表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
131/200

【131】離別


 一


(見つけた……っ)


 鹿羽の生体反応が途絶えたという報告を受けた麻理亜は、最強戦力の一角であるB・ブレイカー・ブラックバレットを現地に派遣していた。


 そして魔大陸へと渡ったB・ブレイカー・ブラックバレットは、倒れている鹿羽の前で立ち尽くしている謎の女性と対峙していた。


(カバネ様を殺害し、その蘇生を防ぐ為に見張っているのか……? しかし、蘇生を防ぎたいのであれば徹底的に遺体を損壊させればいいだけの筈……。無論、そんなことは絶対にさせはしないが……)


 女性はピクリとも動く様子は無かったが、その淀んだ瞳は確かにB・ブレイカー・ブラックバレットのことを捉えていた。


(心なしか、マリー様に似ているな……。だが奴は敵。手加減はすべきではなかろう。――――しかし、この威圧感……。簡単には勝たせてもらえなさそうだな……)


 B・ブレイカー・ブラックバレットは、滅多なことが無い限り自分が負けることは無いと思っていたが、目の前で静かに立っている謎の女性は、そんなB・ブレイカー・ブラックバレットに警戒を抱かせるほどに異様な雰囲気を放っていた。


(――――先手必勝。仕掛けてこないということであれば、こちらからいかせてもらう! 貴様の後ろに居る御人は! 何人も傷つけてはならない尊い御方だということを知れ!)


 しかしながら、相手がどれだけ強かろうと、B・ブレイカー・ブラックバレットには関係のない話だった。

 たとえ自分が勝利する可能性が微塵もなかったとしても、B・ブレイカー・ブラックバレットには忠誠を誓う主君の為に死ぬ覚悟があった。


「はあああああああ!!」


 B・ブレイカー・ブラックバレットは光輝く斧を握り締め、謎の女性に向かって飛び出した。


 その瞬間。


「――――これ以上、傷付けないで」


 謎の女性はハッキリとした口調で、咎めるようにそう言った。


 そして次の瞬間には、謎の女性は何処にも居なかった。


「……っ!?」


 標的として確実に捉えていた筈の女性が一瞬にして消失した為、B・ブレイカー・ブラックバレットは焦った様子で辺りを見渡した。

 しかしながら、この場にはB・ブレイカー・ブラックバレットと倒れた鹿羽の二人しか居なかった。


(気配も完全に消失している……。な、何だったんだ……?)


 B・ブレイカー・ブラックバレットは、まるで幻覚を見た気分だった。


 B・ブレイカー・ブラックバレットは何が起きたか分からず、一瞬だけ呆然としたが、どうして自分がここに居るのかを思い出した。


「カバネ様……っ!」


 B・ブレイカー・ブラックバレットは慌てた様子で、倒れた鹿羽の元へと駆け寄った。


 おびただしい出血の跡が残っていたものの、目立った外傷は無く、鹿羽の肺は確かに空気を取り込んでいるようだった。


(良かった……っ。まだ生きていらっしゃる……。――――早く、C・クリエイターの元にお連れしなければ……)


 B・ブレイカー・ブラックバレットはもう一度周辺の状況を確認すると、速やかにC・クリエイター・シャーロットクララへと連絡を行った。


 二


 場所は鹿羽達のギルド拠点。

 その内部の、医務室にて。


(――――見覚えのある天井、か)


 B・ブレイカー・ブラックバレットによって救出された鹿羽は、自分がギルド拠点の医務室のベッドに寝かされていたことを直ぐに理解した。


「……なあ。楓。苦しいから少し力を緩めてくれないか?」

「嫌である」

「……そうか」


 強い力でしがみ付く楓に対し、鹿羽は淡々とした様子でそう言った。


「――――我々がどれだけ心配したか……。鹿羽殿はキチンと理解しているのか?」

「……悪かった。でも予想以上に手強い相手だったんだ。――――腹をブチ抜かれたところまでは覚えているんだが、その後どうなったか知ってるか?」

「腹、であるか……? 鹿羽殿を救出したのはブラックバレットだった筈である。ブラックバレット曰く、麻理亜殿に似た女性が鹿羽殿の傍に居たそうであるが……」

「それは本当か?」

「う、うむ……」


 鹿羽の問い掛けに、楓は自信無さげに頷いた。


(もしかしてエシャデリカが居たのか? 居た筈のダイヤモードが居なくなっていて、俺が生き残っているってことは……。――――まさか、エシャデリカに助けられたってことになるのか……?)


