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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
114/200

【114】闘技大会②


 一


 統一国家ユーエスで開催されている闘技大会、その決勝トーナメントの一回戦にて。


 苛烈な予選を勝ち抜いた剣士――ボルッタと、国家の推薦によって決勝トーナメントからの出場だったアポロとの試合は、アポロの圧勝で終わっていた。

 そしてミズモチ騎士団からの推薦で出場したジョルジュ・グレースと、予選にて圧倒的な実力を見せつけて決勝トーナメントへと駒を進めたダンパインの試合は、試合中に突然申し出たダンパインの棄権により、ジョルジュ・グレースの勝利となっていた。


 予選以上にハイレベルな戦いとなった闘技大会決勝トーナメントは、予定通り、一回戦の第三試合が始まろうとしていた。


 そして、ここ闘技場のフィールドには、薙刀を構える細身の男と仮面を身に着けた少女が対峙していた。


「――――はあ」

「随分とダルそうだな。やる気あるのか?」

「やる気かい? そんなものは無いね。皆無といってもいい。しかしながら僕はここで戦わなければならない。だからといって目立つことも、勝ち抜くことも、そして楽しむことさえ許されない。あらゆる人間的な自由を奪われて今、僕はここにいる。こんなのは嫌がらせだ。退屈しのぎに計画された無意味な時間の浪費といえる。そもそもおかしいのさ。僕はあくまで彼と協力関係にあるのであって、彼女と手を組んだ覚えは一切ない。それにもかかわらず、彼女は我が物顔で僕のことをこき使っているんだ。どう思う? おかしいとは思わないかい? 第一、あの不誠実な態度は許されたものではないよ。他者に対する尊敬や配慮が全く欠落しているといって差し支えないね。あえて例えるなら、おとぎ話の悪い王様のような、自分を中心に世界が回っていると本気で信じている人種さ。ああ、実に腹立たしい。そうだ。少し聞いて欲しい話があるんだけれども。この前――――――――」


「あの、試合を始めてもよろしいでしょうか」

「……そうだね。それがいい」

「へ、変な奴みたいだな……」


 突然、不満を爆発させるように長々と文句を口にした少女に、対戦相手の男は呆れた様子でそう呟いた。


「両者、構え!」


 少女の表向きの名はニームレス。

 実の名はリフルデリカ。


「始め!」


 少女はふてくされたような様子のまま、退屈そうに腕を組んで立っていた。


 二


「何でリフルデリカが闘技大会に出ているんだ……?」

「数合わせらしいな。奴は強い訳ではないが、弱くはない。大会を盛り上げるには都合が良かったのだろう」


 ローグデリカは淡々とそう言うと、何杯目か分からないグラスを思い切りあおった。


 鹿羽達と共に試合を観戦していたフット・マルティアスは闘技場のフィールドに立っている仮面の少女に視線を移すと、何かに気が付いた様子で口を開いた。


「…………あそこにいるのは親戚なのか?」

「ああ、リフルデリカのことか? 血の繋がりは全く無い。見た目が似ているだけだ。――――”見た目”だけな」

「…………そうか」


 闘技場の様子を共に見ていたフット・マルティアスは、鹿羽の言いたいことが何となく分かった。


「鹿羽殿。リフルデリカ殿は一体どのような戦い方をするのだ?」

「本人は魔術師を自称してるが、いわゆる両刀タイプなんじゃないか? 魔法の剣をブンブン振り回したりしてるし」

「いずれにせよ、奴の本気を見られることは無いだろう。そういう奴だ」


 ローグデリカは意味深にそう呟くと、再びグラスを傾けた。


「……流石に飲み過ぎだろ。何杯目だ?」

「幾ら飲んでも酔わないのだから別にいいだろう。酒飲みの女は嫌いか?」

「そういう訳じゃないが……。飲み過ぎは良くないだろ」

「はっ! 私の身体を労わってくれるとはな……。ならばお望み通り、これで最後にするとしよう」

「そうしてくれ」

「むー」

「……楓。どうかしたか?」

「何だか見ていて複雑な気持ちになったのである」

「……ローグデリカはともかく、お前は酒飲むなよ」

「そういうことじゃないのである!」

「いや、どういうことだよ……」


 三


 薙刀を操る男とリフルデリカの試合は、互いに一歩も譲らない接戦となっていた。


 しかしながら、リフルデリカは飄々とした様子でフィールドを駆け巡り、対する男は苛立った様子で自身の薙刀を振るっていた。


「くっそ! 舐めやがって!」

「ああ。そうだね。このような戦い方は君を愚弄することになるのかもしれない。勘違いしないで欲しいのは、それが僕の本意ではないことだ。――――観客の方は盛り上がっているようで何よりだけれども」

「――――がっ!?」

「けれど、体術というのも立派な戦法の一つさ。侮ることは感心しないかな」

「このアマ……っ!」


 リフルデリカは一切の武器や魔法を使わず、格闘術のみで男と渡り合っていた。

 その身のこなしは見事であり、リフルデリカは剣を以ってしても近寄りがたい筈の薙刀の猛攻をすり抜けるようにかわしていた。


「良い攻撃だね。それ故に惜しい」

「あん?」

「君のその……、”槍捌き”とでも言えばいいのかな? 本当に見事なものだよ。きっと血の滲むような努力をしてきたんだろうね」

「何が言いたい……」

「――――才能の壁を感じただけさ。かつての僕のようにね」


 瞬間、リフルデリカの手刀が、男が握り締めていた薙刀の刃を根元からへし折った。


「は?」

「はい。僕の勝ち。まだ戦うかい?」

「こ、この野郎……っ」


 薙刀使いの男と仮面の少女――ニームレスの試合は、ニームレスの勝利に終わっていた。


 四


 場所は統一国家ユーエス。

 首都ルエーミュ・サイにある闘技場の近くに設置された、公園にて。


 試合を終えたダンパインは、公園のベンチに独り腰を掛けていた。


 近寄り難い雰囲気を漂わせていたダンパインだったが、黄金の鎧を身に纏った男が気楽な様子でダンパインに声を掛けた。


「よう。試合見てたぜ。何かあったの? 女の子の日?」

「黄金竜王プラーム……。何ノ用ダ」


 男の名はプラーム。

 南方にあるエシャデリカ竜王国にて黄金竜王という高い立場に就きながら、各地を転々とし、鹿羽とも面識を持つ色男だった。


「用がなきゃ話しかけちゃ駄目なのかよ。――――んで、実際何があったん? かすり傷で棄権なんて、流石に”どーしたん?”って話だろうよ」

「相手ガ”竜殺し/ドラゴンスレイヤー”ダッタ」

「……え、噓でしょ? 嘘は良くないぜダンパイン君。”竜殺し/ドラゴンスレイヤー”だけは俺もキチンと竜王国から情報もらってるからな。自分の名誉の為にそれっぽい嘘をつくのは……。――――マジ?」

「斬ラレタラ分カル」

「うおー。マジだったら笑えねー。――――まあ俺は死なないんですけどね。本体は国にあるし」

「実力ヲ見極メテクレ」

「……死ななくても痛覚は共有されてるからね? 斬られたら痛い痛いで泣いちゃうからね?」


 プラームはおどけた様子でそう言った。


 話しぶりこそは調子の良い男という印象が拭えないプラームだったが、彼もまた統一国家ユーエスが開催している闘技大会に出場し、決勝トーナメントにまで駒を進めていた。


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