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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
六章
151/200

【151】幸福だった日々

間違いに気付くか、それとも滅びるか

或いは、他人の言葉に耳を傾けるか


 一


 場所は統一国家ユーエス。

 鹿羽達のギルド拠点の、図書館にて。


 鹿羽が魔術に関する教本を静かに読む中、その傍らでリフルデリカはじっと鹿羽の顔を眺めていた。


「――――何だよ。俺の顔に何か付いているのか?」

「うん? 別にそういう訳ではないさ。ささ。読書の途中なのだろう? 僕のことは気にせず、存分に読書を楽しむと良いさ」


 リフルデリカの言葉に、鹿羽は何とも言えない表情を浮かべたまま読書を再開した。


 しかしながら、リフルデリカは目を逸らすようなことはしなかった。


(……うぜえ!!)


 鹿羽は心の中でそう叫んだ。


「もしかしてアレか? 根に持ってるのか?」

「……? どういう意味だい? 別に僕は君のことを嫌ってなんかいないし、嫌われたいとも思わない。むしろ逆だね。今は君の力になりたいとまで思っているよ」

「俺の顔なんか見ていても何も面白くないだろ……」

「いやいや。カバネ氏の顔は見ていて飽きないさ」

「……馬鹿にしてるのか?」

「とんでもない!」


 鹿羽は呆れた様子で大きな溜め息をついた。


 謹慎期間を終えたリフルデリカは、常に鹿羽の傍に付いて回っていた。

 鹿羽自身、付き纏われるのは良い気がしなかったが、リフルデリカには共に来るようお願いした立場だった為、あまり強く言うことが出来ないでいた。


 そして鹿羽は、リフルデリカと過ごす何気ない時間に慣れ始めていた。


「……まあ、気が済むまで勝手にやっとけ。読書の邪魔はするなよ?」

「――――そういえば、何か食べたいものはあるかい? 実は最近、料理に凝っていてね。是非、カバネ氏にも食して欲しいというか、感想を頂きたいところなんだけれども」

「秒で話題振ってくるんじゃねえよ……。――――お前って、何かかんだ言って料理上手だけど、何ていうか、その、凄くスパイシーだよな」

「香辛料の知識なら自信があるかな。この前の“たんどりーちきん”も中々の出来だっただろう?」

「美味しかったことは否定しないが」

「ふふ。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。まあ、僕が一番の料理上手なのは言うまでもないけどね」


(いや、でも料理に関しては麻理亜が一番上手っていうか……。でも、これは口にして良いことではないな……)


「マリア氏が何だって?」

「こんな時に心読むんじゃねえよ……」


 鹿羽は再び、大きな溜め息をついた。


「そうか。やはり結局、マリア氏が最後の壁として立ちはだかってくるんだね……。いいよ。やってやろうじゃないか」

「麻理亜は忙しいんだから、あんまり迷惑掛けんなよ」

「僕がマリア氏に料理対決で勝利すれば、正真正銘、僕が一番の料理上手ってことだろう? 燃えてきたね」

「迷惑掛ける気満々じゃねえか……」


 次の日、麻理亜とリフルデリカによる料理対決が行われることを聞いた鹿羽は、再び大きな溜め息をついていた。


 二


 場所は統一国家ユーエス。

 鹿羽達のギルド拠点の、調理室の傍にある大部屋にて。


(マジでやるとは思わないだろ……。全く……)


 リフルデリカの思いつきによって開催されることになった料理対決は、多くのNPC達を巻き込む形で始まろうとしていた。


「――――こ、今回の料理対決の進行を務めさせて頂きます……、G・ゲーマー・グローリーグラディスです……。えっと……。あとは何を申し上げれば宜しいのでしょうか……?」

