【157】敵の正体②
一
「――――勝てると思うの? 絶対に倒せないのに?」
「そうだね。確かに今は勝てないさ。――――でも、負けないよ?」
リフルデリカはそう言うと、静かに笑った。
「――――<虚無の術式/ナシングネス>」
そしてリフルデリカは、殆ど全ての魔法を封じる術式を、この迷宮のあらゆる場所に展開させた。
「――――ブラックバレット氏。五分だ。五分くらいなら、この場に居る彼女の蘇生を阻害することが出来る。いいかい?」
「……了解した」
「お姉ちゃん。何をしたの?」
「簡単さ。魔法の発動を阻害する結界を張っただけに過ぎないよ。その効果はあまりにも微弱なものだから、殆どの魔法の使用には影響ないけどね。――――最も、人体を生成するような極めて緻密な操作を求められる術式には、効果的だろうさ」
「……流石お姉ちゃんだね。全然解除出来ない」
「はは。そりゃそうさ。魔術師を封殺する為の魔法を応用したものだから、たとえお兄ちゃんでも解除は不可能だよ。それに本来は自分の身を守る為に使うものだしね」
リフルデリカは、自身の魔力が恐るべき速度で消費されていくのを感じながら、気楽な様子でそう言った。
「――――潔く死ね」
B・ブレイカー・ブラックバレットは一瞬の内に飛び出すと、目の前に居た五人の少女を一振りで消し飛ばした。
その間に七人もの少女がB・ブレイカー・ブラックバレットを取り囲むように集まっていたが、次の瞬間には跡形も無く吹き飛ばされていた。
「さ。僕らも“お掃除”に参加するとしようか」
「無論すなわち肯定」
「あー、これは負けちゃうかな? 負けそうだなー」
少女の一人は気楽な様子でそう言うと、次の瞬間にはB・ブレイカー・ブラックバレットの攻撃によって消し飛ばされていた。
(彼女の表情を見る限り、ここに居る彼女達を全員葬っても大した痛手にはならない、か……。おそらくカバネ氏はここに居ないんだろうね……)
リフルデリカもまた剣を振るい、少女達を斬り伏せながら、何となくそう考えていた。
二
場所は統一国家ユーエス。
鹿羽達のギルド拠点にて。
リフルデリカ達は、迷宮に居た少女達を一人も残すことなく葬り去っていた。
しかしながら、少女達は最後まで焦る様子を見せることはなく、鹿羽が見つかることもなかった。
リフルデリカ達は少女達との戦いに勝利していたが、その勝利によってもたらされたものは余りにも小さいものだった。
「――――報告は以上です」
「はあ……。了解です……。流石にこれで終わるとは思っていませんでしたが……。――――リフルデリカが使ったという、敵の増殖を防ぐ魔法とやらは私達には使えないんですか……?」
「回答すなわち不可。どうやらリフルデリカ様が使用した魔法は“血脈魔法”だったようですね。どうやら本人しか使用出来ないみたいです」
「何ですか何なんですか……。それじゃあリフルデリカ抜きで戦えないじゃないですか……」
T・ティーチャー・テレントリスタンから報告を受けていたG・ゲーマー・グローリーグラディスは、吐き捨てるようにそう言った。
(となると……。敵の拠点は複数あると考えるのが妥当なところですか……。その中にきっとカバネ様は囚われている筈……)
「――――複数あると考えられる奴の拠点を同時に襲撃し……、かつカバネ様が居るであろう場所には、少なくとも転移魔法を防ぐ私と、奴の復活を妨げるリフルデリカが必要……。全くままなりませんね……」
「現状すなわち難儀。いたずらに戦ったところで敵の戦力を削ぐことが出来ないのが痛いところですね」
「はあ……。分かりました……。――――今後の方針は書類の通りです……。私はルエーミュ・サイに向かいますので……、何かあれば“暗号伝令/ヒドゥンメッセージ”でお願いします……」
「命令すなわち了解。――――しかし、護衛ぐらい付けた方が良いのでは?」
「自分の身ぐらい……、自分で守れます……。それよりメイプル様の安全を絶対にしておいて下さい……。良いですね……?」
「……命令すなわち了解」
T・ティーチャー・テレントリスタンは少し納得がいかない様子だったが、特に何も言うことも無く、そのまま書類を片手に部屋を後にした。
部屋に一人残されたG・ゲーマー・グローリーグラディスは再び大きな溜め息をつくと、目を細めながら、何もない天井を見上げた。
(――――C・クリエイター・シャーロットクララ……。貴女は今……、何処で何をしているんでしょうね……?)
G・ゲーマー・グローリーグラディスの脳裏には、一人の女性の姿が浮かんでいた。
三
場所は統一国家ユーエス、首都ルエーミュ・サイ。
国家の公認魔術師――エルメイは、G・ゲーマー・グローリーグラディスより直接指示を受けていた。
「――――作戦の概要は理解出来ました。け、けれど、その目的が理解出来ません。それほどまでに脅威的な相手なのですか?」
「エルメイ……。貴女には話しても良いのかもしれませんね……」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは少し躊躇ったような様子を見せると、再び口を開いた。
「――――現在……、カバネ様はその敵に囚われてしまっている状況です……。そして私達が受けている被害は少なくありません……。敵は教皇国や魔王の比ではない……、非常に脅威的な相手と言えるでしょうね……」
「か、カバネ様ですか!?」
「声が大きいです……。――――危機的な状況を理解出来ましたか……? 敵は私達にあまり関心は無いようですが……、このような蛮行を許す訳にはいきません……。貴女も何を優先すべきなのかをよくよく考えた上で行動して下さい……」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは含みを持たせてそう言った。
すると突然、G・ゲーマー・グローリーグラディスとエルメイが居る部屋の中心で、黒い炎が激しく燃え上がった。
「――――お喋りは宜しいでしょうか?」
女性の声だった。
そしてその声は、G・ゲーマー・グローリーグラディスが聞き慣れたものだった。
「――――C・クリエイター・シャーロットクララ……っ。き、貴様……っ」
「G・ゲーマー・グローリーグラディス。久しぶりね。貴女を殺しに来たわ」
黒い炎から現れた女性――C・クリエイター・シャーロットクララは、ハッキリとした口調でそう言った。
「は、はは……っ。そうですか……っ。遂に来ましたか……っ。探す手間が省けましたよ……っ。――――エルメイ。出来る限り有能な人間を連れて、出来る限り遠くに逃げて下さい……。残念ながら……、ルエーミュ・サイは地図から消えるかもしれませんね……」
「そ、そんな……っ!?」
「――――私達の戦いに、無関係の人を巻き込む必要はないわ。場所を移しましょう」
「は……っ!! 無関係……? 何ですか……? 何なんですか……っ!? 創造主を裏切っておいて……っ!! その正義の心は一体どこから湧き上がってくると言うんですか……っ!!」
G・ゲーマー・グローリーグラディスは表現し切れない感情を爆発させるように、そう吐き捨てた。
対するC・クリエイター・シャーロットクララは無表情のまま、淡々としていた。
「――――G・ゲーマー・グローリーグラディス。貴女は少し賢明過ぎる。ここで脱落してもらわないと困るの」
「良いでしょう……。どちらが魔術師として優れているのか……っ!! ここで白黒ハッキリ付けようじゃないですか……っ!!」




