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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
150/200

【150】孤高の恋煩い③


 一


 場所は魔大陸。

 グランクランが支配しているジャングルにて。


「着いたぞ!!」


 アイカの先導の下、鹿羽達は魔大陸を縦断する形で、新月草が沢山生えているというノッポの塔を訪れていた。


(――――面白い地形だな。観光名所にしたら儲かるんじゃないか?)


 鹿羽達の目の前には、赤褐色の地面を剥き出しにした巨大なアリ塚のような山がそびえ立っていた。

 その光景は圧巻の一言であり、旅番組で紹介される世界遺産のような雄大さがそこにはあった。


「…………凄いな。新月草が沢山生えている」

「一人占めは駄目だからな!!」


 アイカは釘を刺すようにそう言った。


(――――しかし、花は咲いていない、か)


 見渡す限り、新月草と思われる植物が至る所に群生していたが、どれも花はおろか、蕾さえも付けていなかった。


「塔の中にも沢山生えているから探すと良いぞ!!」

「それじゃあ中に入ってみるか。見つかると良いんだが……」


 鹿羽は、少し不安そうにそう言った。


 二


 鹿羽とアイカ、そしてフット・マルティアスの三人は、ノッポの塔と呼ばれる山の内部へと入っていた。

 内部は隙間から差し込む日光によって明るく照らされており、日が当たるところには新月草が所狭しと群生していた。


 しかしながら、鹿羽達はまだ新月草の花を見つけられないでいた。


(――――この先に誰か居るみたいだな)


 鹿羽達はしばらくノッポの塔の内部を歩いていると、向こうに誰かが居ることに気が付いていた。


(向こうもコッチに気付いたか)


 そして、その向こうの誰かも鹿羽達の存在に気が付いたらしく、一直線に近付いてきていた。


「新月草の花を探しているのか?」


 その正体は、鎧を身に纏った中年の男性だった。


「ああ。何処に生えているか知ってるか?」

「無論」


 男性は間を空けることなくそう言った。


 そして次の瞬間には、男性は腰に差した剣を引き抜いて、鹿羽達の方へと向けていた。


「――――私を倒すことが出来たら、教えてやろう」


 男性はそう言うと、ニヤリと笑った。


(ゲームみたいな展開だが、いざ目の前で起きると違和感が半端ないな……)


 鹿羽は魔大陸の住民が非常に好戦的であることを思い出すと、静かに溜め息をついた。


「…………俺が戦おう」


 フット・マルティアスは一歩前に出ると、同じく腰に差した長剣を引き抜いた。


「か、カバネ!! アタシ達はどうすればいいのだ!?」

「……流石に三対一は卑怯だ。それに、マルティアスなら勝てるだろ」

「そうか!!」

「…………いつでもいい。かかって来い」

「はっ! 余裕そうだな。――――ならば、お望み通り、私から仕掛けさせてもらおう!!」


 瞬間、男性は飛び出すと、果敢に剣を振った。

 対するフット・マルティアスはその斬撃を剣の上で滑らせる形で受け流すと、カウンターとばかりに斬り返した。

 しかしながら、男性はフット・マルティアスの斬撃を叩き落とす形で弾いた。


「おお!! 中々強いな!!」


 鹿羽とアイカの二人は、感心した様子で二人の戦いを眺めていた。


「…………やるな」

「へ……っ。そうかい」

「…………だが、俺には負けられない理由がある。今回ばかりは譲れない」

「ならば剣で示せ。それくらい出来る筈だろ?」

「…………ああ。そうさせてもらう」


 フット・マルティアスは真剣な様子でそう言うと、一気に加速した。


「く……っ」


 フット・マルティアスの剣筋は非常に素直で、単純なものだった。

 しかしながら、速度、間合い、体重移動、その全てが完璧と言えるものであり、男性は完全に防戦を強いられていた。


「…………終わりだ」


 瞬間、フット・マルティアスの長剣が光り輝くと、超高速の斬撃が男性の剣に叩き付けられた。

 そして、その衝撃に耐えかねたように、男性の剣は内側からバラバラに破壊されていた。


(――――孤高の魔王、か)


 鹿羽はフット・マルティアスの戦う姿をあまり見たことが無かったが、その姿は間違いなく強者のそれだった。


「――――いやー、強いですね。無理無理。魔王には勝てません」


 そして男性は両手を上げると、一転、気楽な様子でそう言った。


「…………知ってたのか」

「ビックリしましたけどね。まさか魔王三人が新月草の花を採りに来るなんて思いませんでした」


 男性はそう言うと、鹿羽とアイカの二人に視線を移した。


(俺が魔王ってのも知ってたのか。思ったより顔が割れてるのかもな……)


 鹿羽自身、あまり魔大陸で派手なことはしていないつもりだったが、面識の無い相手にも顔を知られているようだった。


「――――花はこの先に沢山生えてますよ。ここだけの話ですけど、良い感じの地脈の上じゃないと新月草って花を咲かせないんですよね。まあ、根っこからどんどん増えるんで、咲かなくても特に問題は無いんですが」