「それじゃー、選手の紹介をお願いしまーす」

「か、畏まりました……。では……」


 緊張した様子でマイクを握り締めるG・ゲーマー・グローリーグラディスは、麻理亜の指示通り、今回の料理対決に名乗りを上げたメンバーの紹介を始めた。


「――――この御方が、他の御方々から絶大な支持を集める、今回の最有力優勝候補……。マリー様、です……」

「いえーい。楓ちゃーん。鹿羽くーん。見てるー?」

「では……、採点者のお一人であるメイプル様よりコメントを頂きたいと思います……。――――メイプル様……。マリー様の料理が素晴らしいのは言うまでもございませんが……、一体どれほどのものなのでしょうか……?」

「ふむ。我の知る限り、麻理亜殿より美味しく料理を作れる者は居なかったであるな。天界、冥界、そして地上界、様々の料理を口にしてきたつもりであるが、やはり麻理亜殿の料理に勝るものはなかったぞ」

「なんと……。やはり今回はマリー様が勝利する、ということでしょうか……?」

「無論、預言者の言葉に偽りが無ければ、な」


 マイクを向けられた楓は、取り澄ました様子でそう言った。


「楓。今日は調子良いな」

「ふ……。我はいつも絶好調であるぞ」

「――――では、次に紹介するのは……、愚かにも御方に挑戦する反逆の使徒……。口を開けば喧しく……、その性格は実に浅ましい……。A・アクター・アダムマンです……」

「おやおや。別にマリー様を打ち負かそうだなんて考えておりませんよ。ただ、わたくしも料理には少しばかり凝っておりまして、この機会に自分がどれほど未熟であるかを試してみたいだけです」

「はい……。実に嫌らしい、聞くに堪えないコメントでしたね……。――――カバネ様は、A・アクター・アダムマンのことをどうお考えでしょうか……?」

「いや、あいつが料理するなんて知らなかったんだが……。あまり練習する時間も無かったろ」

「はは。ご安心下さいミスター・カバネ。貴方様に創造されし、忠実なるしもべとして、必ずやご期待に添える結果を出して見せますよ」


 A・アクター・アダムマンは自信を感じさせる口調でそう言った。


「――――では、最後に紹介するのは、リフルデリカです……。健闘を祈りましょう……」

「いやいやいや。何で僕だけ喋る機会が無いのさ。おかしいだろう」

「出来る限り短く簡潔にお願いします……」

「何なのさ……。――――マリア氏はとても料理が上手って聞いたからね。一体どれだけのものなのか、確かめてやろうって話さ。よろしく頼むよ」

「では……、胡散臭い魔術師であるリフルデリカに関しまして……、E・イーター・エラエノーラ、コメントをどうぞ……」

「ふわ……? リフルデリカちゃんの料理、ピリピリして美味しいから、楽しみ」

「だそうです……。良かったですね……」

「う、うん……。良かったのかな……?」


 リフルデリカは何とも言えない表情でそう言った。


「――――制限時間は一時間……。三人の中で最も多くの票を集めた方が優勝となります……。よろしいでしょうか……?」

「私はいつでも大丈夫だよー?」

「わたくしも、いつでも問題ありません」

「僕も大丈夫さ」

「それでは、始めましょう……。――――よーい……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは緊張した様子のまま、静かに腕を振り上げると、そのまま勢いよく振り下ろした。


「――――始め」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの掛け声を合図に、麻理亜、A・アクター・アダムマン、リフルデリカの三人は調理室へと向かった。


 三


 麻理亜、A・アクター・アダムマン、リフルデリカの三人が調理を始めてから、丁度一時間が経過しようとしていた。


 今回の料理対決の採点者である鹿羽達の前には、数々の料理が並べられ、美味しそうな香りが部屋中に漂っていた。


「――――全員の料理が完成したようです……。では、選手の皆様には、料理の紹介をして頂きたいと思います……」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスは淡々とした様子でそう言うと、麻理亜にマイクを向けた。


