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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
六章
152/200

【152】悪しき夢


 一


「――――鹿羽君。私の為に死んでくれる?」


 鹿羽は、麻理亜の言葉を理解することが出来なかった。


「と、突然何だよ……。どういう意味だ……?」

「そのまんまだよ。鹿羽君には死んで欲しいの」

「いや、意味が分かんねえよ。説明もなく、いきなりそんなこと言われても……」


 瞬間、銃声が響き渡った。

 そして鮮血が舞い、鹿羽の胸には小さな穴が開いていた。


 鹿羽の背後には、無表情のまま銃口を向けるL・ラバー・ラウラリーネットの姿があった。


「――――は?」

「ごめんね? せめて、楽に殺してあげるから」

「な、何で……っ」


 麻理亜は淡々とした様子でそう言うと、何処からか剣を取り出した。

 L・ラバー・ラウラリーネットも銃口を鹿羽に向けたまま、じりじりと距離を詰めていった。


「……っ。――――<転移/テレポート>!!」


 鹿羽は何もかも理解出来ないまま、咄嗟に姿を消した。


 二


 場所はギルド拠点、廊下。


 鹿羽は、赤い液体がとめどなく流れ出る胸部の銃創を手で押さえながら、壁に寄りかかっていた。


「ぐ……っ。はあ……。はあ……」


 鹿羽は状況が理解出来ないでいた。

 否、理解したくなかった。


(何だよ……っ。何だったんだよ……っ)


 鹿羽は心の中で、吐き捨てるようにそう言った。

 友人として親しみを感じていた麻理亜が自分のことを殺そうとするなんて、理解出来る筈がなかった。


(――――もしかして、何者かに洗脳されていたのか……? いや、でも麻理亜が俺のことを本気で殺そうとすれば、他に良いやり方があった筈……。麻理亜が自分で判断して行動している訳じゃないなら、多少の対策のしようはある、のか……?)


 鹿羽はあまりにも突然の出来事に思考を放棄したくなっていたが、慌てることなく、冷静に状況を分析していた。


(――――それより、楓のことが心配だ……。麻理亜のことを早く知らせないと……)


 そして鹿羽は、次に自分が何をすべきなのかを確実に理解していた。


 そんな鹿羽の前に、一人の女性が姿を見せていた。


「B・ブレイカー、か……?――――麻理亜とL・ラバーの様子がおかしいんだ。何か知っているか?」


 鹿羽は息を切らしながら、一人の女性――B・ブレイカー・ブラックバレットにそう問い掛けた。


 しかしながら、B・ブレイカー・ブラックバレットの表情は暗く、少なくとも好意的なものには見えなかった。


「……貴様はもう、私の主君ではない。ここで朽ち果てろ」

「お前も操られてるってことかよ……っ」

「操られている……? 何か勘違いをしているな。貴様への忠誠など、初めから存在しない。当然の帰結だ」

「……っ。――――<転移/テレポート>!!」


 B・ブレイカー・ブラックバレットが静かに斧を取り出した瞬間には、鹿羽は魔法の詠唱を完了させていた。


 三


(――――最悪、NPCは全員駄目かもしれないな……)


 場所はギルド拠点。

 地下にある牢獄にて、鹿羽は息を潜めていた。


(ち……っ。こんな時に限ってリフルデリカが何処に居るのかが分からねえ……っ。何なんだよ……っ)


 鹿羽はリフルデリカとの連絡を試みていたが、通信が繋がらないどころか、リフルデリカとの魔力の繋がりさえ消失してしまっていた。

 敵対しようとも途絶えることのなかった“繋がり”が無くなってしまったことに、鹿羽は少なくないショックを受けていたが、今回の騒動から考えれば決して不自然なことではなかった。


(――――やられた可能性もある、か……)


 鹿羽自身全く信じたくはなかったが、リフルデリカが死亡したことで魔力が消失したと考えるのが妥当だった。


「ようやく……、見つけました……」

「――――G・ゲーマーか……。NPCは全員、俺のことを探し回っているのか?」

「何ですか何なんですか……? 話しかけないで下さい……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは、苛立った様子でそう言った。


(――――もしG・ゲーマー達が操られているとすれば、状態異常を回復させる魔法でワンチャンあるか……? やってみる価値は十分にあるか……)


 鹿羽は、あらゆるデバフを解除する魔法の存在を思い出すと、それを実行する為に魔力を集中させた。


「――――<呪縛の解放/デバフ・ゼロ>!!」

「……っ!?」


 瞬間、光り輝く魔法陣がG・ゲーマー・グローリーグラディスの身体を包み込んだ。


(やったか……?)


「――――何ですか何なんですか……? 不快です……。私が状態異常とでも言いたいんですか……?」


 しかしながら、鹿羽の魔力が消費されただけで、G・ゲーマー・グローリーグラディスの敵意が消えることはなかった。


(“抵抗/レジスト”すらされないのかよ……っ。じゃあ何で俺のことを狙っているんだよ……っ)


