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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
143/200

【143】不穏な力


 一


 冷たい雨が降り注いでいた。

 金属同士がぶつかり合うような音が断続的に響き渡り、時に火花を散らしながら、“二本の剣”は瞬いていた。


「……」


 二人の少年少女が、剣を振るっていた。


 少女の左肩には貫かれたような傷があり、そこからとめどなく赤い液体が流れ出ていた。

 少年の左目には抉られたような跡があり、その姿は、見る者全てに嫌悪感を抱かせるほど痛々しいものになっていた。


「――――ッ!!」


 少女の名はリフルデリカ。

 少年の名は鹿羽。


 二人の姿形は非常によく似ていた。

 二人が持つ剣は、ほぼ同じものだった。


 そして二人は、何の躊躇いもなく殺し合っていた。


「は――――!」


 鹿羽は果敢に踏み込むと、対するリフルデリカは待っていたかのように足払いを仕掛けた。

 片方の足を払われ、バランスを崩した鹿羽は、リフルデリカの追撃を防ぐ為に剣を振るった。


 しかしながら、鹿羽の斬撃は容易く受け流されると、リフルデリカの剣は鹿羽の首を捉えた。


 そして。


「――――」


 そして、鹿羽の首は呆気なく地に落ちた。


「……」


 しかしながら、リフルデリカの剣が止まることはなかった。


 リフルデリカは、何の躊躇いもなく剣を鹿羽の心臓に突き立てると、そのまま斬り払うように横へ振るった。

 そして四肢を斬り落とし、両脇腹、そして胴部にも剣を突き立てると、リフルデリカはようやく剣を振るうのをやめた。


「……」


 リフルデリカは大きく息を吐いた。


 リフルデリカの前には、切断された無残な遺体が横たわっていた。

 リフルデリカは感情の読めない表情のまま、静かに遺体を見下ろしていた。


「……どういうことなんだろうね」


 リフルデリカは、まるで理解出来ない感情を吐き出すかのようにそう言った。


 リフルデリカの手には、肉を斬る時に感じられるリアルな感触がこびり付いていた。

 地面に広がる血液は雨水や泥と混じり合い、その臭いは鼻を覆いたくなるほどのものだった。


 リフルデリカの目の前に転がっているものは、凄惨な現実の筈だった。


 しかしながら。


「――――どうして君は、生きているんだい?」


 リフルデリカの後ろには、左目から血を流しながら笑う少年が居た。

 少年はもはや狂気を感じさせるほどに、楽しそうに笑っていた。


「――――」


 少年――鹿羽は、その手に握り締めた剣を振るい、リフルデリカへ肉薄した。

 対するリフルデリカは冷静に剣を合わせ、鹿羽の連撃を防いだが、僅かな隙を縫うように繰り出された鹿羽の蹴りがリフルデリカの身体を大きく吹き飛ばした。


「……っ」


 すかさず鹿羽は追撃を加えようと剣を振るったが、今度はリフルデリカの蹴りが鹿羽の胴部を捉え、同様に鹿羽の身体を吹き飛ばした。


 そしてリフルデリカは鹿羽の遺体があった筈の場所に目を向けると、そこには何も無かった。


(――――冷静に考えれば、僕がカバネ氏の幻術に掛かっていると判断するのが妥当な所かな。だけれど、いくらカバネ氏でも僕を幻術の類いに嵌めるのは難しい筈。そして僕が今味わっているこの感覚が、幻術によって作り出された虚構とは言い難い。僕は確かにカバネ氏と戦い、そして確実に殺した筈なんだ)


 リフルデリカは再び、鹿羽の方へと視線を移した。

 鹿羽は何も言わず、ただ楽しそうに笑っていた。


(しかしながら、現にカバネ氏は何事も無かったかのように生きている……)


 リフルデリカは、抉られた筈の鹿羽の左目が怪しく光っているのに気が付いていた。


(――――まるで、時間そのものを巻き戻したみたいに)


