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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
171/200

【171】魔王の戯れ


 一


 場所はラルオペグガ帝国。

 帝都シフルビアにある王城の、広大な庭園にて。


 空は雲に覆われ、雪が僅かに舞い落ちる中、鹿羽とローグデリカは静かに会話を交わしていた。


「――――奴は典型的な物理系の高火力高耐久タイプだ。殴り合いになったら、間違いなくお前が負けるぞ」

「速さで負けてないなら何とかなるだろ」

「……勝手にしろ。私は手を出さないからな」

「護衛なら少しは助けて欲しいんだが……」


 鹿羽は呆れた様子でそう言った。


「――――今日は暖かいな。風も無い」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは身体を伸ばしながら、気持ち良さそうにそう言った。


 そんなラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの傍らには、彼女の背丈に匹敵するほどの巨大な斧が地面に突き刺さっていた。

 斧には煌びやかな装飾が施され、芸術品としての価値も高そうであったが、職人によって精巧に作られたであろう刃の輝きは、それが実戦に耐えうる本物の武器であることを静かに主張していた。


「――――準備は良いか? カバネ」

「……お手柔らかにお願いします」

「おい。お前。審判をしろ」

「……畏まりました」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアに命令されたローグデリカは小さな声でそう答えると、鹿羽とラルオペグガ・ポートシア・フロスティア――両者の間へと移動した。


「――――構え」


 ローグデリカは自身の掛け声と共に、右腕を前に突き出した。


 鹿羽は静かに息を吐くと、ゆっくりと魔力を集中させた。


「問おう。私とお前、どちらが勝つと思う?」

「戦う以上は、勝たせて頂きます」

「……良い。つまらない答えだったなら、たとえお前でも殺していたところだ」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアはそう言うと、楽しそうに笑った。


「始め」

「――――<黒の断罪/ダークスパイク>」


 ローグデリカが突き出した右腕を振り下ろし、開始の合図が出された瞬間、鹿羽は一瞬で詠唱を完了させた。

 瞬間、数え切れないほどの漆黒の杭がラルオペグガ・ポートシア・フロスティアを囲い込むように展開された。


「ほう。見事なものだな」

「続けますか?」

「相手の実力を測れぬほど素人でもあるまい。――――舐めるな」

「……」


 ごく一般的な魔術師からすれば、鹿羽の魔法は他の追随を許さないほどに圧倒的なものであり、たとえ英雄の域に達している者であったとしても、勝ち目なんて無いと断言させるほどのものであった。


 しかしながら、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは英雄の領域を遥かに凌駕していた。

 鹿羽は彼女の詳しい経緯なんて知る由も無かったが、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアはれっきとした魔王だった。


 鹿羽は大きく息を吐くと、展開されていた漆黒の杭は全てラルオペグガ・ポートシア・フロスティアに向かって殺到していた。


「はああああああああああ!!!!」


 瞬間、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは吠えた。

 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアはその手に握り締めた巨大な斧を振り回すと、そのまま地面に強く叩き付けた。


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアが放った一撃によって、美しく整えられていた庭園は大きくひび割れると、遅れて暴風が吹き荒れ、殺到した漆黒の杭は全て吹き飛ばされていった。


(衝撃波で叩き落とす、か……。ローグデリカの分析通り、力押ししてくるタイプか)


「遠慮は要らんぞカバネ。魔王たるその力……。存分に見せてみろ」

「左様ですか。では……」


 鹿羽は手加減しても仕方がないことを悟ると、一気に魔力を集中させた。


「――――<雷炎大旋風/サイクロン>」


 瞬間、炎と雷を纏った竜巻が鹿羽を中心に噴出すると、周囲の地形を巻き込みながらラルオペグガ・ポートシア・フロスティアへと迫った。


「これが魔王たる魔術師の力か……。流石に痛みを伴うようだ」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは真正面から竜巻を受け止めると、ニヤリと笑った。


「――――だが、この程度か。少し失望したぞ」

「……」

「お前の攻撃からは殺意を感じない。生半可な気持ちで私と戦おうとは……。――――死にたいのか?」


 次の瞬間には、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは鹿羽の目の前に移動していた。

 そしてラルオペグガ・ポートシア・フロスティアがその手に握り締めた巨大な斧は、今まさに振り下ろされようとしていた。


「――――<軛すなわち剣/ヨーク>!」


 鹿羽は叫ぶように詠唱を完了させると、光り輝く剣が一瞬で形成されていった。


 瞬間、鹿羽の剣とラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの斧が交錯し、火花が激しく飛び散った。


「ほう……」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの斧は、鹿羽の光の剣によって受け止められていた。

 そして、鹿羽は剣を傾けることによって斧を後ろに受け流すと、カウンターとばかりに鋭く斬り返した。


 しかしながら、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは大きく身体を反ることによって鹿羽の斬撃を回避すると、そのまま鹿羽の胴部に強烈な蹴りを入れた。


「ぐ……っ」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの柔軟な肉体から繰り出されたしなやかな一撃は、鹿羽の身体を大きく吹き飛ばした。


(流石に接近戦で圧倒するのは無理か……)


「――――驚いたな。魔術のみならず、剣の使い手でもあったか」

「――――<大いなる冬/フィンブル>!」

「ふん。生温い」


 鹿羽は広範囲を氷結させる魔法を放ったが、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの動きが止まることはなかった。

 再び、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの巨大な斧が、鹿羽の剣の上から叩き付けられた。


「……っ」

「どうした? 動きが鈍いぞ」

「さ、流石は皇帝陛下……。お強いですね……」

「……お前。また私を皇帝陛下と呼んだな?」

「あ」

「学習しないクズは嫌いだ。痛みで以って教育するとしよう」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアはそう言うと、鹿羽に何度も何度も斧を叩き付けた。

 鹿羽はその手に握り締めた光の剣によって、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの猛攻を何とか受け止めていたが、その凄まじい衝撃によって自身の骨が軋むのを感じていた。


(出来る限り喋らないように心掛けていたのに……。――――ていうか、皇帝を下の名前で呼び捨てとか普通に無理なんだが……)


 鹿羽は心の中でそう吐き捨てると、隙を見つけて何とか距離を取ることに成功していた。


「やはり流石は魔王と言ったところか。多少乱暴したところで死ぬことはないらしい。――――この調子なら、“うっかり”壊してしまうこともなかろう」

「……お戯れを」

「はっ! その戯れですら命を落とす軟弱者が、存外多いということだ」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアが再び鹿羽に肉薄しようとした瞬間、鹿羽はニヤリと笑った。


「――――<冥神/ハ・デス>」


 そして次の瞬間には、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは、突如として出現した禍々しく光る鎖によってその動きを封じられていた。


「……見たことのない魔法だな。生命力が奪われていくのを感じるぞ」

「普通であれば、触れただけで命を落とす魔法なのですが……。強靭な肉体と精神をお持ちなのですね」

「……魔術師は術式を生成している間、何も出来ないと聞く。お前は私と戦いながら、それをやってのけた、と」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは感心した様子でそう言うと、鎖を引き千切ろうと身体に力を込めた。

 しかしながら、“冥神/ハ・デス”の術式を書き換える形で生成された禍々しい鎖はビクともしなかった。


「――――最強の闇魔法で作った鎖です。どんなに強い力で引っ張ったとしても、この鎖を引き千切ることは出来ません」


 鹿羽は淡々とした様子でそう言った。


「ふははは! 私の負けだな!――――これは組み伏せるのが楽しみだ」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは高笑いすると、やれやれと言わんばかりにそう言った。


 鹿羽は、冷血の魔王ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアとの戦いに勝利していた。


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