「マリー様は今回、何をお作りになったのでしょうか……?」

「見ての通りー、焼き魚と白いご飯に味噌汁ねー。ちょっと地味だったかしらー?」

「いえ……。和の文化を踏襲した素晴らしいものかと……」

「嬉しい♡」


 G・ゲーマー・グローリーグラディスの言葉に、麻理亜は微笑みながらそう言った。


 そしてG・ゲーマー・グローリーグラディスはA・アクター・アダムマンの方へと近付くと、素っ気無い様子でマイクをA・アクター・アダムマンへと向けた。


「――――では、A・アクター・アダムマン……。貴様は何を作ったんですか……?」

「わたくしはピラフですね。一品だけですが、中々の自信作ですよ?」

「そうですか……。お疲れ様です……。もう出番は無いので帰っても大丈夫だと思いますよ……?」

「相変わらず手厳しい方だ」


 A・アクター・アダムマンは肩をすくめて、そう言った。


「――――では、リフルデリカ……。貴女は何を作ったんですか……?」

「“たんたんめん”という料理だね。香辛料の魅力を存分に味わえると思うよ」

「そうですか……。良かったですね……」

「言葉に棘を感じるのは僕だけかな?」


 リフルデリカもそう言うと、静かに肩をすくめた。


「それでは、実際に各選手の料理を頂いていきたいと思います……。――――採点者の皆様……。どうぞお召し上がり下さい……」

「いただきます」


 鹿羽達は手を合わせると、そのまま食事を始めた。


(――――A・アクターのピラフ、普通に美味いな……。いつの間に練習したんだか……)


「どれも美味であるな。リフルデリカ殿の料理も非常に辛いとはいえ、やはり美味である」

「そうなんだよな……。癪だけど、アイツ料理上手なんだよな……」

「やはり麻理亜殿の味噌汁もまことに美味……。むむむ……。これは難しいぞ……」


 楓は眉間にしわを寄せながら、汁物が入った器を一気に傾けた。


 数十分後、用意されたお皿や器は全て空になっていた。


「――――ふふ。鹿羽君。美味しかったー?」

「美味かったよ。麻理亜はやっぱり料理が上手だな」

「それは聞き捨てならないね。僕の“たんたんめん”も中々のものだっただろう?」

「ああ。相変わらず辛かったが、美味しかったぞ」

「もー。調子の良いこと言っちゃってー。――――それで、誰の料理が一番だったのかなー?」


 麻理亜は意地悪な表情を浮かべながら、そう言った。


「――――選べないな。どれも美味しかったよ」

「あら。料理対決なのにー、そんな優柔不断なこと言って良いのー?」

「悪い。正直言って、どれも滅茶苦茶美味かった。勿論、麻理亜のも含めてな」


 鹿羽は少し申し訳無さそうな表情でそう言った。


「……我も同意見である。もはや優劣を付けられぬほど、皆の料理は素晴らしかったぞ」

「――――これは引き分けってところかな。君を負かすことが出来なかったのは少し残念だけれど」

「ふふ。私は初めからリフルデリカちゃんに勝とうだなんて思ってないよー? 料理はみんなで楽しむものだからねー」

「はは。そうかい。相変わらず良い性格をしている」

「どういたしまして♡」


(――――まあ、何事もなく終わって良かったな)


 鹿羽は今回の催しが無事に終わったことに安堵すると、お茶が入ったグラスを静かに傾けた。


「――――ふ。引き分けということはつまり、わたくしの料理も素晴らしかったということですね」

「そういうとこですよ……」

「ふわ……。みんな、美味しかった」


 四


 場所は統一国家ユーエス。

 鹿羽達のギルド拠点にて。


 鹿羽は突然、麻理亜から呼び出されていた。


「――――どうした? 急に改まって話なんて」

「そうね。鹿羽君にはキチンと伝えておこうって思って」


 麻理亜はそう言うと、鹿羽を見据えて、妖しく笑った。


「――――鹿羽君。私の為に死んでくれる?」


 鹿羽は、麻理亜の言葉を理解することが出来なかった。


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