「それでは、死んで下さい……。――――<黒の断罪/ダークスパイク>」

「く……っ。――――<対魔障壁/マジックバリア>!!――――<転移/テレポート>!!」


 鹿羽は降り注ぐ無数の漆黒の杭を魔法によって防ぐと、再び転移魔法によって姿を消した。


 四


 場所はギルド拠点。

 楓の自室の前にて。


「楓!! 楓は居るか!! 居るなら返事をしてくれ!! 大変なことが起きてるんだ!!」


 鹿羽は必死にドアを叩きながら、叫ぶようにそう言った。


 しかしながら、鹿羽の呼びかけに答える者は居なかった。


 そして鹿羽は鋭い殺意が向けられていることを察知すると、急いで後ろへと振り返った。


「……っ。E・イーター……っ」

「貴方を、殺さなくちゃ、いけない」

「楓は何処だ……っ。もし楓に手を出したら、ただじゃおかねえからな……」

「ふわ……。貴方が知らなくても、いいこと」


 鹿羽の後ろに居たのは、E・イーター・エラエノーラだった。


 E・イーター・エラエノーラは自身の身長に匹敵するほどの大きな槍をクルクルと回転させると、そのまま鹿羽に向かって飛び出した。


「……っ。――――<軛すなわち剣/ヨーク>!!」


 E・イーター・エラエノーラが本気で戦おうとしていることを悟った鹿羽は、光の剣を取り出すと、勢い良く振り下ろされた槍の一撃を受け止めた。


(麻理亜も正気じゃなかった訳だから、楓も駄目だと考えるのが妥当だっていうのか……っ? クソが……っ)


 鹿羽は心の中で舌打ちをすると、槍の上から剣を叩き付け、E・イーター・エラエノーラを無理矢理後退させた。


「おや。ここに居たのですか。全く、探しましたよ」

「助太刀に参った。速やかに任務を遂行するでござる」

「ふわ……。助かる」


 鹿羽とE・イーター・エラエノーラが睨み合っている間に、A・アクター・アダムマンとS・サバイバー・シルヴェスターの二人が姿を見せていた。

 両者は共に剣を握り締めており、その鋭い視線は鹿羽ただ一人に注がれていた。


(やっぱりNPCは全員アウトかよ……っ。何なんだよ……っ)


「――――<転移/テレポート>!!」


 鹿羽は、この場に誰一人味方が居ないことを理解すると、再び転移魔法を発動させた。


 五


 ギルド拠点近くの森にて。


 ギルド拠点の内部は危険だと判断した鹿羽は、外に避難していた。


「はあ……。はあ……。はあ……」


 鹿羽は息を切らしながら、魔力が枯渇した時に感じられる倦怠感を味わっていた。


(――――“転移/テレポート”の連続使用が響いてるな……。くそ……っ)


 鹿羽は物理的にも、精神的にも消耗していた。


「――――発見すなわち討伐。やはり外で待ち構えていて正解でしたね」

「T・ティーチャーか……。お前一人か……?」

「いえ。私一人では不安が残りますから。ちゃんと複数人で確実に仕留めて見せますよ」


 今すぐ静かな場所で休みたいと思っていた鹿羽に追い打ちをかけるように、鎧兜を被った大男――T・ティーチャー・テレントリスタンが姿を見せていた。

 その傍らにはライフルを手にしたL・ラバー・ラウラリーネットの姿もあり、いずれも友好的な態度には見えなかった。


(よりによってL・ラバーか……。ダイヤモードの件を考慮すれば、絶対にL・ラバーには勝てない……。大人しく逃げるのが正解か……)


 鹿羽は苛立ちと不安でぐちゃぐちゃになっていたが、その一方で、冷静でもあった。


 味方だと思っていた全ての相手が敵に回っている状況は、もはや鹿羽の理解の範疇をとうに超えており、その非現実感がかえって鹿羽を冷静にしていた。


 鹿羽が再び、転移魔法によって逃走を図ろうとした瞬間。


「――――迅雷!!」


 鹿羽とNPCの間を引き裂くように、剣閃が瞬いた。


「か、楓……?」

「鹿羽殿!! ここは危険である!! 往くぞ!!」

「あ、ああ……」


 楓と思われる少女に手を引っ張られる形で、鹿羽はこの場から離脱した。


 六


「――――追ってこないな……。逃げ切れたのか……?」

「ここならもう安全である。安心すると良いぞ」

「か、楓は何ともないのか?」

「我は正常である。それより鹿羽殿に見てもらいたいものがある。よいな?」

「あ、ああ……」


 鹿羽は状況が良く分からないまま、思わずそう言った。


(――――楓にしては冷静過ぎないか……? NPCが敵対しているこの状況で、俺でも何が何だか分からないってのに……。でも、魔力は正真正銘、楓だしな……)


 鹿羽の目の前に立つ少女は、どうにも不自然な存在に思えた。

 しかしながら、感じられる魔力の質は楓そのものであり、唯一味方のように振舞ってくれている少女のことを疑いたくはなかった。


 しかしながら、もう遅かった。


「か、は……っ」


 一人じゃなくなったことで少なからず油断していた鹿羽の背中に、もう一人の少女が剣を突き立てていた。


「――――愚か者め。こんな単純な手に引っかかるとはな」

「ろ、ローグデリカ……。て、てめ……っ」

「卑怯とは言わせん。貴様が馬鹿なだけだ」

「が……っ」


 背中に突き立てられた剣が乱暴に引き抜かれると、その大きな刺し傷からはとめどなく血液が溢れ出た。


 鹿羽はどうしようもない痛みと虚脱感に襲われ、そのまま倒れ込んでしまった。


「――――惨めであるな。鹿羽殿」

「か、楓……っ。お前も……っ、かよ……っ」

「せめてもの情け。一瞬で終わらせるのである」

「……っ」


 悪夢は、未だ終わらなかった。


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