【115】闘技大会③
一
統一国家ユーエスで開催されている闘技大会決勝トーナメント。
その第一日程が無事に終了し、二回戦へと進出した強者達が顔を揃えていた。
統一国家ユーエス公認魔術師、アポロ。
ミズモチ騎士団所属、ジョルジュ・グレース。
謎の仮面少女ニームレス改め、リフルデリカ。
予選を無傷で通過した驚異の戦士、プラーム。
一回戦の相手を一撃で葬った恐るべき槍術士、E・イーター・エラエノーラ。
統一国家ユーエスの若き賢者、エルメイ。
ローグデリカ帝国の闘技大会王者、S・サバイバー・シルヴェスター。
四十分にも及ぶ大接戦を制した熱い男、ヘライタ。
一回戦を観戦した観客達であっても、一体誰がこの闘技大会の栄冠を勝ち取るのか予想出来ないでいた。
「久しぶりだなニームレ――――あれ? もしかして女になってる? いや別人じゃねえか!」
「……? ごめんよ。僕は君のことを知らないようだ。もしかして”彼”の知り合いかい?」
そして闘技大会決勝トーナメント第二回戦は、リフルデリカとプラームとの試合をもって幕を開けようとしていた。
「マジで似ているからガチで勘違いしたぜ。その、なんだ? 男の方は元気か?」
「彼の魔力に異常は見られない。きっと元気だろうね」
「一つ提案があるんだが、俺が勝ったら一緒にお茶してくんね?」
「実に魅力的なお誘いだけれど、遠慮させてもらうよ。賭け事は互いに勝利を目指すことを前提にするものだからね。残念ながら僕は頃合いを見計らって負ける必要があるんだ」
リフルデリカは淡々とそう説明したが、プラームはイマイチ理解出来ていない様子だった。
「え? どゆこと? わざと負けるってこと? まさかの敗北宣言?」
「その認識でおおよそ間違いはないと思うよ。無論、君が不甲斐無い戦い方をした場合は、流石に勝たせてもらうけどさ」
「良く分からねえことやってるな。とりあえずフラれたってことか」
「……? 良く分からないけれど、ごめんよ」
リフルデリカもまた、イマイチ理解出来ていない様子でそう言った。
「――――そんじゃ、女相手に剣を振るうのは本意じゃねえが……。負けるっていうなら勝たせてもらうぜ」
「うん。そうするといい。でも勘違いしないで欲しいのは、君が楽に勝てる訳ではないということだ。言っている意味が分かるかい?」
「うん?」
リフルデリカの不穏な物言いに、プラームが間抜けな声を上げた瞬間。
「始め!」
そして、審判が試合開始を告げた瞬間。
「――――<軛すなわち剣/ヨーク>」
武器も何も持っていなかった筈のリフルデリカの手にはいつの間にか光の剣が握り締められており、次の瞬間にはその光の剣がプラームの首筋を掠めていた。
「――――もう少しで俺の首がチョンパされてたんだけど。そこらへんどう思うの? ニームレスさんよ」
「よく避けたね。まあ君なら避けられるだろうと確信していたから、こんなことをしたんだけどさ」
「はあ。生憎、逃げたり避けたりするのが得意なもんでね。こいつぁ、久しぶりに本気を出す羽目になりそうか?」
口調こそはいつも通り気楽な様子のプラームだったが、鎧兜の隙間から覗くその眼光は鋭くなっていた。
二
場所は統一国家ユーエス首都ルエーミュ・サイ。
現在闘技大会が行われている会場の、関係者しか立ち入ることの出来ない特別な観客スペースにて。
昨日と同じメンバーで闘技大会を観戦しようとしていた鹿羽達のもとに、麻理亜が姿を見せていた。
「やっほー。今日は麻理亜ちゃんお仕事お休みなのでー、みんなと一緒に過ごせまーす。ぱちぱちー」
「誰かと思えば麻理亜か。――――ずっと働き詰めだったろ。ようやく目処がついたって感じか?」
「うーん。お仕事はまだまだ沢山あるのよねー。シャーちゃんとかラウラちゃんに割り振ったりして色々やってるけどー、やっぱり国を回すって大変なことみたい。まあ、別に後回しにしていいお仕事も沢山あるんだけどねー」
