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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
116/200

【116】闘技大会④


 一


 統一国家ユーエスで開催されている闘技大会決勝トーナメント。

 その二回戦の第二試合にて。


 ボーっとしたような素振りを見せるE・イーター・エラエノーラを前に、魔術師エルメイは緊張したような様子を見せていた。


(エラエノーラ様って確か……、もしかしなくてもグローリーグラディス様の関係者っていうか、同格の人だったよね……。いくら僕が大天才だからといって、人間やめちゃってる相手と戦うなんて無理があり過ぎるような気が……)


「正々堂々、戦おう、ね」

「ハ、ハイ……。ヨロシクオ願イシマス……」

「ふわ……? 大丈夫? 元気、ないよ?」

「元気デス……。ハイ……」

「……?」


 緊張した面持ちで返事をするエルメイに対し、E・イーター・エラエノーラは不思議そうに小首をかしげた。


 エルメイは、E・イーター・エラエノーラが何者かを何となく知っていた。

 そして、絶対に敵わない相手であることも何となく分かっていた。


(ええい! 後ろ向きなことばかり考えてもしょうがない! 僕は類い稀な才能を持つ大魔術師で! 逆に言えばカバネ様やグローリーグラディス様から魔法を教わるほどの実力者なんだ! 魔力量ならそこまで負けてないし! 頑張れば勝てる! 多分!)


 しかしながら、エルメイには物事を前向きに考える能力があった。

 天才と評するに相応しい魔術の才能により、エルメイ自身あまり挫折を知らないというのも大きかったが、G・ゲーマー・グローリーグラディスによる厳しい訓練によって自分の力が確実に伸びてきているという実感もまた、エルメイの自信に繋がっていた。


「両者! 構え!」


(負けるって思うから負けるんだ。第六階位魔法なら十分に通用する筈さ)


 エルメイは静かにE・イーター・エラエノーラを見据え、魔力を集中させた。


 二


「ふわ……。大丈夫?」

「ダ、大丈夫デス……。ハイ……」

「思ったより強かったから。少しだけ、本気、出しちゃった」


 ボロボロになったエルメイを前に、E・イーター・エラエノーラは淡々とそう言った。


 試合開始直後、エルメイは果敢に立ち向かい、E・イーター・エラエノーラに近距離から魔法をぶつけていた。

 意表を突かれたE・イーター・エラエノーラは思うように反撃が出来ず、エルメイの攻撃を一方的に受ける形となっていた。


 しかしながら、それだけだった。


 やがてE・イーター・エラエノーラは体勢を立て直すと、降り注ぐ魔法を強引に掻き分け、エルメイに一撃を叩き込んだ。

 そしてエルメイは戦闘不能となり、試合はE・イーター・エラエノーラの勝利で終わっていた。


(こんなの勝てる訳ないじゃん……。どうしろっていうのさ……)


 G・ゲーマー・グローリーグラディスと同様に、決して届かない領域を垣間見たエルメイは、心の中で投げやりにそう吐き捨てた。


 三


 エルメイとE・イーター・エラエノーラの試合はE・イーター・エラエノーラの勝利で終わり、闘技大会決勝トーナメント二回戦は第三試合が始まろうとしていた。


「ヘライタって奴、まだ出てこねえのか」

「シルヴェスター様を待たせるなんて許せないわ!」


 当初の予定では、予選を勝ち抜いたヘライタという男とS・サバイバー・シルヴェスターが試合をする手筈となっていたが、時間になってもヘライタは闘技場のフィールドに姿を見せなかった。


(気配、無し。これは不戦勝でござろうか……)


『お知らせ致します。二回戦第三試合出場予定でしたヘライタは、腹痛により、棄権することが決定致しました』


 そして、実質的に試合が無くなったことを意味するアナウンスが闘技場に響き渡ると、闘技場に居た観客達は不満を爆発させるように一層騒がしくなった。


「おいおい。そりゃ無いぜ」

「シルヴェスター様の試合を観る為にわざわざダルストンから来たのよ!?」


(……御方々の期待に応えたかったところでござるが、仕方あるまい)