 自分の知らない間に予想外の出来事に巻き込まれていることを知った鹿羽は、医務室のベッドの上で考え込むように顎に手を当てた。

 そんな鹿羽を前に、医務室の壁に身体を預けていたローグデリカが口を開いた。


「――――怪訝な顔をしているな。何か不思議なことでもあったか?」

「……いや、どうだろうな」


 ローグデリカの言う通り、確かに不思議なことを経験した鹿羽だったが、それを口にして良いのかどうか、今の鹿羽には分からなかった。


「――――やあ。カバネ氏。少し話したいことがあるんだけれど、いいかな?」

「……? リフルデリカか。別に構わないが……」

「出来れば二人きりで話したいんだよね。いいかな?」


 医務室の入り口に立っていた少女――リフルデリカは、何てことないようにそう言った。


 しかしながら、ローグデリカが何かを感じ取ったのか、一瞬だけ険しい表情を浮かべると、いつも通りの素っ気ない態度で口を開いた。


「――――別に隠すこともないだろう。ここで話せ。魔術師」

「君に聞いた訳じゃないんだけどね……。分かったよ」


 リフルデリカは呆れた様子でそう言うと、再び鹿羽に視線を投げ掛けた。


「――――カバネ氏。今、君からとてつもなく嫌な臭いがするんだよね。腐った卵の臭いとでも言えばいいのかな?――――何か心当たりはあるかい?」

「血の臭いの間違いだろ。何だよ。腐った卵の臭いって」

「ああ。ごめんよ。それはあくまで比喩的な表現に過ぎないんだ」


 リフルデリカは気に留める様子もなく、そのまま続けた。


「――――エシャデリカに会ったね? あまり君のことを疑いたくはないんだけれど、彼女に変なこと吹き込まれていないだろうね?」


 リフルデリカの射抜くような視線に、鹿羽は何とも言えない表情を浮かべた。


「……そのことだが、どうしてお前はそんなにもエシャデリカを憎んでいるんだ?」

「愚問だね。彼女は許容されていい存在じゃない。それだけだよ」

「そんなの理由になっていないだろ。奪われたとか、殺されただとか、具体的な理由もなしにそんな――――――――」

「――――ああ。もう君は彼女に毒されてしまったんだね。非常に残念だよ」


 リフルデリカは鹿羽の言葉を遮りながら、失望を隠さずにそう言った。


 そして。


「――――<軛すなわち剣/ヨーク>」


 リフルデリカは光の剣を握り締め、鹿羽の首を斬り落とさんと飛び出していた。


「――――させると思うか? 魔術師」

「……っ。周りを散々振り回していた君が、そんな行動に出るとはね……」


 金属同士がぶつかり合うような音と共に、火花が激しく飛び散った。


 鹿羽を守るように飛び出したローグデリカによって、リフルデリカの奇襲は防がれていた。


「リフルデリカ殿! 急にどうしたであるか!?」

「はっ! 裏切ったのはカバネ氏の方だろう!?」

「……リフルデリカ。血迷うな。俺はエシャデリカとは会ったかもしれないが、話はしていない。別の奴からお前の話を聞いたんだ」

「ならそいつの正体はエシャデリカか、その卑しい従者達に違いないね。――――君、騙されてるよ」

「ああ。そうかもな。ハッキリ言って、そいつが言ったことは支離滅裂で根拠の無いものばかりだった。だから、答え合わせをしようって言ってるんだ」

「……いいよ。聞こうじゃないか。君の答えとやらを」


 リフルデリカは敵意に満ちた視線を鹿羽に投げ掛けたまま、吐き捨てるようにそう言った。


「――――“世界意思”っていうのは本当に実在するのか? お前は……、いや、お前も、どこまで知っているんだ?」