 再び、鹿羽はリフルデリカの元へ飛び出した。

 鹿羽は普段の動きとは異なる、滑るような動きでリフルデリカに肉薄すると、身体を大きくしならせて、そのまま勢いよく剣を叩き付けた。

 対するリフルデリカは巧みに剣を合わせることで衝撃を受け流すと、鹿羽の顔面を目掛けて突きを繰り出した。


 しかしながら、鹿羽はその突きを顔に触れるか触れないかというギリギリで回避すると、カウンターとばかりに斜め下から剣を振るった。


「――――っ!! はあ!!」


 瞬間、リフルデリカは剣の先端で鹿羽の斬撃を弾くという神業じみた芸当を見せると、そのまま鹿羽の首を狙って剣を振るった。


 そして再び、鹿羽の首は地面へと落下した。


「……随分と奇妙な術を隠し持っていたんだね。正直、驚いたよ」


 しかしながら、少年は笑いながら立っていた。


 リフルデリカが斬り落とした筈の首はいつの間にか無くなっており、何事も無かったかのように少年はリフルデリカの前に立ち塞がっていた。


(――――これがカバネ氏が持つ“狂気”、か……。時間の流れそのものに干渉する魔法や魔眼の存在は古い文献にも残っているけれど、時間そのものを巻き戻すなんて、まさに魔術の極致といえる芸当じゃないか……)


「――――<冥神/ハ・デス>」


 鹿羽は小さな声で詠唱を完了させると、“闇”が再び姿を見せた。

 そして“闇”は渦巻きながら爆発的に体積を増やすと、リフルデリカを飲み込もうと再び四方八方に噴出した。


(――――でも、その代償は想像を絶するほどに大きい筈。何度も使える代物じゃない筈さ!!)


 リフルデリカは大いなる“闇”を前にしても、臆することはなかった。

 リフルデリカは果敢に飛び出すと、迫りくる“闇”を斬り払い、時に自身の身体を大胆にひるがえしながら、鹿羽との距離を詰めた。


 そして再び、リフルデリカの剣が鹿羽の首を狙って振るわれようとした瞬間。


「――――!!?? うお!?」


 鹿羽は間抜けな声を上げると、慌てた様子でリフルデリカの斬撃を回避した。

 そして鹿羽は、そのまま転がるようにリフルデリカから距離を取ると、頭を押さえながら、苛立った様子で口を開いた。


「くそ……っ。何したんだよリフルデリカ……っ」

「……? 僕達は今、本気で殺し合っているんだろう? 君を殺す為にやっただけさ。――――それに、君のその能力は非常に興味深い。詳しく教えてくれないかな?」

「あ……? 何の話だ?」


 リフルデリカの質問に対し、鹿羽はイマイチ理解出来ていない様子でそう言った。


(――――まさか、自分の能力を自覚していない? 僕が何かしたと勘違いしているのか……?)


 鹿羽は怪訝な表情を浮かべながらリフルデリカのことを睨み付けていた。

 そして、対するリフルデリカも不審な表情を浮かべていた。


 リフルデリカは、鹿羽のことを少なくとも二回殺していた。

 しかしながら鹿羽はただ単純に蘇るのではなく、まるでその死が無かったかのように復活していた。


(――――あの状態は無意識だったのか、それともカバネ氏の内に潜む別の人格が行動を起こしたのか……)


 いずれにせよ、リフルデリカにはその力の正体が何なのか、よく分からなかった。


「――――なあ。この辺で引き分けってことにしないか……? お前もボロボロだろ……?」

「愚問だね。君という最高の素材を前にして、みすみす見逃すだなんて真似はしないよ。――――それに、ここは僕を倒さないと出られない仕組みになっている。どの道、君は逃げられない」

「は……っ! そうだろうなと思ったぜ……。やるって言うなら、俺だって出し惜しみはしねえよ……!」


 鹿羽はそう言うと、透き通った綺麗な宝石を幾つか取り出した。

 それらは鹿羽達がプレイしていたゲームに登場する、魔法のキャストタイムを省略するアイテムだった。


「道具に頼るとは、ね」

「頼らざるを得ない状況みたいなんでな……。悪く思うなよ……?」


 鹿羽はそう言うと、その手に握り締めた宝石に力を込め、魔法を詠唱した。


「――――<祓う闇王/ダークロード>!!」


 宝石が砕け散る音と共に、巨大な“死”が顔を覗かせた。


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