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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
六章
165/200

【165】消えないもの


 一


 場所は魔大陸。

 レ・ウェールズ魔王国南部にある迷宮にて。


「うげぇ……。もう無理……」

「はあ……。はあ……。死ぬまで戦うんだよ!! ほら早く!!」

「励ましの言葉が辛辣過ぎる!!」


 ミユキの分身達を相手に、エルメイとブレートラート・リュードミラはたった二人で戦い続けていた。


「――――しぶといね」

「ち……っ。――――<爆炎旋風/プロミネンス>!!」


 エルメイは詠唱を完了させると、目の前に居たミユキの分身達を焼き払った。


「く……っ」

「ちょちょ、大丈夫……?」

「はあ……。はあ……。他人の心配をする暇があるなら……、うぐ……っ」

「やっぱり限界じゃん!! もう駄目だって!!」


 苦しそうに胸を押さえ、膝を突くエルメイに、ブレートラート・リュードミラは叫ぶようにそう言った。


(限界なんてとっくにきてる……っ。それでも……っ)


 ミユキとの戦いで、エルメイの魔力と精神力はとうに擦り切れていた。

 しかしながら、一人でも多くの敵を倒し、一秒でも長く時間を稼がなければならないという強い意志が、エルメイの意識を何とか繋ぎ止めていた。


 たとえ、勝利が絶望的だったとしても、エルメイには戦い続ける覚悟があった。


 その時だった。


「――――<三重詠唱/トリプマジック>+<白の断罪/ホーリーランス>」


 エルメイのものでも、ミユキのものでも、勿論ブレートラート・リュードミラのものでもない詠唱が迷宮に響き渡った瞬間、膨大な数の光の槍がミユキの分身達に向かって降り注いだ。


(今のは第六階位魔法……? 誰だ……?)


 エルメイ達を囲んでいたミユキの分身達は、その光の槍によって全て薙ぎ払われた。

 そして、小さな足音がゆっくりと出口の方から聞こえてきた。


「――――ああ、そっか。裏切られたから、生きているのか」

「はいはーい。麻理亜ちゃんは不滅だよー? 良かったね♡」


(――――マリア様、か……)


 ミユキの分身達を薙ぎ払った者の正体は、麻理亜だった。


「エルメイちゃんと……、リュードミラちゃんだっけ? 元気ー?」

「うぇ!? え、えっと、どちら様ですか……?」

「あはは! 通りすがりの女子高校生だよーっと」


 麻理亜は楽しそうにそう言うと、麻理亜の手にはいつの間にか銀色に輝く長剣が握られていた。


 そして次の瞬間には、ミユキの分身の一人の首を綺麗に斬り落としていた。


「ち……っ」

「逃がさないよー?――――<獄炎/ヘルフレイム>」


 麻理亜は詠唱を完了させると、その気楽な口調からは全く想像がつかないほどに凄まじい業火が迷宮に吹き荒れた。


「んー。魔法耐性は高め? どうなんだろー」

「はあああああああ!!!!」

「あら」


 地面が融けるほどの高熱に晒されたミユキ達だったが、数人は重度の火傷を負いながらも倒れることなく、麻理亜との距離を詰めていた。


「――――思ったより弱いのねー」


 しかしながら、一回、二回と振るわれた長剣によって、果敢に飛び出したミユキの分身達は全員葬り去られていた。


「あの人、つ、強くね……?」


 ブレートラート・リュードミラは、思わずそう呟いた。

 エルメイ達が苦戦していたミユキに対し、麻理亜は圧倒的な実力を見せつけていた。


(――――第八階位魔法に加えて、あれほどの剣さばき……。ただ者ではないのは分かっていたけれど、ここまでとはね……)


「う……っ。――――ね、ねえ……。私のことを恨んでるの……?」

「んー? 何でそう思うのー?」

「……だって容赦ないじゃん。躊躇いなく人を殺せるって、そう言うことなんじゃないの?」


 ミユキは麻理亜に対し、咎めるような口調でそう言った。


 そして。


「――――あは。邪魔なものをどかすのに、大した理由なんて無いわ」


 そして麻理亜はケラケラと笑いながらそう言うと、ミユキの首に剣を突き立てた。


「か、は……っ」

「私ねー。あんまり人のことを嫌いになったりしないの。強いて言えば、どうでも良いんだよね」

「さ、最低、だね……っ。想像以上だった、よ……っ」

「勘違いしないで欲しいかなー。別に私は、片っ端から他人を蹴落とすような真似はしないよ? キチンと相手は選ぶもん。――――それに、貴女が先に仕掛けてきたんだから、問題は無いよね?」