麻理亜は気楽な様子でそう言った。
鹿羽からすれば、麻理亜は仕事が出来るタイプの人間だった。
何事も素早く正確にこなし、その場その場の適応力、そして対応力も並外れていた。
要するに、麻理亜は何でも出来る人間だった。
そんな麻理亜が一日も欠かすことなく、何か月もの時間を要しても終わらない仕事とは、一体どれほどのものなのか、と。
鹿羽には想像がつかなかった。
「……俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ」
「じゃあ親善大使としてラルオペグガ帝国に行ってくれる? 平和条約を結んできて欲しいの」
「わ、分かった」
「ふふ。そんなに張り切って安請け合いしなくてもいいのにー」
冗談めいた様子で笑う麻理亜に、鹿羽も思わず笑ってしまった。
「麻理亜殿! 我は暇である! 我にも相応しい試練はないのであるか!?」
「……………………そうね。何かあったかしらー?」
「今の”間”は何であるか!? 今の”間”は!?」
「ふふふ。だいじょーぶだよ楓ちゃん。きっともうすぐ出番があるから」
「……いつであるか?」
「二か月後ぐらい?」
「むー!」
三
リフルデリカとプラームの試合は異様な展開となっていた。
互いの武器は剣だった。
それにもかかわらず、互いの剣が触れ合うことはなかった。
剣同士がぶつかり合うことで激しく音を立てることも、そして火花を散らすこともなかった。
「――――なあ。その戦い方、何処で習得したんだ?」
「何処と言われても回答に困るよ。もちろん色々なものを参考にはしているけれど、僕の戦い方を既に存在する名称で分類化することは難しいんじゃないかな」
「……もしかして俺よりも長生き? まさかの年上的な?」
「かもしれないね。きっと君は、僕の戦い方を知っている誰かのことを知っているのかもしれないね」
「やべーな。俺も結構良い歳なんだけど。マジで何者なん? 厭世の魔女とかあの辺の時代か?」
瞬間、仮面の下のリフルデリカの瞳から光が失われた。
しかしながら、その僅かな変化に気が付いた者は誰一人としていなかった。
「――――――――君は……、厭世の魔女のことをどれだけ知っているんだい?」
リフルデリカはやけに通る声でそう質問を投げ掛けた。
「ん? 知ってるも何も、有名人じゃん。なんかすげーことしたんだろ。エシャデリカ竜王国ってあるじゃん」
「……そうだね。君は良い”竜/ドラゴン”みたいだ。安心したよ」
「待って。聞き捨てならないこと聞いた気がしたんだけど。何で分かった?」
「根拠は幾らでもあるけれど、強いて言うなら”匂い”かな。悪い”竜/ドラゴン”をやっつける過程で、匂いを覚えてしまったんだ。気にしないでおくれ」
「お、おう。俺は良い”人”だから安心してくれよな……」
「ふふ。そうみたいだ」
常人では知覚することさえ困難なほど苛烈な斬り合いの中で、リフルデリカは気楽な様子でそう言った。
「あ、隙あり」
そして程なく、プラームの気の抜けた声と共に斬撃がリフルデリカの腕を斬り裂いて、リフルデリカは大袈裟に倒れこんだ。
「あいたたた。どうやら僕の負けみたいだね」
「――――勝者! プラーム!」
審判は試合の決着を宣言すると、闘技場は喝采に包まれた。
「……なんか勝った感じがしないんだけど」
「勝利が常に甘美なものとは限らないということかな。僕からすれば清々しい敗北だけれどね。これで僕は自由だ」
「はいはい。そうかよ」
リフルデリカは腕の傷のダメージを感じさせない軽い足取りで、闘技場のフィールドを後にした。
(――――”匂い”ねえ。確かにまあ、”血の臭い”はキツイよな)
プラームは、そんなリフルデリカの後ろ姿を見送っていた。
(女性の香りと比べたら雲泥の差ってもんだが、果たして血塗れの女の匂いってのは良いものなのかね)