「お前はここで何してたのだ?」

「いつも通り新月草を集めに来ただけですよ。時々こうやって、戦いを挑んだりしますけどね。正直相手が相手だったので迷ったのですが、やはり我慢出来ませんでした」


 男性は苦笑いしながらそう言った。


「こっちです。ほら、沢山生えているでしょう?」


 男性の案内の元、鹿羽達は少し歩くと、そこには一面を埋め尽くすほどの花園が広がっていた。


「おお!! 凄く綺麗だな!!」


 目の前の美しい光景に、アイカは興奮した様子でそう言った。


「良かったな。フット・マルティアス」

「…………ああ」


 鹿羽達は、新月草の花を手に入れた。


 三


 場所は魔大陸。


 無事に新月草の花を手に入れた鹿羽達は、アイカと別れた後、フット・マルティアスの故郷である小さな集落に戻って来ていた。


 そしてフット・マルティアスは、幼馴染であり想い人でもあるミクリアにサプライズプレゼントを試みていた。


「…………ミクリア。これを受け取って欲しい」

「……! もしかして新月草の花? よく見つけてきたね」

「…………あ、ああ」


 フット・マルティアスは緊張した様子でそう言った。


(頑張れ!! マルティアス!!)


 鹿羽は物陰に身を潜めながら、フット・マルティアスにエールを送った。


「嬉しい。お母さんに自慢するね」

「…………み、ミクリア。お願いが、ある」

「……? なあに?」

「…………俺と、その、友達になって欲しい」


 フット・マルティアスは声を振り絞るようにそう言った。


 対するミクリアは呆然としたような表情を浮かべると、クスリと笑い、そして堪え切れなくなったように大きな声で笑った。


「…………だ、駄目か?」

「マルティアス、全然変わってないね」

「…………そうか?」

「……家を出たのって、私に告白する為だったんでしょ? 強くなろうって」

「…………し、知っていたのか」

「マルティアスのお母さん、すぐに教えてくれたよ。けっこう嬉しかったかな」


 ミクリアは、穏やかな表情を浮かべながら続けた。


「――――でも、マルティアス、中々帰ってこなかったよね。魔王になったのだって、初めは信じられなかった。だってマルティアス、弱虫だったし」

「…………」

「魔王ってモテるでしょ? 族長の一人娘とでも直ぐに結婚出来ちゃうだろうし、もう私のことなんて忘れちゃってるのかと思ってた」

「…………忘れたことはない。ただ、気まずくて帰れなかっただけだ」

「ふふ。ならもっと早く帰って来てよね」


 ミクリアは笑いながら、咎めるようにそう言うと、対するフット・マルティアスはバツが悪そうな表情を浮かべた。


「――――私達は友達じゃなかったの? 違うでしょ? もっと自分に自信を持って。貴方はもう弱くないんだから」

「…………あ、ああ」


 フット・マルティアスは大きく息を吸って、そして吐いた。


「――――ミクリア。俺と、恋人になってくれ」

「……うん。嬉しいよ。マルティアス」


 瞬間、ミクリアはフット・マルティアスと唇を重ねた。


 フット・マルティアスは、一瞬何が起こったのか分からなかった。


「顔が真っ赤だよ? マルティアス」

「…………そ、そうか」

「ふふ。可愛いね」


 ミクリアは意地悪にそう言ったが、ミクリアの顔もまた少しだけ赤くなっていた。


「母さん! マルティアスは上手くいったか!?」

「お父さん! そんな大きな声を出したら二人に聞こえちゃうでしょ!?――――きゃ!?」


(今日は良い日だな……。――――うお!?)


 フット・マルティアスの告白が成功し、一人感動していた鹿羽だったが、いつの間にか後ろに居たフット・マルティアスの両親に押される形で、物陰の外へと飛び出してしまった。


「…………見ていたのか」

「わ、悪い……。つい気になってな……」


 色恋沙汰に顔を突っ込む野次馬みたいになってしまった鹿羽は、申し訳なさそうにそう言った。


「――――でも、上手くいったようで何よりだ」

「……ありがと。マルティアスの背中を押してくれて」

「あ、ああ」

「最初、マルティアスのお嫁さんかと思っちゃった。男だと分かって、もっとビックリしたけど」

「……さいですか」


 ミクリアの思わぬ発言に、鹿羽は少しだけダメージを負った様子でそう言った。


「――――マルティアス。俺は国に戻るが、お前はどうするんだ?」

「…………しばらく故郷でゆっくりしようと思う」

「そうか。頑張れよ」

「…………ああ」


「…………カバネ」

「……? 何だ?」

「…………ありがとう」

「……ああ」


 鹿羽は、少し嬉しそうにそう言った。


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