 麻理亜はミユキの首から剣を引き抜くと、全く別の方向へ剣を投擲した。


 そして、その剣はまた別のミユキの頭部を貫き、そのまま絶命させた。


「――――」

「はい。おしまい」


 気が付けば、迷宮に居たミユキ達は麻理亜によって全滅させられていた。


「――――それじゃ、後は各自自由行動ってことでー。じゃーねー」


 麻理亜は気楽な様子でそう言うと、あっという間に迷宮の奥へと消えていった。


「た、助かったみたいダケド……。ど、どうする……?」

「どうするも何も、行くんだよ。ほら、肩貸して」

「うす……」


 ぐったりしながらも強い口調を続けるエルメイに、ブレートラート・リュードミラは逆らうことなく肩を貸した。


「――――身長合わないから“おんぶ”でいい?」

「……うるさいな」


 エルメイは苛立った様子でそう言うと、大人しくブレートラート・リュードミラの背中に飛び乗った。


 二


 場所は魔大陸。

 レ・ウェールズ魔王国南部にある迷宮の、深部にて。


(――――戻って、来た、のか……)


 アポロは若干痛む頭を押さえながら起き上がると、自分が元の世界に戻ってきたことを理解した。

 そしてアポロは、自身に奇妙な夢を見せた巨大な機械を見上げ、上に鹿羽が居ることを確認した。


(まだ意識は戻らない、か……。またあの世界に引き込まれても面倒だ。サッサと移動させるとしよう)


 アポロは軽い足取りで機械の上へと登ると、鹿羽が入っているガラス張りのシェルターをこじ開けた。

 そしてアポロは鹿羽の身体を引っ張り上げると、そのまま抱き締めた状態で機械の下へと飛び降りた。


(――――目立った外傷は無い。息も脈もある。このまま安全な場所へ運び、援軍を連れてこないとな……)


 これからやるべきことを確認し、転移魔法の詠唱を開始しようとした瞬間。


「あらー、助けてくれたのね? ありがとー」


 いつの間にか姿を見せていた少女――麻理亜は、アポロにそう声を掛けていた。


(彼女が、もう一人の……)


「それじゃ、はい」


 麻理亜は軽い足取りでアポロに近付くと、両手を差し出した。

 その表情はにこやかで、はたから見れば、感じの良い少女にしか見えなかった。


(――――彼女がカバネの親友ということなら、大人しく引き渡すべきか……?)


 アポロは一瞬躊躇ったような様子を見せたが、親友が相手なら問題は無いと判断すると、そのまま鹿羽の身体を麻理亜へと引き渡した。


「あら。案外素直なのねー。疑ったりしないの?」

「……どうだろうな」

「それじゃ、遠慮なく。――――<記憶操作/メモリーメイク>」


 麻理亜は躊躇いなく詠唱を完了させると、鹿羽に怪しげな魔法を掛けた。


「が――――っ」

「……っ!? 何をしているんだっ!?」

「だって鹿羽君とっても辛い思いをしたみたいだしー、忘れさせてあげなきゃ」

「お、お前……っ! こいつがどんな思いをしてお前達に向き合っていたのか……っ!!」


 アポロは激昂した様子で飛び出そうとしたが、アポロの脚は思うように動かなかった。


 アポロの目の前にはもう感じの良い少女は居らず、見る者全てに恐怖を与える“何か”がそこに立っていた。


「――――壊れちゃったものは、元には戻らないわ」

「……っ」

「もう鹿羽君は、かつての私達みたいには暮らせない。仮に向き合えたとしても、たとえたちの悪い悪夢だったとしても、見えない傷が鹿羽君を蝕み続けるでしょう。鹿羽君がどうこうという話ではないわ。鹿羽君の中に少しでも私のことを嫌いになるかもしれないという要素があることが、私には許せない。分かる?」

「貴様……っ。それでも自分が親友だとでも言うつもりか……っ?」

「友達以上恋人未満ってとこかしらー? ふふ」


 麻理亜はそう言うと、ケラケラと笑った。


 アポロは、麻理亜が放つ威圧感に恐怖を感じながらも、氷の剣を生成した。


「――――戦うの? 本気?」

「く……っ」


 しかしながら、アポロは動くことが出来なかった。


 アポロには、目の前に立つ化け物を打倒するイメージが全く湧かなかった。


「……ま、麻理亜?」

「おはよ。鹿羽君」

「あ、ああ……」


 そうしている間に、鹿羽は麻理亜の腕の中で目覚めていた。


「急に起き上がって大丈夫?」

「ああ。悪いな」


 鹿羽は少しふらつきながらも立ち上がると、静かに見守っていたアポロの存在に気が付いた。


「――――麻理亜。ちょっと良いか? 彼女と話してくる」

「えー」

「悪いな」


 鹿羽は申し訳なさそうにそう言うと、アポロの元へと駆け寄った。


「……何だ」

「えっと……、ちょっと記憶が混乱してるんだが……。助けてくれたんだろ?」

「……そうだな」

「ありがとな。おかげで助かった」

「覚えていないのに……。律儀な奴だな、お前は」


 アポロは不満げにそう言った。


 対する鹿羽はクスリと笑うと、小さな声で何かを喋った。


「……は?」

「じゃあ、またな」


 鹿羽はそう言うと、再び麻理亜の元へと歩いていった。


「――――覚えてるよ。全部」


 アポロは、鹿羽の言葉を理解するのに時間が掛かった。


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