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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
七章
170/200

【170】絵画の少年


 一


 場所は統一国家ユーエス。

 鹿羽達のギルド拠点の、訓練場にて。


 実戦形式で鍛錬を行っていた楓とリフルデリカの二人は、椅子に座って休憩をしていた。


「――――ふう。こうして実力者と鍛練出来るというのは、やはりありがたいことだね。少しずつ自分が成長しているのを実感出来るよ」

「リフルデリカ殿の剣技は実に見事である。どうやって身に付けたのであるか?」

「見よう見まねさ。観察して、分析して、実践して、の繰り返しだよ」

「そう聞くと、何だかゲームの練習みたいであるな」

「あはは。“げーむ”も剣術も、本質的には似たようなものなのかもしれないね」


 リフルデリカはそう言うと、手元にあった水筒を傾けた。


「――――やっぱりカバネ氏のことが気になるかい?」

「……やはり分かるであるか? 表情には出さぬよう、心掛けてはいるのであるが……」

「僕はこう見えても、色んな人から相談される“たいぷ”の人間だからね。表情を見れば、何を考えているかなんてお見通しなのさ」

「リフルデリカ殿は流石であるな」

「……冗談だよ。鎌を掛けただけさ」


 リフルデリカはそう言って笑ったが、対する楓は何とも言えない表情を浮かべていた。


「まあ、彼のそばには“凶暴な方の君”が居る訳だし、きっと大丈夫だと思うよ。カバネ氏とローグデリカを同時に相手出来る人間なんてそうは居ないし、いざとなれば僕やシャーロットクララ氏が出動する手筈になっている。危険は無い筈さ」

「……リフルデリカ殿が我の近くに居るのも、我を守る為か?」

「そうだね。ついこの前、カバネ氏が酷い目に遭ったというのもあるからね」


 リフルデリカは、いざという時の為に楓と行動を共にしていた。

 本心を言えば、リフルデリカは鹿羽と行動を共にしたかったが、能力の偏りから考えてもローグデリカが鹿羽の護衛をした方が良いというのはリフルデリカにとっても納得がいく事実であった。


(マリア氏が、カバネ氏とカエデ氏を組ませなかったのは少し意外だったかな。確かに仲が良い人同士で行動させてしまうと、いざという時の判断が遅れがちというのは真実だけどさ。案外、ただの嫉妬だったりするのかな?――――さて、マリア氏は何を警戒しているのやら……)


 麻理亜達がミユキを撃破して以降、ギルド拠点の警戒は最高レベルにまで引き上げられていた。

 B・ブレイカー・ブラックバレットをはじめとする多くのNPCは何時でも動けるようにギルド拠点にて待機しており、複雑な内部構造も相まって、ギルド拠点はまさに難攻不落の要塞となっていた。


 リフルデリカは、どうして麻理亜が厳重な警戒態勢を敷いているのか知らなかったものの、これから“何か”が起こるであろうことは何となく察していた。


「……何か、鹿羽殿ばっかり外に出ている気がするぞ」

「あはは。全くだよね」


 リフルデリカはケラケラと笑った。


 二


 場所はラルオペグガ帝国。

 帝都シフルビアにある、王城にて。


 鹿羽率いる統一国家ユーエスの親善使節団は、現ラルオペグガ皇帝であるラルオペグガ・ポートシア・フロスティアによって直接案内されていた。


「カバネ。お前は独身か?」

「は、はい。そうですけど……」

「奇遇だな。私もだ」

「……」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの奇妙な質問に、鹿羽は何とも言えない表情を浮かべた。


「それでは、今後、結婚する予定はあるのか?」

「ご、ございませんが……」

「奇遇だな。私もだ」

「……」


 鹿羽は再び、何とも言えない表情を浮かべた。


(何なんだよ……)


 鹿羽は、背中を伝う寒気のようなものが、寒冷な地域特有のものであると信じたかった。


「――――カバネ。私はお前のことが気に入った。結婚を前提に交際を始めようではないか」

「は?」

「ほう? 何か不満か?」

「い、いえ……。で、ですが……」


 突然、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアが放った衝撃的な提案に対し、鹿羽はどう返答すべきか分かりかねた様子でそう言った。

 そして鹿羽は助けを求めるように自身の護衛達に視線を向けたが、ブレートラート・リュードミラは気まずそうに視線を逸らし、ローグデリカはそもそも興味無さそうに目を瞑っていた。


「ふん。答えは後で聞こう。考える時間ぐらいはくれてやる」

「……あ、ありがとうございます」


 鹿羽は、どうして自分がお礼を言っているのか、よく分からなかった。


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの先導のもと、鹿羽達は王城の中を歩いていると、一枚の大きな絵が飾られている部屋に案内されていた。


「――――どうだこの絵は。悪くないだろう?」


 その絵には、一人の少年が椅子に座りながら、穏やかな表情を浮かべる様子が描かれていた。


 鹿羽は、その少年に見覚えがあった。


(俺に似てる……? 髪の色や目の色は違うみたいだが……)


 鹿羽からすれば、絵画の中で座り込む少年は、毎日鏡で見ている自分の姿にそっくりであった。


「――――帝国には、素晴らしい画家がいらっしゃるのですね……」

「お前は褒めるのが上手だな。これを描いたのは私だ」

「え、絵心もお持ちなのですね……」

「私は皇帝である以前に女だからな。理想の男と結ばれる為に、こうして好みの男を描き出してみた訳だが……。――――今こうして、絵と瓜二つのお前が居る。お前を生んだ両親には感謝せねばなるまい」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは、鹿羽を見据えてそう言った。


(――――要するに、俺みたいなのがタイプだってことなのか……? いやでも、俺を引き込んで、外交上のカードとして利用するっていうことも十分にありえるよな……。麻理亜はこれを分かってて俺を派遣したのか……? 相手は皇帝で魔王で、初対面の相手の顔面を鷲掴みするような相手だぞ……)


 鹿羽は、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの本心が何処にあるのか、イマイチ分かりかねていた。

 そして、ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは鹿羽に顔を近づけると、ニヤリと笑った。


「――――面倒なのは嫌いだ。カバネ。私と戦え。負けた方が勝った方の言うことを聞くのが一番良かろう」

「急にそんなことを仰いましても困ります」

「随分と弱気だな。それが魔王になった男の言葉か?」


 挑発するようなラルオペグガ・ポートシア・フロスティアの言葉に、鹿羽は一瞬だけムッとしたような表情を浮かべた。


「……私が負けた場合はどうなるのでしょうか」

「安心しろ。悪いようにはしない。我が帝国に骨をうずめてもらうだけだ」


(安心出来る要素がねえ……)


 鹿羽は、心の中で深い溜め息をついた。


「――――分かりました。しかしながら、貴国が提示する条件を承諾することまでは確約出来ません。それでも宜しいでしょうか?」

「はっ! 全く、役人のような男だな。――――構わん。お前のその力、見せてみろ」


 ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは、笑いながらそう言った。


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