


 アンドレはゆっくりとアポリーヌの方へと近付くと、静かにアポリーヌの身体を抱き寄せた。


「……アポリーヌ」

「アンドレ……っ。駄目なお姉ちゃんで……っ、ごめんなさい……っ」


 アポリーヌは、泣きながらそう言った。


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