 S・サバイバー・シルヴェスターは鍛錬の成果を見せる機会が一つ減ったことを残念に思っていた。

 しかしながら、体調不良なら仕方ないとも感じていた。


 その瞬間。


「おい。今、空が一瞬光らなかったか?」

「あん? 気のせいだろ」

「そうかな……。あ! あれだあれ! 光ってる!」

「え? 何で光ってるの?」


 観客の数人は空を指差した瞬間、”何か”が轟音を響かせながら、S・サバイバー・シルヴェスターの前に降り立った。


「――――面白そうなことやってるな! アタシも混ぜろ!」


 ハツラツとした少女の声だった。


 その正体は暴虐の魔王と呼ばれている、野性的な少女だった。


 四


「なあ。あれってアイカだよな……」

「…………あ、ああ」

「何で居るんだ……?」

「…………分からない」


 昨日に引き続き試合を観戦していた鹿羽とフット・マルティアスは、突然現れた暴虐の魔王アイカの姿に顔を見合わせていた。


「乱入者であるか! これは熱い展開である!」

「何だか楽しそうなことになってきたねー。――――あ、シャーちゃんから連絡みたい。はーい。もしもしー? んー? もちろん大丈夫だよー? はーい。じゃあねー」

「麻理亜。何かあったか?」

「シャーちゃんから飛び入り参加を認めるべきかどうか連絡がきたのー。もちろんオッケーしたわ」

「したのか……」

「だって面白そうじゃない? 観客のみんなも待たされてイライラしてるだろうしー、盛り上げてくれるなら何でもいいかなーって」


 麻理亜は気楽な様子でそう言った。


「…………カバネ。本当に良いのか? 分かってるとは思うが、暴虐の魔王は強いぞ」

「ま、まあ。何とかなるだろ……。多分……」

「ふふ。さて、どっちが勝つのかしらねー」


 心配そうな様子で闘技場のフィールドを見つめる鹿羽やフット・マルティアスとは対照的に、麻理亜は気楽な様子でそう呟いた。


 五


 突然闘技場のフィールドに現れたアイカは、S・サバイバー・シルヴェスターと目が合うと、嬉々とした様子で口を開いた。


「ふはは! まずはお前からだな!」

「待たれよ。ここは然るべき資格を持った者しか立つことを許されないでござる」

「シカルベキ資格だと!? そんなもの聞いていないぞ!」

「あ、あの……。シルヴェスターさん。少しよろしいでしょうか……」

「どうしたでござるか?」

「大会の主催者様からのご連絡で、シルヴェスターさんには是非彼女の相手をして頂きたいと……」


 乱入者の参加など認められる訳がないと思っていたS・サバイバー・シルヴェスターにとって、審判の男から説明された内容はにわかに信じがたいものだった。


「それは”まこと”でござるか?」

「は、はい……」

「おい! どうした! ここで逃げるなんて卑怯だぞ!」


 S・サバイバー・シルヴェスターはしばらく考え込むような素振りを見せると、やがて納得がいったように頷いた。


「――――承知。そういうことであれば、拙者から言うことは何もないでござる」

「あ、ありがとうございます」

「お? やるのか?」

「然り。いざ尋常に勝負でござる」


『えー、皆様大変お待たせ致しました。試合を棄権したヘライタに代わりまして、謎の乱入者エックスが試合に出場することになりました。えー、これより、シルヴェスター対エックスの試合を開始致します』


「おいおい。試合やるみたいだな」

「シルヴェスター様が戦って下さるなら何でもいいわ」


 一転、突然現れたアイカとS・サバイバー・シルヴェスターの試合が決まった闘技場は、その混乱すらも飲み込むように大きく盛り上がった。


「お前、強そうだな!」

「強く在るのが拙者の義務でござる。――――手加減は無用」

「おう! 正々堂々勝負だ!」


 S・サバイバー・シルヴェスターの眼光が鋭くなり、対する暴虐の魔王はニヤリと笑った。


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