 鹿羽は、淡々とした様子でそう問い掛けた。


 対するリフルデリカは、無表情のままだった。


「――――答えは出たようだ。“世界意思”の存在は僕とエシャデリカしか知らない。隠された真実を君が知っているということは、もう答えは一つしかない……。――――君は僕の言うことよりも、エシャデリカの言うことを信じるんだね」


 リフルデリカは残念そうに言うと、再び強く光の剣を握り締めた。


「……っ!? 待て! 俺はポタージュっていう人から“世界意思”の話を聞いたんだ! お前は何か勘違いをしている!」

「はっ! それこそありえない話だ! ポタージュは古の賢者の名前さ! どれだけ昔かも分からない、超古代文明よりも昔に居たと言われている偉人の名前だよ! 君はどれだけ騙されれば気が済むんだい!?」

「んな……っ」

「鹿羽。少し下がれ。――――さあ、魔術師。来るなら来い。二度とその生意気な口を利けないようにしてやる」

「はっ! 君の方が百倍生意気だと思うけどね」


 リフルデリカは吐き捨てるようにそう言ったが、剣を構えたローグデリカと楓を前に、下手に動くことが出来ないでいた。


 そして、リフルデリカは忌々しそうに舌打ちをした。


「――――もう、いいよ。理解者が一人居なくなっただけの話さ。僕はこれからもエシャデリカを殺す為に生きる。君は君の人生を生きる。お互い、違う道を選んだだけの話だろう」

「……リフルデリカ。お前のその使命は、絶対に譲れないものなのか?」

「愚問だね。そう言った筈だよ。たとえ君のことを殺してでも、僕はエシャデリカを殺すのさ」

「……そうか」


 断言するようにそう言ったリフルデリカに、鹿羽は何とも言えない表情を浮かべながらそう言った。


「――――僕のことを殺すかい? それとも牢屋行きかな? 一国の要人の殺人未遂……。僕の記憶では、斬首刑が相当かな?」

「……行けよ。エシャデリカのことを死ぬほど殺したいんだろ? お前の勝手にすればいいじゃねえか」

「――――どういう風の吹き回しだい? それもエシャデリカの指示通りなのかな?」

「何も信じられないだけだ。エシャデリカのことも。ポタージュって奴が言ったことも。――――そしてお前の言うこともな」

「はっ! 君は空っぽな人間だね。誰を信じればいいのかさえも分からないというのかい?」

「……ああ。そうだな。――――だから、お前の言うこと“も”信じる。好きにしろよ。リフルデリカ」

「……」


 鹿羽の言葉に、リフルデリカは一瞬だけ表情を歪めた。


「――――今生の別れだ。カバネ氏。もう二度と会うこともないだろうね」

「どうだろうな。俺はすぐに再会しそうな気もするが」

「……。――――<転移/テレポート>」


 リフルデリカは静かに転移魔法を唱えると、そのまま跡形も無く消失した。


「か、鹿羽殿……。追いかけなくていいのであるか……?」

「ああ。あんな奴なんか放っておけ。俺らだって戦争の準備で忙しいんだ」

「……そう、で、あるか」


 楓は、少し悲しそうな表情を浮かべながらそう言った。


「お前にしては随分とアッサリしているな。もう少し動揺するものだと思っていたが」

「何となく分かってたからな。仕方ない」

「――――“世界意思”と言っていたな。お前は何を知っていて、何を抱え込んでいる? あの魔術師と離別したのも予定通りか?」

「どうだろうな。分からん」

「……ふん」


 鹿羽の言葉に、ローグデリカは不満そうに鼻を鳴らした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